6 / 23
6 子爵家と弁護士事務所を行き来することになる
しおりを挟む
そうこうするうちに、アリサから何かと手紙でお願いされることが多くなってきた。
「まあアリサお嬢様の言うことだし、言ってらっしゃい」
ぎくしゃくしている間もマルティーヌは内職よりそちらを優先させた。
いずれにせよ、子爵家へのつなぎは取りたかったのだろう。
それが最近までアリサと一緒に住んで働いていたなら彼女の様子も説明できるし、と。
しかしアリサは割と簡単に言ってくれたが、結構あっちこっち動く羽目になった。
まずは子爵家。
最初に本宅の方へ行った。
まずそこで、アリサの祖母にマルティーヌからの紹介状を見せた。
「……まあ貴女、そんなことに……」
まだ五十代だというアリサの祖母は、私の事情を聞くと「敵が同じなら仲間」とばかりにあっさり子爵の蟄居先へと案内してくれた。
そしてアリサの疑問に答えるべく、弁護士のオラルフ氏も紹介してくれた。
ラルフ・オラルフという早口言葉の様な名前のこのひと、子爵の失脚当時の顧問弁護士の孫にあたるのだという。
失脚時に引退した祖父の跡を継ぎ、この十年の間にできるだけ力をつける様にと言われているらしい。
なのでまだ若い。
三十にもなっていないのだと。
私からみたら充分大人過ぎる程大人だが、その筋では若僧に過ぎないらしい。
「男爵の過去ですか」
そういう話は事務所でまとめましょう、ということで向かったら、共同経営しているひとが居た。
カムズ・キャビンというひとはオラルフ氏の法科の後輩に当たるとのこと。
「今はちょうど担当している案件も無いから」
と、彼も手伝ってくれた。
さすがに何から手をつけたものか、と思った。
何せ昔のことだ。
そして結婚当時の男爵は、成り上がりと言われていて大した知り合いもいなかったということ。
ではその辺りを良く見ていたのは?
ということで「男爵を批判的に見ていた」アリサの母夫人の友人に当たることにした。
「覚えているかしら」
「俺は本当に好きだった昔の友達のことならちゃんと覚えてますがね」
キャビン氏はそう言った。
「ミュゼットさんは十年先に、アリサさんのことを忘れますか?」
それはない、と私は即座に否定した。
アリサも私のことをそう簡単には忘れないだろう。
そんな気がしていた。
あの屋敷の中で二年だけだけど、ほぼ同じ歳で、似た境遇に陥った私達だ。
*
それからはこの弁護士事務所と子爵家を行き来する日々だった。
アリサの母夫人のことは子爵夫人に。
そしてそこから得た情報は事務所の方で逐一まとめ、アリサあての手紙もついでに綴って行く。
時には子爵家で泊まって行けばいい、と言われることもあった。
だが、一度だけ厚意に甘えた時、「これは無いな」と思った。
ここは男爵家とは違う。
本当のきちんとした貴族の館だ、と感じたのだ。
「まあアリサお嬢様の言うことだし、言ってらっしゃい」
ぎくしゃくしている間もマルティーヌは内職よりそちらを優先させた。
いずれにせよ、子爵家へのつなぎは取りたかったのだろう。
それが最近までアリサと一緒に住んで働いていたなら彼女の様子も説明できるし、と。
しかしアリサは割と簡単に言ってくれたが、結構あっちこっち動く羽目になった。
まずは子爵家。
最初に本宅の方へ行った。
まずそこで、アリサの祖母にマルティーヌからの紹介状を見せた。
「……まあ貴女、そんなことに……」
まだ五十代だというアリサの祖母は、私の事情を聞くと「敵が同じなら仲間」とばかりにあっさり子爵の蟄居先へと案内してくれた。
そしてアリサの疑問に答えるべく、弁護士のオラルフ氏も紹介してくれた。
ラルフ・オラルフという早口言葉の様な名前のこのひと、子爵の失脚当時の顧問弁護士の孫にあたるのだという。
失脚時に引退した祖父の跡を継ぎ、この十年の間にできるだけ力をつける様にと言われているらしい。
なのでまだ若い。
三十にもなっていないのだと。
私からみたら充分大人過ぎる程大人だが、その筋では若僧に過ぎないらしい。
「男爵の過去ですか」
そういう話は事務所でまとめましょう、ということで向かったら、共同経営しているひとが居た。
カムズ・キャビンというひとはオラルフ氏の法科の後輩に当たるとのこと。
「今はちょうど担当している案件も無いから」
と、彼も手伝ってくれた。
さすがに何から手をつけたものか、と思った。
何せ昔のことだ。
そして結婚当時の男爵は、成り上がりと言われていて大した知り合いもいなかったということ。
ではその辺りを良く見ていたのは?
ということで「男爵を批判的に見ていた」アリサの母夫人の友人に当たることにした。
「覚えているかしら」
「俺は本当に好きだった昔の友達のことならちゃんと覚えてますがね」
キャビン氏はそう言った。
「ミュゼットさんは十年先に、アリサさんのことを忘れますか?」
それはない、と私は即座に否定した。
アリサも私のことをそう簡単には忘れないだろう。
そんな気がしていた。
あの屋敷の中で二年だけだけど、ほぼ同じ歳で、似た境遇に陥った私達だ。
*
それからはこの弁護士事務所と子爵家を行き来する日々だった。
アリサの母夫人のことは子爵夫人に。
そしてそこから得た情報は事務所の方で逐一まとめ、アリサあての手紙もついでに綴って行く。
時には子爵家で泊まって行けばいい、と言われることもあった。
だが、一度だけ厚意に甘えた時、「これは無いな」と思った。
ここは男爵家とは違う。
本当のきちんとした貴族の館だ、と感じたのだ。
1
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!
菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる
黒木 鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。
これぞほんとの悪役令嬢サマ!?
黒鴉宙ニ
ファンタジー
貴族の中の貴族と呼ばれるレイス家の令嬢、エリザベス。彼女は第一王子であるクリスの婚約者である。
ある時、クリス王子は平民の女生徒であるルナと仲良くなる。ルナは玉の輿を狙い、王子へ豊満な胸を当て、可愛らしい顔で誘惑する。エリザベスとクリス王子の仲を引き裂き、自分こそが王妃になるのだと企んでいたが……エリザベス様はそう簡単に平民にやられるような性格をしていなかった。
座右の銘は”先手必勝”の悪役令嬢サマ!
前・中・後編の短編です。今日中に全話投稿します。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~
よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。
しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。
なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。
そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。
この機会を逃す手はない!
ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。
よくある断罪劇からの反撃です。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
悪役令嬢のわたしが婚約破棄されるのはしかたないことだと思うので、べつに復讐したりしませんが、どうも向こうがかってに破滅してしまったようです。
草部昴流
ファンタジー
公爵令嬢モニカは、たくさんの人々が集まった広間で、婚約者である王子から婚約破棄を宣言された。王子はその場で次々と捏造された彼女の「罪状」を読み上げていく。どうやら、その背後には異世界からやって来た少女の策謀があるらしい。モニカはここで彼らに復讐してやることもできたのだが――あえてそうはしなかった。なぜなら、彼女は誇り高い悪役令嬢なのだから。しかし、王子たちは自分たちでかってに破滅していったようで? 悪役令嬢の美しいあり方を問い直す、ざまぁネタの新境地!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる