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第2話 電波の壁が、彼らに遠くまで届く声を与えた

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 「銀の歌姫」種、とそれは言われている。

 本当の名はその惑星の名を取ってメゾニイト種、とか言うらしいが、その名はあまり一般的ではない。
 「銀の歌姫」種。そう言えば、ちょっと自星以外の情報に詳しい者なら知っている。

 星間共通歴549年。戦争真っ盛りの宇宙。

 各地で無闇やたらに戦争が起きている。戦争が戦争を呼び、混乱が混乱を呼ぶ。
 何処からどんな理由でそれは始まったのかは判らない。俺の生まれる前からそれは続いていたし、果たして俺の生きている間に終わるのかどうかも判らなかった。
 流れてくる噂では、何処かの惑星の何とかという種族が現在は優勢だということだが、一介の兵士の俺にはさっぱりそのあたりは判らない。
 だがその一介の兵士の俺だって、この目の前に居る種族についてはある程度知っている。
 その名の通り、その種族は銀の髪を持っている。髪だけではない。色素全般が薄いのだ。その中でも、強烈にその種族の特性を示す者は、目にそれが現れる。真紅の瞳。
 そして、その瞳を持った者は、特殊な能力を持つと言われている。
 共鳴の能力だ。
 その能力は、その種が移民した惑星に適応する際に身につけたものだと言われている。
 過去、人類発祥の地と言われている「地球」から多く旅立った移民船の中でも、過酷な、それでも居住可能な程度の惑星に住み着いた者に、そういった変化は起こるのだという。例えば高重度。例えば低温。
 「銀の歌姫」種の惑星メゾニイトは、夜の惑星だと昔学校では習った。公転の関係か、他の公転する兄弟惑星のせいか、昼の時期、昼の時間がひどく短い。
 まあ火山の多い関係か、地表面の温度は低くないので、低温で生活ができない程ではないらしいが、日照時間はひどく少ないのだという。その光の少なさが、彼らから色を奪った。
 そして、電波障害が他の惑星に比べ、飛び抜けている。彼らの惑星では、計器飛行はできない。それがこの惑星の閉鎖性にもつながった。
 必要が、その電波の壁が、彼らに遠くまで届く声を与えたのだ。
 そしてその中でも、最も薄い色と、最も遠くに届く声を持った者。それが、「銀の歌姫」である。それは女性とは限らないが、主に女性に多く現れることから、歌「姫」と呼ばれる。
 男性には滅多に出ないのだという。だがその場合は、その男性特有の低音が、どういう作用だか、大地に亀裂を起こすことすらあるという。
 女性の場合はその特有の高音が強い力を持つという。
 天空駆けるその歌声は、遠くまで響きわたり、その中に含まれる感情を、受け取る人々の中に共鳴させる。
 だがそれは、その惑星の中にあってこそ平和なものだった。
 何故か「閉じた」ものには引き寄せられるのも人間である。
 戦争がまださほどひどく無かった頃、それまで他星と交流が無かったメゾニイトに、「使者」と名乗る者が入り込んだ。
 それが何か高尚な意図を持っていたのか、ただの冒険者なのかは判らない。とにかく確かなのは、彼らがそこで、電波障害の中でも遠距離通信が可能な、色素の薄く、美しい種族を見付けたことだった。
 メゾニイトの人間にとっての不運は、「使者」から見付けられたことではない。たまたま見付けた「使者」が、彼らの利用法を思いついてしまったことだった。
 移民してからこの方、閉じた惑星で平和に過ごしてきたこの惑星の人間達は、突然の訪問者を疑うことを忘れていた。そして「使者」達は、その扱いやすい人間達を手玉に取った。
 やがて、この惑星には少ない文明の利器を入れる代償として彼らは人的資源を要求した。
 無論その時も、甘い言葉は忘れない。この惑星から初めて出ることができることに、歌姫達は喜んだ。
 だが、その結果は無惨なものだった。。
 歌の上手な美しい鳥は、歌を強要され、各地を引き回された。あげく、くたびれ果てて故郷に戻った途端に命を落とすことも多くなる。
 気付いた時には遅かった。惑星を閉じようと、残された「歌姫」達は、共鳴能力と、この惑星自体の電波障害を利用して、入ろうとする輩を撃退しようと思ったが…
 時既に遅し。
 その星域も、戦争の中にあった。惑星メゾニイトも例外ではなかった。
 武器をその手に持たない彼らは、抵抗もできず、捕らえられ、ちりぢりにされたあげく、自星の大地が燃えていくのを見た。
 暗い惑星で彼らを暖めた火山が爆発する。惑星そのものが、侵略者に対して怒りを吹き出していたかのようだったという。
 そして故郷から一人残らず連れ出された彼らは、更にひどい運命をたどることになる。
 「うたうたい」として、各地の電波に声を乗せる者はまだよかった。
 まだ良かったはずだ、と俺は思う。
 だが、それだけでは済まなかった。その共鳴能力は、別のことに使われ始めたのだ。すなわち、プロパガンダ。
 各地で上がる火の手。様々な主義主張を持つ各惑星の軍。反乱組織。惑星同盟。
 その先鋒で、その地の民衆の志気を高めるために、彼らは使われた。マイクの前に、立たされた。その声を、電波に乗せさせられた。
 歌ではなく、声が、必要とされた。
 飼い主を褒め称える演説。賛美する言葉。共感を強要する声。
 これは自分の声ではない、と心の奥深くで思いながら。
 だが「歌姫」達の能力は「共鳴」だから、違うことを考えることは許されない。少なくとも、その歌に、声に、浮かび上がる程の表層で考えていることはできなかった。それが判ると、歌姫達は罰を受ける。
 彼女らはその時、自分の考えすら、押し殺されていた。
 心にも無い言葉を、声を、ただ生きるために、精一杯の意志で流さなくてはならなかった。
 だが、無理な飼い方をされた鳥が、そう長く生きる訳がない。
 そして、そのように使われた「ペット」が反対勢力からいい目で見られる訳がない。
 彼女らの大半はくたびれ果て、あと半分は、決して愛しくもない飼い主のために殺されていった。
 現在では、殆どその存在は確認されていない。その惑星を無理矢理捨てさせられた時、その惑星に適応すべき遺伝子は、急激に変化をとげ、「歌姫」の属性を無くしていったのだ。
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