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9.古典的な、銀行強盗の光景

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 駅付近イクォール繁華街という訳ではない。
 いや、以前は繁華街だった名残はあちこちにある。現在はただの共同住宅になっている三階建ての建物も、窓の装飾、取り外した看板の跡などが、かつてはそこが客商売だったことを物語っている。
 現在は、と言えば、繁華街をバスの三つ四つ向こうの通りに取られた状態の、中途半端な場所になっている。
 ロゥベヤーガはこのあたりの政治的中心でもあるのだが、その機能を持つ場所は、繁華街からもう少し先である。鉄道駅で言うなら、隣のフジェクヤーガということになる。
 そんな、全く人通りが無い訳ではない。それでも駅のそばなのだ。
 繁華街に店を出している人々が住まう共同住宅や、病院の支部、銀行の支店というものがそこには集まっていた。
 Gの目的はその銀行にあった。この場所にどのくらい滞在するのか、まだ予想がつかないだけに、行動の自由を保障する程度の金はいつも何かしら必要ではあった。
 もっとも、銀行へ向かう彼自身あまりいい気分ではなかった。そもそも自分があっさりと所持金を取られるというのは。しかも「半分」である。全部取っても構わないのに「半分」。何となく馬鹿にされた様な気もする。
 しかしまあ、起きてしまったことは仕方ない。彼は教えられたラフダ銀行の看板を探した。
 すぐに見つかるよ、とイアサムは言ったが、確かにそうだった。
 その建物は周囲から浮いていた。特にそこだけが高いとか大きいとか言う訳ではないが、他の建物が、二十年三十年といった年季が入っているのに対し、そこだけがぴかぴかに浮き上がっている。
 そして、周囲の白い建物の中で、黄色と青の二色に塗ってあるあたり…… 彼は頭を抱えた。誰がこんなデザインにしたのだ、とため息をついた。
 それはどうも、駅から一歩足を踏み出した旅行者誰にも共通するらしく、道の突き当たりである駅から出てきた大きな荷物を持った人々が、時々ぎょっとした顔でその建物を見上げている。
 まあしかし、旅行者にとっては、頼りになる場所であるので、多少景観を壊しても便利は便利、ということかもしれない。
 気を取り直して、Gは通りを渡って銀行へと足を進めた。
 扉は自動ではない。彼は重いガラスの入った扉を押した。すると少し奥まったところに、男性の従業員だけがずらりと並んでいる。さすがにこういう場所では、あの長い服を着ている者はいない。白い、短い襟を立てたシャツに、サスペンダをつけた黒いパンツで統一されていた。
 客はさほど入っていなかった。彼は迷わずに、人気の無いカウンタへと向かう。カードを確認すると、従業員は少しお待ちください、と言って、彼に待合いの席を手で示した。
 待合いの席は、無造作に置かれた木製のベンチだった。座ると一瞬、かたん、と揺れた。足の長さのせいなのか、それとも地面がまっすぐではないのか、とにかく位置をすらすとかたかたと揺れる。面白い。
 高い場所にある窓は、円の中に幾何学模様が入っている。そこから昼時間近い朝の光が射し込み、降り注いでいる。いい感じだ、と彼はまた思う。
 だからこそ、何故外観があんな風なのか、彼には理解ができなかった。
 彼はこの街の、強烈なまでの白さが気に入っていた。あの白さは、陽の光にも似ている。全てのものをその中に包み込んでしまって、何も考えられなくしてしまうものだ。
 無論彼の中では、そう考える自分自身を危険だと思っている。自分は自分であり、他の誰でもない。自分以外のものに染まってしまうことを、彼は許せないのだ。
 数分、彼はややぼうっとした視線で辺りを見渡していた。と、その視線が、ある一点で止まる。おや?

「リヨンさん」

 先ほどの従業員が彼の名を呼ぶ。彼はつ、とベンチを立った。

「クレジットですね」

 ええ、と答えながら彼は耳を澄ます。隣のカウンターでは、別の客のカードが置かれている。名前が呼ばれる。聞きながらGは自分の金を素早く懐に納める。カードをポケットに入れる。
 ありがとうございました、という従業員の声を背に、彼は銀行を出ようとする ―――その時だった。
 はっ、と息を呑む音がした。
 それが誰の喉から発したものなのかは判らない。だが、その音が彼の視線を再び内側に向けさせていた。
 声は、今さっき自分を相手にしていた従業員だった。
 そして、その横の従業員は、口を塞がれていた。カウンターごしに、サングラスをした男が、片手で従業員の首を抱く様にして口をふさいでいる。空いた方の手には、大きな銃があった。
 あらら、とGは思った。ひどく古典的な、銀行強盗の光景が、そこには繰り広げられていた。
 同じ様にベンチで待っていた客は、ある者は立ち上がり、ある者は座ったまま、視線を銃の男に向けている。どうしようか、と生唾を飲んでいる者もいれば、取り押さえるタイミングを推し量っている者もいる。
 そしてGは、と言えば、そんな客の姿をちらちらと伺っていた。
 あっちに一人。こっちに一人。
 単独犯ではないだろう、と彼は状況を素早く判断する。ベンチから立ち上がった一人が、長い服の、ゆったりとした袖の中に手を入れた。
 そして背後に。
 すっ、と彼は背中から近づく気配を感じていた。だが避けることはしない。
 案の定、次の瞬間、彼は自分の身体が、肉厚の、濃い体毛の男の腕に押さえられているのが判った。目の前の従業員同様、首を今にも折られかねない勢いで、腕が回されている。体臭がきついな、と彼は息を呑むジェスチュアをしながら、半面、そんなことを考えていた。
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