2 / 17
2 ルージュ、離婚の理由を語る
しおりを挟む
「ルージュ、俺はそんなこと聞いていないぞ!」
夫であるティムスはオレンジの百合と白いジャスミンの大きな花台ごしに妻をにらんだ。
「当然です。今日初めてこのことは公表するのですから。
そしてここで皆様にこれから私の説明と、様々な証拠に対する証人となっていただきたいのです」
はあ、と突然のルージュの告白に軽く腰を浮かせかけた者も、もう一度しっかり椅子に腰を掛けた。
「少々内々のことも申しますが、ご不快になられたら失礼致します」
「そんな、水くさいわ。私達の仲でしょう?」
外に最も近い見晴らしのいい場所に置かれた席から、タメリクス侯爵夫人のサムウェラが扇で半分口を隠しながら語りかける。
「ええ、結婚前からの親友の貴女にも隠していたのはとても心苦しいことだけど、今日ではっきりさせてしまおうと思ったの」
そしてルージュは夫の方を向き、微かに笑った。
「な、何だ、俺が何かしたと言うのか?」
「そうですね。まず我が家の事情を皆様にご説明しなくては」
そしてちら、と自身の右側のやや他より大きめのテーブルに視線をやる。そこには弁護士のロンダース夫妻のみが着席していた。
「まずきっかけは、私達の間に夫婦の営みが無くなって、二年近くなってしまったということです。そしてこのひとの外泊が増えたということも」
「お前がそれを望まなかったからだろう!」
「ええ。そう、ちょうど二年前、私が流産した後、しばらく体調を崩した時に、貴方のことを拒みましたね。
でもそれは仕方が無いことでしょう?
私は実際その頃ベッドから起き上がれませんでしたし、起き上がることができてからも、結構子宮の辺りを傷めたようで、夫婦の営みはすることができませんでしたから」
「ああそうだ。だから外で欲求不満を晴らしてくることくらい、世の男は皆していることじゃないか。
俺ばかり責めるな。だいたいお前はいつまで経ってもめそめそめそめそ。
辛気くさいったらありゃしない。
家に居たくなくなるのも当然じゃないか」
「私もそれは判っておりますわ。
ただそれが玄人の方だったら私も何も言いません。
それでしたら私も自分の身体がこうだから、と仕方ないと思うこともできますわ。
実際それで生活している方もいらっしゃるのだし。私はそれに対しては文句はつけませんことよ。
ただ貴方はそうではなかったでしょう?」
「仕事のことも多かったさ。
それにお前だって、身体が治ってからは、やれ領地の管理だ、ほら、ワイター家と共同経営している病院の経営だ、とか仕事に駆け回っていたじゃないか。
俺一人をそれで責める気か?」
「ええ、それは私の不注意でしたわ。
実際子供のことを忘れたくて、毎日毎日一生懸命働いていましたのよ。
それに病院の方では、医療だけでなく、親に恵まれない子供達の養育にも手を広げだしましたから。
だから貴方の外泊が仕事以外のことで多くなって、しかもそれが玄人の方相手でなかったことに、なかなか気付けなかったのですよ。それは私のミスでした」
立て板に水がごとく語るルージュに、皆その合間を縫う様にメイドが茶を淹れていくにも関わらず、それに手をつけることもできなかった。
「ああそう、そう言えば、今日はそちちらのお席に、もう一組の方をお招きしておりますの」
ルージュはそう言うと、ベランダにつながる窓の方に立つメイドに合図をした。
「……え、父上母上…… それに、兄上達まで…… お前が呼んだのか?」
「ええ。この際きちんと見届けていただきたく思いまして。
お久しぶりでございます。お義父様、お義母様、それに義兄様方」
「久しぶりだなルージュどの。其方の仕事ぶりはよく耳に入ってくるぞ」
「貴女はまた働き出すと止まらないひとだから、身体を壊さないか、はらはらしていたのだけど、元気なようね」
「おかげさまで、私は元気です。
今日はわざわざご足労ありがとうございます。
様々なことが明らかになったら、その時にはお手数をおかけ致しますが」
「うむ、それは仕方がないことだ。存分にやるがいい」
「ありがとうございます」
そして四人は弁護士の居るテーブルについた。
ガーベラと小手毬が飾られたその席には、新たに席とお茶の用意がされる。
「ではまず、ワイター侯爵夫人マリエ様」
さっ、とマリエの顔色が変わった。
夫であるティムスはオレンジの百合と白いジャスミンの大きな花台ごしに妻をにらんだ。
「当然です。今日初めてこのことは公表するのですから。
そしてここで皆様にこれから私の説明と、様々な証拠に対する証人となっていただきたいのです」
はあ、と突然のルージュの告白に軽く腰を浮かせかけた者も、もう一度しっかり椅子に腰を掛けた。
「少々内々のことも申しますが、ご不快になられたら失礼致します」
「そんな、水くさいわ。私達の仲でしょう?」
外に最も近い見晴らしのいい場所に置かれた席から、タメリクス侯爵夫人のサムウェラが扇で半分口を隠しながら語りかける。
「ええ、結婚前からの親友の貴女にも隠していたのはとても心苦しいことだけど、今日ではっきりさせてしまおうと思ったの」
そしてルージュは夫の方を向き、微かに笑った。
「な、何だ、俺が何かしたと言うのか?」
「そうですね。まず我が家の事情を皆様にご説明しなくては」
そしてちら、と自身の右側のやや他より大きめのテーブルに視線をやる。そこには弁護士のロンダース夫妻のみが着席していた。
「まずきっかけは、私達の間に夫婦の営みが無くなって、二年近くなってしまったということです。そしてこのひとの外泊が増えたということも」
「お前がそれを望まなかったからだろう!」
「ええ。そう、ちょうど二年前、私が流産した後、しばらく体調を崩した時に、貴方のことを拒みましたね。
でもそれは仕方が無いことでしょう?
私は実際その頃ベッドから起き上がれませんでしたし、起き上がることができてからも、結構子宮の辺りを傷めたようで、夫婦の営みはすることができませんでしたから」
「ああそうだ。だから外で欲求不満を晴らしてくることくらい、世の男は皆していることじゃないか。
俺ばかり責めるな。だいたいお前はいつまで経ってもめそめそめそめそ。
辛気くさいったらありゃしない。
家に居たくなくなるのも当然じゃないか」
「私もそれは判っておりますわ。
ただそれが玄人の方だったら私も何も言いません。
それでしたら私も自分の身体がこうだから、と仕方ないと思うこともできますわ。
実際それで生活している方もいらっしゃるのだし。私はそれに対しては文句はつけませんことよ。
ただ貴方はそうではなかったでしょう?」
「仕事のことも多かったさ。
それにお前だって、身体が治ってからは、やれ領地の管理だ、ほら、ワイター家と共同経営している病院の経営だ、とか仕事に駆け回っていたじゃないか。
俺一人をそれで責める気か?」
「ええ、それは私の不注意でしたわ。
実際子供のことを忘れたくて、毎日毎日一生懸命働いていましたのよ。
それに病院の方では、医療だけでなく、親に恵まれない子供達の養育にも手を広げだしましたから。
だから貴方の外泊が仕事以外のことで多くなって、しかもそれが玄人の方相手でなかったことに、なかなか気付けなかったのですよ。それは私のミスでした」
立て板に水がごとく語るルージュに、皆その合間を縫う様にメイドが茶を淹れていくにも関わらず、それに手をつけることもできなかった。
「ああそう、そう言えば、今日はそちちらのお席に、もう一組の方をお招きしておりますの」
ルージュはそう言うと、ベランダにつながる窓の方に立つメイドに合図をした。
「……え、父上母上…… それに、兄上達まで…… お前が呼んだのか?」
「ええ。この際きちんと見届けていただきたく思いまして。
お久しぶりでございます。お義父様、お義母様、それに義兄様方」
「久しぶりだなルージュどの。其方の仕事ぶりはよく耳に入ってくるぞ」
「貴女はまた働き出すと止まらないひとだから、身体を壊さないか、はらはらしていたのだけど、元気なようね」
「おかげさまで、私は元気です。
今日はわざわざご足労ありがとうございます。
様々なことが明らかになったら、その時にはお手数をおかけ致しますが」
「うむ、それは仕方がないことだ。存分にやるがいい」
「ありがとうございます」
そして四人は弁護士の居るテーブルについた。
ガーベラと小手毬が飾られたその席には、新たに席とお茶の用意がされる。
「ではまず、ワイター侯爵夫人マリエ様」
さっ、とマリエの顔色が変わった。
0
お気に入りに追加
341
あなたにおすすめの小説
この世界はラボラトリイ~自分が居なくとも世間からずれた感覚の後輩が幸せになって欲しい。
江戸川ばた散歩
青春
事故で死んだはずの倉瀬は、何処か判らない場所でそこの「管理人」に呼び止められる。
ずっと世話をしてきた妹の様な存在であるトモミに何事か起きたから行くべき場所に行けないのだと。
世間とずれた感覚を持つトモミと彼の今までとそれから、そして。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する
江戸川ばた散歩
恋愛
東の果ての国の赴任先で夫が病気と聞き、大陸横断鉄道の二等列車に乗り込もうとするメイリン・エドワーズ大使夫人。駅の受付で個室が取れない中、男爵夫人アイリーン・ブルックスに同室を申し込まれる。彼女は先頃夫である男爵を亡くしたばかりだった。一週間がところかかる長い列車の旅の中、メイリンはアイリーンの、新聞沙汰にもなった一連の話を聞くこととなる。
〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。
そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。
母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。
アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。
だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。
(完結)離婚された侯爵夫人ですが、一体悪かったのは誰なんでしょう?
江戸川ばた散歩
恋愛
セブンス侯爵夫人マゼンタは夫から離婚を哀願され、そのまま別居となる。
どうしてこうなってしまったのだろうか。彼女は自分の過去を振り返り、そこに至った経緯を思う。
没落貴族として家庭教師だった過去、義理の家族の暖かさ、そして義妹の可愛らしすぎる双子の子供に自分を見失ってしまう中で、何が悪かったのか別邸で考えることとなる。
視点を他のキャラから見たものも続きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる