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28 二日目⑨綺麗すぎて種も無いりんご

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「ほぅ、ずいぶんいい奴を選んできたね」

 農家の主人はダグラスに向かってそう言った。

「いや、選んでないよ。一本から一個ずつ、適当に採ってきた。どんな種類なのか聞きたくて」
「適当に? 嘘だろ」

 主人は太い手をひらひらと振る。

「だいたい今の時期、葉っぱにだって虫がつくぜ。実につかない訳ねえだろ? しかもこの色づき、全然ムラがねえじゃないか」

 ダグラスは一つ取り上げてみる。

「確かに赤だ黄色だの違いはあるがな…… それに匂いが無いぞ」
「ああ、それは俺もさっき思った」
「果物ってのは、そいつを食わせて種を何処かに運んでもらおうっていう力があるんだよ。だから匂いが無いってことはありえねえ。よっ」

 一つを器用に真ん中から割る。

「……種が無え」
「へ?」
 ちょっと待ちな、と言って主人はナイフを取り出す。
 よ、と半分に切ったりんごを今度は横方向から切る。
「確かに」
「生ってたって、あの館に通じる並木だろ?」
「ああ」
「あそこの実はだいたい毎年小さくて酸っぱくてな、どっちかというと元々の御主人は花を見るのがお好きなんだ。で、実の方は、大した手入れもしないが、それでもそれなりに小さいが量は生るんで、ジャム用なんだぜ。ここいらの連中も採らせてもらってるくらいだ」
「じゃあ何だ、こんな風に生るってことは」

 主人は黙って首を横に振った。

「じゃあ何だ、こんなんばかり生ってて、虫の一つもつかねえってのは」
「気持ち悪いな」
「え、俺さっき二個食っちまった」

 馬丁が胸を押さえる。

「別に気持ち悪くなってねえんならいいんじゃないか?」
「だったらいいけど……」

 馬丁――馬――牛――
 ふと、ダグラスの中で一つの連想が広がる。

「馬って確か、りんご好きだよな」
「ああ、確か結構季節になるとやってたな」
「牛は?」
「食うぞ…… って何かあるんか?」
「ここより館に近い農家が居なくなってる、って言ったろ?」
「ああ、昨日言ってたな。ありゃいつの間に、と思ったんだがな。それとりんごと何か関係があるのか?」
「関係…… いや、俺も今一つ、もやもやしてな。なあ、もう一度確認だが、だいたいここいらで農家やってるってことは、牛も馬も、館の元々の御主人の持ち物ってことだよな?」
「ああ、うちもそうだが、一応自分の持ち物ってことにはなってるが、土地が御主人様のものである以上、出て行く時には引き取っていただく様な扱いだ。そうだな、借りている、みたいなものだよな」
「それがまるっきり空っぽになっているってどういうことなんだ?」
「……見に行くか」

 真剣な顔になって主人は言った。
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