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16 一日目⑫ジャムに夢中なメイド達

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「あー、まだ温かいわね」
「ジャムというよりソースかしら」
「でもこういうの食べられるのって作った方の特権よね!」

 そう言いながら、チェリア以外のメイドは銘々ジャムをパンに思い切りつけて食べる。

「美味しいのに残念」

 エメリーはチェリアに言う。

「判ってるんだけど、馬車酔い入ってる時って、味が濃いもの食べると後が怖いのよ…… まあ明日余ってたら貰うわ」
「無くなっちゃうわよ」

 そうフランシアは言う。
 その時は仕方ない、とチェリアは思う。
 そんな体質でよくまあ遠方まで来たなあ――と自分でも思わなくもないのだが、やはり遠くの珍しい場所というのはなかなかに魅力的だったのだ。
 メイドという仕事をしていると、そう簡単にあちこちには行けない。
 確かにごくたまに休みは貰えるが、それでも基本常に仕事は溢れているのだ。
 急に必要にされたら、と思うとおちおちのんびり休んで遠出、ということもできない。
 メイドになって三年。
 まあ何とか形になってきた、という歳である。
 その一方で、この変化が激しい時代の中で移り変わっていくものを見てみたいという気持ちもある。
 だからこそ、ついつい今回はやってきてしまったのだ。
 紅茶も薄めて、パンをもそもそとチーズとともにかじる。
 余った付け合わせのゆでた豆やにんじんに軽く塩をかけて。

「そう言えば、明日はりんごも採りに行こうと思うんだけど」
「砂糖の使いすぎには気をつけるんだよ」

 途中から入ってきたガードルードが彼女達に声を掛ける。
 何だかんだ言って、砂糖は主人のためのものであり、彼女達のものではないのだ。

「そう言えば、明日の旦那様達のお弁当は何か欲しいものを聞かれたかい?」

 ガードルードは問いかける。
 主人と上の坊ちゃんが狩りに行く、と言ってもきっと奥様とお嬢様も一緒なのだ。
 バスケットを用意せねばなるまい。

「向こうでお茶を淹れる道具って持ってきてますか?」
「それは確か倉庫で見つけたよ。しまい込んであったけど、ちゃんと洗わないとね」

 馬車でも使っていたが、食器やカテラリーを共に詰めるバスケットならすぐにまた使える。
 問題は中身だ。何を入れたものか。

「誰が付いていく?」
「確か、ダグラスかイーデンは行くって言ってたけど。銃の道具持ちもあるし」
「チェリア行ってらっしゃいよ、せっかくなんだから」

 エメリーは皆と共にこの甘味を満喫できない彼女に勧める。

「そうよね。今日だってあれから皆ばたばた。掃除の方はあたし等ががんばるし」
「あたしも明日もベリー摘みしなくちゃ」

 マーシャはそう言って、人一倍ジャムをつけたパンを頬張り、満足そうな顔をした。
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