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第23話 警告を発せられた種族

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 最初にそれが判明したのは、小さな街の片隅だった。既に客人から、住人となっていたマロード達は、その惑星のいたる所で見受けられていた。黒い長い髪、やや特徴のある瞳を除いては、その星系の元々の住人と見分けはつかない彼等は、何ごともなく平和に暮らしていた。
 実際その宗主は、元々さほどの数が居る訳でないマロード達には、日々の生活に困らないような特別な援助を与えていた。彼等の惑星を削ったその一部分が、その資金に当てられたが、その全体の利益に比べれば、それは大した支出ではなかったのだ。
 宗主の元に置かれた娘が、何かと指図をした、という説もあった。だが娘は無口だったので、その真相は彼女が死ぬまでとうとう判らなかった。
 ただ、彼女は宗主が死ぬ時に、同時に息を引き取ったとされている。
 彼等を受け入れた時の宗主が死に、戦争が長期化し、次第に生活が圧迫されるようになって始めて、元々の住民は、自分達と、彼等マロードの待遇の違いに気付いた。前宗主は、マロード達への援助を、自分の死後も続けるように、と次期宗主に遺言していたのだ。そして新宗主は、その遺言を守る。
 たとえマロード達の居た惑星が資源が豊富とはいえ、それはあくまで戦争のために使われるエネルギーであったり、鉱産資源であるに過ぎない。惑星内の生活物資の不足には何の役にも立たなかった。
 そして対立が生まれる。
 引き金は、一人の住民が、マロードの少女に襲いかかったことだった。
 それまでも全く無かった訳ではない。だが、その時とは、事情が違った。それまでは、すぐに助けの手があった。それが同族であろうが、異種族であろうが。
 ところが、その時には違った。
 襲われた少女を助けようとする者は誰もいなかったのだ。それどころか、面白そうだ、と他の者までが、よってたかって少女に襲いかかる。
 恐怖と絶望にとりつかれた少女は、その時とうとう、自分達の正体をあかしてしまった。
 当初住民達は、何が起きたのか判らなかったらしい。
 だが、次の瞬間、彼等は、悲鳴を上げて逃げ出したという。
 少女の髪が、それまでになく、異様な長さに伸びていた。
 そしてその黒い、長い髪は、彼女を襲った男に、それ自体が一つの別の生き物であるかのように絡み付き……
 そしてその絡み付かれた男は、……死んでいた。
 それも、尋常な死に方ではなかった。少女が慌ててその髪を一気にまとめて一目散に逃げ出した後、それを確認した者はさすがにその場に腰を抜かしたという。
 それまで、生きていた者が、一瞬の内に全ての水気、全ての生気を抜かれたような、髪は逆立ち、しかし腰もなく垂れ下がり、二つの目はかっと開かれ、皮という皮が骨という骨に、それをつなぐ柔らかな肉を無くし、ただ、へばりつくしかない…… そんな、違う物体に変わっていたとすれば、誰でもその様な反応をするだろう。
 人々は直感で、少女が……引いてはマロードと呼ばれる種族が、そんな特性を持つものであるということを理解した。この場合、決して裏付けとなる証拠や、理論など必要はない。人々の身体が、それを恐怖したのである。
 だがまだそれでも多少の理性は残っていたらしく、彼等市民は、時の宗主に、マロードの調査を依頼した。宗主は先の宗主の遺言もあり、最初はそれを渋っていた。
 だがしかし、それを殆ど独断で決行してしまった者が居た。当時の警察長官である。彼はマロード達がこの地にやってきてから、続発する原因不明の事件の原因をそこに見いだした。
 かなり強引に、彼はマロード達に監視をつけ、そしてある日、他愛のない理由で数名を拘引した。
 ……そこでどんな取り調べが行われたかは記録に無いが、そこで彼等の正体は、公の元に明らかにされた訳である。
 警察長官の報告を受けた宗主は直ちにマロード達の「保護」令を出した。
 だが、その時には、既にその惑星上には、マロード達の姿は無かった……
  宗主は、交易を行っている惑星、連合を組んでいる惑星にこの美しくも禍々しい存在に、「シャンブロウ種」という名を付けて、警告を発した。
 シャンブロウ。遠い過去の小説の中に現れたその存在は、基本的に女性の形を取っていた。若草色の、瞳の無い目をしたその生物は、普段は片言しか話さなかったという。頭部から髪のように、血の色の触手を無数に伸ばし、その触手で人間の生気を吸い取るとされていた。
 だが吸い取られる側も、その時に強烈な性的快感を覚えるということで、自分の生命が弱まると判っていても、シャンブロウの魅力から逃れられなかったという……
 その名を宗主は彼等につけた。


 
 鷹はそこまで読んで、ふう、と息をついた。



 彼等が次に確認されたのは、戦争が終わりであることを、誰もが気付きだした頃だった。
 天使種が、人間が居住する全星域を支配することを次第に示し始めた時、ある特定の種族に関する密告を奨励した時期があった。
 既に実際の戦闘や爆撃で絶滅した種族も何十とあったが、念を押すように、シャンブロウ種も含まれる六種が追跡され、絶滅に追い込まれた。
 戦争終結と帝国成立の宣言とともに、その六種の「絶滅」が全星域の広報に載る。


 
 だけど、と鷹は思う。
 何か、肝心な点が、彼等について記述される内容からは、抜け落ちているような印象があった。
 椅子に背を預け、腕組みをしながら彼は天井を見る。
 最初に、綺麗なマロードの娘を側に置いた宗主は、それには全く気付かなかったのだろうか。その生気を全く抜かれることはなかったのだろうか。
 それに、彼等は何故生気を抜かなくてはならないのだろうか。普通の生活は送ることができる筈だ。マロードは他の住民に混じって過ごしていたのだから。そして、自分の相棒もまた、確かに偏食がひどいが、一緒に食事は摂れる。
 だが。
 ふっと、相棒と食事を摂る時のことを考える。よほどのことが無いと、オリイは動物性タンパク質を摂らない。
 何かそれが関係あるのだろうか。
 様々な疑問が頭をよぎる。だが、それは一朝一夕で答えの出るようなものではなさそうだった。
 そして、彼は一度頭を振ると、画面をこのルナパァクの観光案内に切り替えた。とりあえず、遊園地なのだ。 
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