上 下
12 / 17

12 タメリクス侯爵夫人サムウェラ(2)

しおりを挟む
「最初から疑っていた?」
「いいえ」

 ルージュは首を振った。

「昔からの友人だった貴女を疑いたくはなかったわ」
「そう? 
 でもそもそも今日のこの人選。
 もう明らかじゃないの。
 要は貴方の旦那の浮気相手を集めたんでしょう? 
 そしてその中に私も入っていた、と」
「関係を持っていたことは否定しないのね」
「ええ。
 うちのひとは何も私を諫めたりしない。
 侯爵家は、今は私が回しているのですもの。
 だから好きなことをして何が悪いの? 
 そう、結婚前から付き合いのあったひととよりを戻すということもね」
「……貴方!?」

 ルージュはきっ、と夫の方を見た。

「結婚前の付き合いについては…… お前、何も聞かなかったろう?」
「ええ。
 忘れていたのは私のミスです。
 焼けぼっくいに火がついたなんてね」
「ほほほほほ」

 高らかにサムウェラは笑った。

「焼けぼっくいじゃないわ。
 ずっと続いていたのよ。
 気付かなかったのは貴女だけだわ」
「そう」

 その間に侯爵は長椅子の方に運ばれて行く。
 医者である二人と、病院の経営者の一人であるワイター侯爵は病院への連絡を指示している。
 この時、バルコニーの人数は次第に減りつつあった。
 伯爵夫妻は娘に付き、ヘヴリアもまた、辞めるとは言えど今は看護人として動いていた。
 元々出口に近い場に居たワイルド夫妻は生来の物見高さからか、侯爵の変化の原因か何なのか、夫婦して見定めようとしていた。
 同じ様に出口近くの大きなテーブルの皆も、弁護士以外は立ち上がり、長椅子の方に視線を注いでいた。
 結果、その場に残っているのは、ルージュとティムス、対峙しているサムウェラと、置いていかれた感のマリエだけだった。
 そのマリエがふと、思い出した様につぶやく。

「媚薬…… そう、最初、ティムス様、貴方何か使いましたわね、でもあれは、媚薬ではありませんでしたわ」
「え?」
「意識が朦朧として…… 
 だから媚薬と言えば媚薬なのかもしれないけれど、それで私はそう、流されてしまった…… 
 思い出しましたわ!」
「媚薬、と俺は聞いていた…… 
 俺には薬の知識は無い。
 ルージュ、お前と違って病院の方にも関わっていない。
 薬を手にする方法が無い」
「媚薬など、裏道ですぐに手に入るものでしょう」

 するとティムスは意外なまでに真剣な表情になった。

「お前は信じないだろうが、俺は闇マーケットだけは手を出してない。
 俺はあれらの場所が怖かった。
 情けないほどに!
 ルージュ、俺は玄人女が怖かった。
 闇世界につながる全てが!」
「浮気や不倫より怖いと?
「ああそうだ!」

 拳を握り、殆ど自棄になってティムスは叫んだ。

「だから! 
 媚薬を手に入れることも、巷の避妊の方法も! 
 手を出せなかった! 
 そんな時に、サムウェラが、俺にそっと渡してくれたんだ…… 
 これがあれば、大丈夫だって……」 

 ふふ、とサムウェラは笑う。

「……媚薬というには、後で嫌な、とても嫌な夢を見たりもしたけどね。
 それが癖になってしまったんだわ……」

 その場にしゃがみ込み、頭を押さえながらマリエはつぶやく。
 ルージュはきっ、と唇を噛んだ。

「サムウェラ、それを子供達にも使ったのね!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

お針子と勘違い令嬢

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日突然、自称”愛され美少女”にお針子エルヴィナはウザ絡みされ始める。理由はよくわからない。 終いには「彼を譲れ」と難癖をつけられるのだが……

貴方のことなんて愛していませんよ?~ハーレム要員だと思われていた私は、ただのビジネスライクな婚約者でした~

キョウキョウ
恋愛
妹、幼馴染、同級生など数多くの令嬢たちと愛し合っているランベルト王子は、私の婚約者だった。 ある日、ランベルト王子から婚約者の立場をとある令嬢に譲ってくれとお願いされた。 その令嬢とは、新しく増えた愛人のことである。 婚約破棄の手続きを進めて、私はランベルト王子の婚約者ではなくなった。 婚約者じゃなくなったので、これからは他人として振る舞います。 だから今後も、私のことを愛人の1人として扱ったり、頼ったりするのは止めて下さい。

横暴男爵の夫の浮気現場に遭遇したら子供が産めないダメ女呼ばわりされて離婚を言い渡されたので、王太子殿下の子供を産んでざまぁしてやりました

奏音 美都
恋愛
夫であるドレイク男爵のマコーレ様の浮気現場に遭遇した私は、謝罪どころか激昂され、離婚を言い渡されました。 自宅へと向かう帰路、私を攫ったのは……ずっと心の中でお慕いしていた王太子殿下でした。

入り婿予定の婚約者はハーレムを作りたいらしい

音爽(ネソウ)
恋愛
「お前の家は公爵だ、金なんて腐るほどあるだろ使ってやるよ。将来は家を継いでやるんだ文句は言わせない!」 「何を言ってるの……呆れたわ」 夢を見るのは勝手だがそんなこと許されるわけがないと席をたった。 背を向けて去る私に向かって「絶対叶えてやる!愛人100人作ってやるからな!」そう宣った。 愚かなルーファの行為はエスカレートしていき、ある事件を起こす。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

婚約者のいる殿方を横取りした令嬢の末路

弥生
恋愛
伯爵令嬢マドレーナ・モーリアは幼い頃お茶会で見かけた端正な顔立ちの少年に一目惚れをした ろくなアプローチもしないまま10年の月日が流れたがマドレーナの妄想のなかでは彼は自分の『運命の人』になっていた そんなある日マドレーナの『運命の人』がクラスメートのリリー・フェルマー伯爵令嬢と婚約した事を知る マドレーナは荒れ狂い手がつけられなくなり、最終的には『彼と結婚出来ないのなら死ぬ!』とまで叫んだ 根負けした父親のモーリア伯爵は経営者としての立場を使いマドレーナの想い人と彼女が婚約出来るように動いた 父親の力を使い『運命の人』と婚約出来て有頂天になるマドレーナだったが、そこには大きな誤算があったのだ… 連載中の作品の更新が停滞している中思い付いた短編です、思い付くまま一気に書いたので後日修正を入れるかも知れません

最愛の人が他にいるのですけど

杉本凪咲
恋愛
ああ、そういうことですか。 あなたは彼女と関係をもっていて、私を貶めたいのですね。 しかしごめんなさい、もうあなたには愛はありません。

処理中です...