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46.参戦、移動、―――母星。

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「サンドさん!」

 イアサムが声を上げる。

「議長、あなたにこの子達を頼んでもいいですか?」
「何?」
「俺も軍隊の経験はある。ここで向こうの車を阻止するから、あんた達は一刻も早く、向こうへたどり着いて欲しい」
「サンドさん……」

 ネィルもまた、不安げな表情になる。

「心配しないで。上手くいったら、向こうの車を奪ってそっちへ行くから。議長!」
「……判った」

 議長は厳しい顔になってうなづいた。一方の傭兵は、と言えば妙にのんきな顔になる。

「なるほど、そういう手があったな」
「何あんた、向こうの車を奪う気無かったっていうのか?」
「さあて」

 Gは肩をすくめる。古参の傭兵は、運転手に向かい、車を止めろ、と要求した。

「綺麗な兄ちゃん、じゃあお付き合い願おうか」

 Gはにやりと笑った。バスはその場に停止する。窓からイアサムとネィルが身体を乗り出し、何やら叫んでいる。だがその声はバスの排気音で聞こえない。Gは苦笑して、手を振った。

「いいのか? あの坊主ども」
「いいんだ。……いつかは別れなくちゃならなかったし」

 それに、必ずいつか、会える。
 その思いが、Gを強気にさせていた。

「軍隊の経験があると言ったな。ずいぶんと華奢なようだが、兄ちゃん、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。俺は最強の軍隊に居たんだ」

 へえ、と傭兵は肩をすくめる。嘘ではない。天使種の軍隊は、最強だったのだ。
 ガンベルトを一つ受け取ると、Gは慣れた手つきで、小型の拳銃に、長距離用のパーツを取り付けた。
 やがて、車の顔が逃げ水の向こうに見えてきた。
 行くぞ、と古参の傭兵は、Gの背中を叩いた。



 ……何処だ?

 何も見えない。
 目を開いているはずなのに、何も見えない。
 腕を伸ばす。
 伸ばしているのだろうか? 腕にまとわりつくべき大気が、その存在を感じられない。

 ここは何処だ?

 確か、その時まで、銃を手にしていたはずだった。
 目の前に走ってくる車に向かって、銃弾を撃ち込んだはずだった。まず足を止め、続いて中の人間を……
 そのはずだったのだが。
 止めたはずの足が、思った以上に丈夫だったので、そのまま突進してきた。向こうの車の窓から、身を乗り出した男が、自分に向かって銃を撃とうとしているのが、見えた。弾は頬をかすめた。肩をかすめた。だから相手の眉間を狙った。当たった。
 だけど。
 臨時の相棒だった、古参の傭兵は、後ろだ、と叫んだ。

 それがその時の最後の記憶だった、と。

 彼は思う。

 何処なのだろう?
 何度目かの疑問を彼は脳裏に浮かべる。本当は口に出して、音にして、耳に届かせたい。
 なのに、それができない。
 どうすれば、そうできたのか、上手く思い出せない。
 眠っているのか?
 一つの可能性を浮かべて、否定する。違う。眠ってる時の意識じゃあない。
 では一体。
 死んだのだろうか?
 それも違う。
 だとしたら?

 泳いでいるのだ。

と、彼は思った。

 何処を?

 そして、

 何処へ?


 忘れていた。俺は。いつもそうやって。


   *

「うわ!」

 肩にいきなり衝撃が走った。頬に、ざり、と砂の感触が走る。切れたかもしれない、と彼は思う。頬が痛い。それ以上に、肩が痛い。
 もっともそれは、数分もしない間に、消えてしまうだろう。
 彼は落ちた右側の肩を押さえて起き上がろうとする。白茶けた生の土に手をつく。
 ぎらぎらと照りつける日射しが、首筋に暑い。気温が高い地方なのだろうか。乾燥した所なのだろうか。つい先刻まで居たミントとよく似た気候なのだろうか。彼の頭に一度に疑問が浮かぶ。
 ふとその時、視界が強烈な光から守られていることに気付く。自分の前に、影ができていた。
 彼は顔を上げた。誰かが、自分の前に立っている。
 落ちてくるところを、見られただろうか。こんな光に満ちててる所だったら、ユエメイが見た様にきらきらとしたものは見えなかっただろうが。
 逆光でよく見えない。だが子供ではない。大人だ。自分と外見的にはそう変わらない程度の。長い髪。女だろうか。違う。やや曖昧だが、それでも女ではない線がそこにはあった。
 それにしても。
 彼はいまいち調子が狂う自分を感じていた。相手は黙って自分を見下ろしているだけなのだ。驚いている様子でもない。ただじっと見ているだけだった。

「……あの」

 たまりかねて、口を開く。相手の反応は無い。服についた砂ぼこりを払いながら、ゆっくりと立ち上がる。あれ、と彼は思う。相手は自分より、ほんの少し、小さい。

「ここは……」

 問いかけた時だった。
 Gは、その次に自分が発するべき言葉が何処かへと飛んで行くのを感じた。
 相手は、無表情に――― 今度は自分を軽く見上げる。
 感情の見あたらない、瞳。

「……あなたは」

 相手の首が、ほんの微かに動く。だが表情は変わらない。

「何を聞きたい?」

 ただ、その一文字に閉じた唇が、微かに開かれる。重ねて問うことはしない。ただ一つの質問だけを口にし、彼の答えを、待っているかのようだった。

「……あ……」
「それとも、喋れないのか?」

 抑揚の、少ない言葉が耳に飛び込む。懐かしい声。

「違う俺は喋れる、ただ……」

 Gは息を呑む。そう来たか、と思う。

「一つ聞きたいんだ……」
「何を」

 あくまで最低限の言葉しか、相手は口にしない。喋りすぎるのは禁忌だ、とでも言いたげに。

「ここは…… アンジェラス星域の本星なのか?」
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