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第一章 とりあえず浮気相手のところへ行ってみた
⑯サンドレッドは頼りになる男
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ただ、一つ気になることはあった。
「マリマリちゃんのことはいいのですか?」
「何が?」
私はすかさず問い返してくるサンドレッド氏にややひるんだ。
「ご自分の子でないと嫌、という再婚の方もいらっしゃるので……」
「ああ、それは無論大丈夫ですよ。そもそも俺があの子を助けたからだし、いや、ありがたいですよ。美しい家庭的な妻と可愛い娘、それが一度にできるのだし」
自信に満ちた彼の表情に私は少し圧倒されていた。
「それよりもお嬢さん、他にも気になることがあるんじゃないかな?」
「……はい。ご存じなんですか?」
「あのひとが自分で言って来ましたよ。何というか、隠しておけばいいものを」
「それでも?」
「いや、一旦は頭に血が上ったんですよ」
「やはり」
「だがねえ、せっかく正直に言ってくれたあのひとに、俺が腹をくくらないと駄目かなとね。それにあのひとはどうも、ここで俺が駄目と言ったら、今後どうなるのか想像するのが怖くてね」
「怖い?」
「どうにもこうにも、何ですかね、柳の木の様に、やわやわと、風が吹けばそちらに行ってしまいそうな感じがしましてね。せっかく見込まれたのだし、ここは一つ俺が丸ごと引き受けて、前の奴のことは忘れさせてやればいいと思ったんですよ」
私は思わず胸の前で小さくぱちぱち、と拍手していた。
「素晴らしいですわ。本当に、それだけの度量がある方なら、あの方もきっとこれからはちゃんと地に足を付けていけるのではないかと思います」
「お嬢さんも言うね」
くす、とサンドレッド氏は笑った。
*
サンドレッド氏は一週間後の横断列車で南東へと戻る予定だと聞いた。
そしてその時にカイエ様を連れて行くと。
「さてどうだった?」
家に戻ると、お姉様が子供を連れてやってきていた。
「お姉様、いらしてたの」
「ええ、あのひと少し忙しくて泊まり込みが二、三日続くというし、だったらいっそこちらに来た方がいいかしらと思ってね。お父様もほら、この子を見たがっていたし。エルダが可愛い可愛いとてんてこまいよ。それにマルミュット、貴女ともじっくりお喋りしたいじゃない」
「じっくり」
「そう、じっくり。あ、でもその前にあのひとに聞く方が先かしら」
ふふ、とお姉様は子供をエルダに渡して寝かしつけを頼みつつ、口の端を軽く上げた。
エルダが部屋から出ていったところでお姉様は改めて口を開いた。
「カイエからの話はどうだった? 納得がいった?」
「ええ。あのかたなら確かにああふらふらっと流されてしまったのは解ったわ」
「でしょう?」
ふふ、とお姉様は微笑む。
「カイエはね、昔からそうだったの。それこそ、まだ女学校に行く前から」
「え? でも幼馴染みっていうなら私も知っていておかしくないじゃない? 私、お姉様が女学校で出会ったお友達ってずっと思っていたけど?」
「あ、確かに一緒に遊ぶことは殆ど無かったわ。それに直接うちと接点があるおうちじゃなかったし」
「木材を扱うお店だったそうだけど」
「ええ。と言うか川沿いの港街にお父様と行くことが昔結構あってね、その時に知り合ったの。帝都じゃなかったから、行き来はさすがにそうそうできなくてね。でも手紙の交換とはかしていたのよ?」
「へえ……」
それはまた、知らなかった事実が。
そう言えば私はお姉様のことを案外知らないんじゃないだろうか。
「ああそうそう、せっかくだから、私こっちの滞在最後の日、ちょっと体調崩す予定だから、私の代わりにうちの様子見てきてちょうだいな」
「それって」
ふふ、とお姉様は笑った。
「じっくり問い詰めてやればいいと思うのよね」
「お姉様、怒ってらっしゃる?」
「あら、何のこと?」
そのうち、別室で子供の泣き声がしたので、あらあら、とばかりにお姉様は席を立った。
問い詰めていい、か。
まあ確かに、私もお義兄様には言いたいことも色々あることだし、聞けることはとことん聞いてやろう、と思った。
「マリマリちゃんのことはいいのですか?」
「何が?」
私はすかさず問い返してくるサンドレッド氏にややひるんだ。
「ご自分の子でないと嫌、という再婚の方もいらっしゃるので……」
「ああ、それは無論大丈夫ですよ。そもそも俺があの子を助けたからだし、いや、ありがたいですよ。美しい家庭的な妻と可愛い娘、それが一度にできるのだし」
自信に満ちた彼の表情に私は少し圧倒されていた。
「それよりもお嬢さん、他にも気になることがあるんじゃないかな?」
「……はい。ご存じなんですか?」
「あのひとが自分で言って来ましたよ。何というか、隠しておけばいいものを」
「それでも?」
「いや、一旦は頭に血が上ったんですよ」
「やはり」
「だがねえ、せっかく正直に言ってくれたあのひとに、俺が腹をくくらないと駄目かなとね。それにあのひとはどうも、ここで俺が駄目と言ったら、今後どうなるのか想像するのが怖くてね」
「怖い?」
「どうにもこうにも、何ですかね、柳の木の様に、やわやわと、風が吹けばそちらに行ってしまいそうな感じがしましてね。せっかく見込まれたのだし、ここは一つ俺が丸ごと引き受けて、前の奴のことは忘れさせてやればいいと思ったんですよ」
私は思わず胸の前で小さくぱちぱち、と拍手していた。
「素晴らしいですわ。本当に、それだけの度量がある方なら、あの方もきっとこれからはちゃんと地に足を付けていけるのではないかと思います」
「お嬢さんも言うね」
くす、とサンドレッド氏は笑った。
*
サンドレッド氏は一週間後の横断列車で南東へと戻る予定だと聞いた。
そしてその時にカイエ様を連れて行くと。
「さてどうだった?」
家に戻ると、お姉様が子供を連れてやってきていた。
「お姉様、いらしてたの」
「ええ、あのひと少し忙しくて泊まり込みが二、三日続くというし、だったらいっそこちらに来た方がいいかしらと思ってね。お父様もほら、この子を見たがっていたし。エルダが可愛い可愛いとてんてこまいよ。それにマルミュット、貴女ともじっくりお喋りしたいじゃない」
「じっくり」
「そう、じっくり。あ、でもその前にあのひとに聞く方が先かしら」
ふふ、とお姉様は子供をエルダに渡して寝かしつけを頼みつつ、口の端を軽く上げた。
エルダが部屋から出ていったところでお姉様は改めて口を開いた。
「カイエからの話はどうだった? 納得がいった?」
「ええ。あのかたなら確かにああふらふらっと流されてしまったのは解ったわ」
「でしょう?」
ふふ、とお姉様は微笑む。
「カイエはね、昔からそうだったの。それこそ、まだ女学校に行く前から」
「え? でも幼馴染みっていうなら私も知っていておかしくないじゃない? 私、お姉様が女学校で出会ったお友達ってずっと思っていたけど?」
「あ、確かに一緒に遊ぶことは殆ど無かったわ。それに直接うちと接点があるおうちじゃなかったし」
「木材を扱うお店だったそうだけど」
「ええ。と言うか川沿いの港街にお父様と行くことが昔結構あってね、その時に知り合ったの。帝都じゃなかったから、行き来はさすがにそうそうできなくてね。でも手紙の交換とはかしていたのよ?」
「へえ……」
それはまた、知らなかった事実が。
そう言えば私はお姉様のことを案外知らないんじゃないだろうか。
「ああそうそう、せっかくだから、私こっちの滞在最後の日、ちょっと体調崩す予定だから、私の代わりにうちの様子見てきてちょうだいな」
「それって」
ふふ、とお姉様は笑った。
「じっくり問い詰めてやればいいと思うのよね」
「お姉様、怒ってらっしゃる?」
「あら、何のこと?」
そのうち、別室で子供の泣き声がしたので、あらあら、とばかりにお姉様は席を立った。
問い詰めていい、か。
まあ確かに、私もお義兄様には言いたいことも色々あることだし、聞けることはとことん聞いてやろう、と思った。
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