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70.結集する必要のための「党首」
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Gは無言で顔を歪める。
「実際そうでさ。戦争中や粛正中は、例えば軍隊で出世するのは簡単だよね。功績を立てればいい。その功績も、要は戦闘に勝てばいい。ひどく単純だ。だけど、平和になって、安定して、そうすると、ひどく世界が複雑になってくる。無論戦争中だって複雑は複雑だったろうさ。でも価値観は単純だ。その価値観が多様になってくる。寝た子を起こしてもそうしようとする動きすら出てくる」
「……その頃は、どうしてたんだ?」
「基本的には、平和に生きたいと願うのが、残党と残党の子孫の思うことだよ。だけど、そうは言っても、例えば亜熟果香は、戦争が終わっても、結局は出回っていた。中毒患者も出ていて、増えることはあっても減ることはない。それを知れば知ったで、テロワニュの残党には駆り立てられるものがある。オクラナの残党にしてみれば、いつか自分達の惑星に帰りたいという気持ちがある」
「自分達がどう思っても、周囲がそうさせてくれない?」
「という感じかな。……で、やがて『MM』が裏舞台に出現する」
とん、と心臓が音を立てるのをGは感じる。
「当初は、反帝国組織、という名目で、残党出身の連中も、期待する部分はあったらしい。何やらそれがひどく大きな資本をバックに持っている集団だということは、活動規模からして想像がついたからね」
「ああ」
確かにバックは大きいだろう。
「だけど、やがてその活動を見るにつれ、何かがおかしい事に気付いたんだ」
「……というと?」
「『MM』は所詮、帝都政府の本当に不利になることはしていない」
イェ・ホウは断言した。
「だけど、特高や軍警は彼らを目の敵にしているじゃないか?」
「彼らはね。だけどそれすらも、計算されたものとしたら。それによって、武力を普段より持つ、特高や軍隊を飼い慣らしておこう、というもくろみだったとしたら?」
なるほどね、とGは思う。さすがに「敵」としている相手のことはよく見ている訳だ。
実際、この帝国の中で、局地的反乱ではなくクーデタを起こすとすれば、それは軍である可能性が高い。
軍隊組織であった一つの種族が攻め取り、形作った国なのだから、当然である。
だったら、そんな下手な考えを持ってしまわない様に、軍にも警察にも仕事を与えよう。
―――反帝国組織はかくて成立する。
Mの理由がそれだけでは無いにせよ、理由の一つではあるだろう。
「外部に敵が居ない状況において、一番怖いのは内乱だ。世界の何処にも戦乱は起きうる。外部に敵がいなければ、内部でわいてくる。だから内乱になる前に、先回りして反帝国組織同士の抗争、という形にしてしまう場合も…… あるんじゃないか?」
知っているのではないか、とイェ・ホウは暗に含める。
「あるかもね」
確かに、とGも言葉の上では濁す。
「そんな巨大な『MM』に対抗するには、残党だけでなく、様々な反帝国組織が、一つの何かのもと、結集する必要がある。……その何か、が」
長い指先が、Gを指さす。
「あなたなんだ」
「……」
「帝国にとっての『皇帝』の様な、空白の概念のまま、皆が待ち続けていた『党首』。それがあなたなんだ。我々には資格となる思想や信条は特に無い。あるとすれば、ただ、帝国なりMMなりに、何らかの疑問を持ったり、被害を被った、それだけだ。それだけでいい。役割を割り振るのは、その後だ。老若男女、皆それぞれの役割を持つ」
「では俺は、そこでどんな役割をすればいい?」
Gは椅子の背に右の腕を乗せる。
「あなたは、あなたの戦いを続ければいい。それに我々はついて行く。帝国に対しても『MM』に対しても、決して交わることない敵で居続ける。あなたに必要なのは、それだけだ」
確信に満ちた瞳で、イェ・ホウは断言する。
Gは黙ってにやり、と笑った。
「ところで、ミントとはいつ手を組んだ?」
「ミントは元々独立の傾向が強い土地だ。だから我々も前から目はつけていた。ただあそこは、長いこと、あの二つの居住区が争ってなのか何なのか、交流が無かった」
「アウヴァールとワッシャードか」
「だけど、ここ十年程の間に、あそこにもあなたの姿を認めた者が居たことが判ってね。そしてそれが結構な組織に育っていた。短い期間に、だ。我々は彼らとコンタクトを取り、手を組んだ」
「……イアサム」
「そう、彼。そしてその古くからの相棒であるネィル。彼らはあなたを知っていた。会うことを心待ちにしている、という。今では俺と同じ、筆頭幹部だ」
「すごい肩書きだ」
くす、とGは笑う。
「なあに、つまりは若い者は先頭切って戦えってことさ。全く人使いが荒いよ。……ところで茶が冷めてしまったな。入れ替えようか。何がいい?」
「じゃあ、ジャスミン・ティーを」
「実際そうでさ。戦争中や粛正中は、例えば軍隊で出世するのは簡単だよね。功績を立てればいい。その功績も、要は戦闘に勝てばいい。ひどく単純だ。だけど、平和になって、安定して、そうすると、ひどく世界が複雑になってくる。無論戦争中だって複雑は複雑だったろうさ。でも価値観は単純だ。その価値観が多様になってくる。寝た子を起こしてもそうしようとする動きすら出てくる」
「……その頃は、どうしてたんだ?」
「基本的には、平和に生きたいと願うのが、残党と残党の子孫の思うことだよ。だけど、そうは言っても、例えば亜熟果香は、戦争が終わっても、結局は出回っていた。中毒患者も出ていて、増えることはあっても減ることはない。それを知れば知ったで、テロワニュの残党には駆り立てられるものがある。オクラナの残党にしてみれば、いつか自分達の惑星に帰りたいという気持ちがある」
「自分達がどう思っても、周囲がそうさせてくれない?」
「という感じかな。……で、やがて『MM』が裏舞台に出現する」
とん、と心臓が音を立てるのをGは感じる。
「当初は、反帝国組織、という名目で、残党出身の連中も、期待する部分はあったらしい。何やらそれがひどく大きな資本をバックに持っている集団だということは、活動規模からして想像がついたからね」
「ああ」
確かにバックは大きいだろう。
「だけど、やがてその活動を見るにつれ、何かがおかしい事に気付いたんだ」
「……というと?」
「『MM』は所詮、帝都政府の本当に不利になることはしていない」
イェ・ホウは断言した。
「だけど、特高や軍警は彼らを目の敵にしているじゃないか?」
「彼らはね。だけどそれすらも、計算されたものとしたら。それによって、武力を普段より持つ、特高や軍隊を飼い慣らしておこう、というもくろみだったとしたら?」
なるほどね、とGは思う。さすがに「敵」としている相手のことはよく見ている訳だ。
実際、この帝国の中で、局地的反乱ではなくクーデタを起こすとすれば、それは軍である可能性が高い。
軍隊組織であった一つの種族が攻め取り、形作った国なのだから、当然である。
だったら、そんな下手な考えを持ってしまわない様に、軍にも警察にも仕事を与えよう。
―――反帝国組織はかくて成立する。
Mの理由がそれだけでは無いにせよ、理由の一つではあるだろう。
「外部に敵が居ない状況において、一番怖いのは内乱だ。世界の何処にも戦乱は起きうる。外部に敵がいなければ、内部でわいてくる。だから内乱になる前に、先回りして反帝国組織同士の抗争、という形にしてしまう場合も…… あるんじゃないか?」
知っているのではないか、とイェ・ホウは暗に含める。
「あるかもね」
確かに、とGも言葉の上では濁す。
「そんな巨大な『MM』に対抗するには、残党だけでなく、様々な反帝国組織が、一つの何かのもと、結集する必要がある。……その何か、が」
長い指先が、Gを指さす。
「あなたなんだ」
「……」
「帝国にとっての『皇帝』の様な、空白の概念のまま、皆が待ち続けていた『党首』。それがあなたなんだ。我々には資格となる思想や信条は特に無い。あるとすれば、ただ、帝国なりMMなりに、何らかの疑問を持ったり、被害を被った、それだけだ。それだけでいい。役割を割り振るのは、その後だ。老若男女、皆それぞれの役割を持つ」
「では俺は、そこでどんな役割をすればいい?」
Gは椅子の背に右の腕を乗せる。
「あなたは、あなたの戦いを続ければいい。それに我々はついて行く。帝国に対しても『MM』に対しても、決して交わることない敵で居続ける。あなたに必要なのは、それだけだ」
確信に満ちた瞳で、イェ・ホウは断言する。
Gは黙ってにやり、と笑った。
「ところで、ミントとはいつ手を組んだ?」
「ミントは元々独立の傾向が強い土地だ。だから我々も前から目はつけていた。ただあそこは、長いこと、あの二つの居住区が争ってなのか何なのか、交流が無かった」
「アウヴァールとワッシャードか」
「だけど、ここ十年程の間に、あそこにもあなたの姿を認めた者が居たことが判ってね。そしてそれが結構な組織に育っていた。短い期間に、だ。我々は彼らとコンタクトを取り、手を組んだ」
「……イアサム」
「そう、彼。そしてその古くからの相棒であるネィル。彼らはあなたを知っていた。会うことを心待ちにしている、という。今では俺と同じ、筆頭幹部だ」
「すごい肩書きだ」
くす、とGは笑う。
「なあに、つまりは若い者は先頭切って戦えってことさ。全く人使いが荒いよ。……ところで茶が冷めてしまったな。入れ替えようか。何がいい?」
「じゃあ、ジャスミン・ティーを」
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