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4 学校を選んだ理由
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翌日からもう授業が始まった。
さすがに実戦向きの人材を作るのが目的の学校だけあって、テンポが早い。
それでもさすがに第一日は、それぞれの授業の指針を説明するのが半分だったのだけど。
一年次の専門教科は、ドローイング、構成、デザインベーシックと写真基礎。
それにベーシックプランニングとCGベーシックがある。
正直言って、僕はそのどれにもほとんど初心者と言ってもいい。
こりゃかなり気を入れて勉強しないとまずいぞ、という気分になった。
高校の最後の半年で、一応予備校でデッサンと構成くらいは習ったけれど、さすがに付け焼き刃。
それで美大を目指すとかいう訳にはいかなかった。
決めたのが高校三年の初夏では何か周囲をなめてるしい。
僕にはそんな気は全くなかったのだが。
何っか、いつもテンポがずれてる、と言われる。
中学から高校に行くときも、どうしようかな、と迷っていたら、勝手に偏差値で学校を振り分けられた。
入った高校でも、何しようかな、と部活を迷っているうちに、何か帰りに用事のあった友人を捜しに行ったら、いつの間にか美術部に入っていた。
だけどその入った美術部でも、期限内に課題ができなくて、結局一度も展示できたためしが無い。
顧問の美術教師は、よく言ったものだった。
「キミ頼むから、も少してきぱきやってくれ」
いいものは持ってる。
だけどそれじゃあ持ち腐れだ、と。
そうは言われても困ってしまう。
僕は僕で、自分の中にあるものをちゃんと探し出してからそれを形にしたいだけなのだけど。
ただそれを見つけだすのに、時間がかかるのだ。
美大はよしたほうがいい、と言ったのもこの顧問だった。
「例えば、無期限に時間が与えられて、それでそこにある一つの石膏像をデッサンしろ、と言われたら、君は間違いなく合格できる。だけど、悲しいかな、受験のデッサンは、長くて八時間。しかもそれは二日分割。短い時にはたったの三時間が勝負だ」
そう言われた時、確かに僕はなるほど、と思った。
僕にはそういうの無理だ。
あきらめも早かった。
それで、試験の比較的簡単な専門学校を選んだ。
グラフィックデザインを選んだのも、正直言って、アハネの様に「写真!」とか決まったものがあるからではない。
無いから、ちょっと対象があいまいで、一応就職に役立ちそうなこの学科を選んだのだ。
何をしたいか、なんて二年間で決まるとは思えない。
だけど、何もしないよりはましかな、と思った。
その程度。
そしてそのアハネだが。
「おはよーっ! おいちょっと来いよアトリ」
授業が始まって数日後。
登校するが早いが、いきなり僕の手を引っ張って、彼はエレベーターに飛び乗った。
この学校は八階建てのビルになっている。
彼はその八階のボタンを押した。
「えーと…… おはよ」
エレベーターに乗り込んでから、ようやく息切れまじりに僕は朝のあいさつという奴を返すことができた。
「何だよそれ」
「や、さっきあんた言ったから」
するとアハネは唐突にげらげらと笑い出した。
そんなにおかしいかなあ、と僕は思う。
慣れてるけど。
「ああすまんすまん」
「うん、慣れてる。で、どうしたの?」
「や、屋上に行こうと思って」
「屋上?」
「昨日夕方に出てみて、いい夕暮れの空が見えたから、朝はどうかな、と思ってさ」
だからと言ってそこには僕を連れてく理由はないと思うのだが。
「いい景色を見るのはいいことだぜえ」
そんな僕の気持ちを見抜いたように、彼は言った。なるほど。
さすがに実戦向きの人材を作るのが目的の学校だけあって、テンポが早い。
それでもさすがに第一日は、それぞれの授業の指針を説明するのが半分だったのだけど。
一年次の専門教科は、ドローイング、構成、デザインベーシックと写真基礎。
それにベーシックプランニングとCGベーシックがある。
正直言って、僕はそのどれにもほとんど初心者と言ってもいい。
こりゃかなり気を入れて勉強しないとまずいぞ、という気分になった。
高校の最後の半年で、一応予備校でデッサンと構成くらいは習ったけれど、さすがに付け焼き刃。
それで美大を目指すとかいう訳にはいかなかった。
決めたのが高校三年の初夏では何か周囲をなめてるしい。
僕にはそんな気は全くなかったのだが。
何っか、いつもテンポがずれてる、と言われる。
中学から高校に行くときも、どうしようかな、と迷っていたら、勝手に偏差値で学校を振り分けられた。
入った高校でも、何しようかな、と部活を迷っているうちに、何か帰りに用事のあった友人を捜しに行ったら、いつの間にか美術部に入っていた。
だけどその入った美術部でも、期限内に課題ができなくて、結局一度も展示できたためしが無い。
顧問の美術教師は、よく言ったものだった。
「キミ頼むから、も少してきぱきやってくれ」
いいものは持ってる。
だけどそれじゃあ持ち腐れだ、と。
そうは言われても困ってしまう。
僕は僕で、自分の中にあるものをちゃんと探し出してからそれを形にしたいだけなのだけど。
ただそれを見つけだすのに、時間がかかるのだ。
美大はよしたほうがいい、と言ったのもこの顧問だった。
「例えば、無期限に時間が与えられて、それでそこにある一つの石膏像をデッサンしろ、と言われたら、君は間違いなく合格できる。だけど、悲しいかな、受験のデッサンは、長くて八時間。しかもそれは二日分割。短い時にはたったの三時間が勝負だ」
そう言われた時、確かに僕はなるほど、と思った。
僕にはそういうの無理だ。
あきらめも早かった。
それで、試験の比較的簡単な専門学校を選んだ。
グラフィックデザインを選んだのも、正直言って、アハネの様に「写真!」とか決まったものがあるからではない。
無いから、ちょっと対象があいまいで、一応就職に役立ちそうなこの学科を選んだのだ。
何をしたいか、なんて二年間で決まるとは思えない。
だけど、何もしないよりはましかな、と思った。
その程度。
そしてそのアハネだが。
「おはよーっ! おいちょっと来いよアトリ」
授業が始まって数日後。
登校するが早いが、いきなり僕の手を引っ張って、彼はエレベーターに飛び乗った。
この学校は八階建てのビルになっている。
彼はその八階のボタンを押した。
「えーと…… おはよ」
エレベーターに乗り込んでから、ようやく息切れまじりに僕は朝のあいさつという奴を返すことができた。
「何だよそれ」
「や、さっきあんた言ったから」
するとアハネは唐突にげらげらと笑い出した。
そんなにおかしいかなあ、と僕は思う。
慣れてるけど。
「ああすまんすまん」
「うん、慣れてる。で、どうしたの?」
「や、屋上に行こうと思って」
「屋上?」
「昨日夕方に出てみて、いい夕暮れの空が見えたから、朝はどうかな、と思ってさ」
だからと言ってそこには僕を連れてく理由はないと思うのだが。
「いい景色を見るのはいいことだぜえ」
そんな僕の気持ちを見抜いたように、彼は言った。なるほど。
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