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四日目の特等車両にて

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「……これは」

 私の正体を看破したひとは、ふふ、と笑みを浮かべながら、その翌日、二段上の車両へと私を連れていった。
 最前二両、特等車両。
 窓の造りも頑丈なそこの乗客は人ではなかった。
 無論、設備は特等のままである。一両に一組の客が優雅な生活そのままに移動するためのものが。
 ただ、それはやや横に避けられ、布を掛けられ崩れない様に固められている。
 空いた広々とした場所にあったのは。

「……アイリーン、これはどう見ても銃とかに見えますが……」
「ええそうよ。我が社が本国以外で生産している最新式の短銃、狙撃銃、それに連発用の装備品その他もろもろ」

 それは笑顔で言うことではないと思う。

「しかも」

 背後には一等車両に乗り込んでいた人々。
 非常に無骨な…… 

「我が社が軍及び情報部と交渉してお借りした優秀な兵士の方々」

 軍服こそ着ては居ないが、たたずまいが明らかに素人ではないことはすぐに判った。
 その上。

「……何で女性も居るんですか」
「ねえメイリン」

 にこ、と笑ってアイリーンは私の肩に手を置いた。

「アサシンの貴女が女性である以上、女性の兵士だって別に居てもおかしくはないと思わない?」

 私はそっと彼等の姿をうかがい見る。
 人数は十人足らず。
 年齢性別体つきその他全くもってばらばら。
 ただ共通しているのは、その持っている殺気。

「貴女の旦那様を無事救出できれば、貴女が私を狙うことも無いんじゃなくって?」
「あ、あ……」

 そんな声しか上がらなかった。
 そう。
 私がその昔買われ、仕事を仕込まれた場所。
 砂漠の国の暗殺者集団。
 夫は情報部に居た頃に仕事でそこと関わりがあり、私をもらった。
 向こうからしたら、まだ若いのが一人下げ渡しただけ、ということだったろう。
 夫は私に対し、その過去の稼業を利用しようとはしなかった。
 彼の仕事の性質上、私の暗殺者としての技術は利用価値があっただろう。だが彼はそれを使わなかった。
 あくまで私を妻として扱ってくれた。
 そんな彼に恋情はともかく、感謝と愛情と誠意は溢れる程あった。
 だから今回は、私の持つ全てを掛けて何とかしよう、と……
 思ってはいたが、やはりブランクは大きかった。
 まず、アイリーンが二等に居た意味を深く考えなかった。
 彼女を見くびっていたのだ。
 そしてブルックス男爵家の持つ産業についての下調べがあまりにも欠けていた。
 調べる時間が無かったと言えばそれまでだし、向こうからの情報も無かった。
 目の前に世界と繋がっている箱がある訳ではない。
 かつて夫はその身を危険に晒して遠い国に深く潜り込んだ知識――情報を掴んできた。
 そして私は情報を与えられるままに行動するだけの暗殺者だった。
 明らかに使う側の人選ミスだ。
 行ったところで失敗するのが目に見えているくらいの。
 つまり私も、私を送り込んだ者も、相当平和ボケしていたのだ。
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