1 / 16
プロローグ
しおりを挟む
尾原真理子は園長室の扉を叩いた。
この児童施設「向日葵園」に就職して三年。
ここまでの道のりは決して平坦ではなかったのに。
どうぞ、と園長の声がし、彼女は扉を開いた。
「どうかしましたか、尾原先生」
穏やかな微笑を浮かべ、園長は仕事の手を止めた。
そう、何故疑ったことすらなかったのだろう。
彼女は園長の他の表情を知らない。
あの時もそうだった。
面接の時だ。
履歴書を見ながら、園長はこう言った。
「色々あったのですね。頼もしいですよ」
それまでにも「真面目」とか「一生懸命」は言われて来た。
だがそれ以上のことは無かった。
「あなたの様な意思の強いひとなら、強い子供を育ててくれそうだ」
信用と期待。
それは真理子にとって初めてのものだった。
それまでの苦労が報われた思いだった。
真っ直ぐ自分を見ながら、にっこりと笑ったあの顔が真理子の脳裏に未だに焼き付いている。
それ以来、彼女はこの園で「先生」と呼ばれる身分と高額の給料と、日々を暮らして行く場所が手に入ったのだ。
ブライヴェイトは減ったが、―――それでも、自分が施設で育てられていた頃に比べれば、ずっとましだった。
彼女自身、施設の出身だったのだ。
この児童施設「向日葵園」に就職して三年。
ここまでの道のりは決して平坦ではなかったのに。
どうぞ、と園長の声がし、彼女は扉を開いた。
「どうかしましたか、尾原先生」
穏やかな微笑を浮かべ、園長は仕事の手を止めた。
そう、何故疑ったことすらなかったのだろう。
彼女は園長の他の表情を知らない。
あの時もそうだった。
面接の時だ。
履歴書を見ながら、園長はこう言った。
「色々あったのですね。頼もしいですよ」
それまでにも「真面目」とか「一生懸命」は言われて来た。
だがそれ以上のことは無かった。
「あなたの様な意思の強いひとなら、強い子供を育ててくれそうだ」
信用と期待。
それは真理子にとって初めてのものだった。
それまでの苦労が報われた思いだった。
真っ直ぐ自分を見ながら、にっこりと笑ったあの顔が真理子の脳裏に未だに焼き付いている。
それ以来、彼女はこの園で「先生」と呼ばれる身分と高額の給料と、日々を暮らして行く場所が手に入ったのだ。
ブライヴェイトは減ったが、―――それでも、自分が施設で育てられていた頃に比べれば、ずっとましだった。
彼女自身、施設の出身だったのだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
バンドRINGERを巡る話①警鐘を鳴らす声
江戸川ばた散歩
ライト文芸
「クロール」「わらう雨」と同じ世界の話。 とある朝、バンド「RINGER」のリーダーでギタリストのケンショーはヴォーカルの「Kちゃん」に逃げられる。 凹んでいた彼の前に高校生バンドのヴォーカル、カナイ君が現れる。 元々ケンショーのファンだった彼。バンドに新たな風は吹くか? と…
今日、私は浮気します
文月・F・アキオ
ライト文芸
ついにこの日がやって来てしまった。
これで良かったと思う反面、これをきっかけに家族が完全崩壊したらどうしよう、とも思う。
結婚14年目の菅野美由希(33)は、三人の子供を持つ主婦である。夫婦仲は良好で、ご近所ではそこそこ評判のオシドリ夫婦だ。
しかし周囲は知らなかった。美由希が常に離婚を視野に入れながら悩んでいたことを――
セックスレスに陥って十数年、美由希はついに解決への一歩を踏み出すことにした。
(今日、私は浮気します)
•―――――――――――•
表題作を含めた様々な人物の日常を描くショートショート小説集《現代版》。
一話あたり1,000文字〜5,000文字の読み切りで構成。
まれにシリーズ作品もあり(?)の、終わりなき小説集のため、執筆状態[完結] のまま随時新作を追加していきます。
●10/10現在、準備中のネタ数:8話
(10日か20日に)気まぐれに更新していきす。
コント:通信販売
藍染 迅
ライト文芸
ステイホームあるある?
届いてみたら、思ってたのと違う。そんな時、あなたならどうする?
通販オペレーターとお客さんとの不毛な会話。
非日常的な日常をお楽しみください。
ひょんなことから始まるお話
circle。
ライト文芸
『理解してるつもりでも見方を変えるとどうだろう?』
高校生の秦裕一(はたゆういち)は不思議な生物に出会った。
どうやらこの生物の試練を乗り越えられなければ強制的に過去へタイムスリップするらしい。
試練の内容は、怪物の捕獲。
さぁ、どうするかーーー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
介護ウォースパイト!!
今村 駿一
ライト文芸
ブラック介護施設で働く吉岡君。
毎日毎日休憩も取らずサービス早出サービス残業とボランティア出勤(定休日に働く)を繰り返し疲弊する日々。
働きづめの毎日に嫌気がさしていたが真面目な性格で辞める事が出来ないでいる。
そんなある日、新しい職員が加わった。
運命の歯車が回る。
※短編の予定ではございますが長編用のプロットも用意してございます。
様子を見て長編で投稿させて頂きたく思います。
宜しくお願い致します<m(__)m>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる