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37 東洋に散らばる真のハイロール一族

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「嘘だ、と私は思った」

 伯父様は続けた。

「写真の中に居たのは、妻を殺したあの男だ。だけどそこにはハイロール男爵家の生き残り、とある。あの家は沢山若いのが居たから、もしかしたら、本当にハイロール男爵家の誰かかもしれない。だけど、妻を刺した奴であることも確かだ。私はどうしたらいいものか、また寝込んだ」

 こちらはこちらで、正体を探していたのか。

「だが身体が治ってしばらくは、犯人がどうとか、それどころではなかった。妻が残してくれたこいつを、一人前に育てるまではどうにも、と思っていたし、自分自身が身体の不自由に慣れなくてはならない。その上、その男爵を名乗った奴が、よりによって妹に求婚したとか何とか。いっそ国に戻ろうか、と思った矢先、親父が蟄居を命じられたってニュースが来た。こりゃ帰ったところでどうにもならない、と思ってこっちで仕事のついでに、ハイロールの生き残りがどうしているかも、探りを入れてみた。反乱のあった時、あの家はまともに被害に遭ったらしいんだが、全てが全てやられた訳ではなかったらしい。何人かばらけていたが、再会することもできた。ただ、ハイロール男爵家の者である、という証明のできるものが取られてしまったということだった」
「それじゃ、元々のハイロールの人々は向こうでどうやって生きていたんですか?」

 キャビン氏は身を乗り出して尋ねた。

「あの連中は実に柔軟な頭をしていてな。あっちこっちに飛び散ってはその才能を生かして、現地の有力者と血縁を結んだ」
「現地――というと?」
「あちこちだ」

 伯父様は地図を出して広げた。

「私が居たのはこの辺り」

 インドでも中央から南よりの方だった。

「反乱は北の方で主に起きたからな。ただ、あの家の一族は家族単位で国をまたいでいた。そのうちの、北インドに居た本家は奇襲に遭ったらしい」

 つまり、と伯父は反乱があった辺りと、当時最も本国に戻るのに近い船の出る港を指でたどる。

「この線上に、我が家はあった。当初は藩王国の客人として、その後はそこから許可を得て友人と商売をしていた」
「一方で、ハイロール一族は、本当にあちこちに散ったそうです。我々に近い藩王国の何処か、ジャヴァ、インドシナ、チャイナ、それにジャポン。そこまで彼等は東へ東へと進んでいった様です。更にそこから新大陸の西海岸まで行った者が居るとか居ないとか」

 何って言うスケールだ、と私は驚くよりも呆れた。

「変わり者の一族と言われていたが、まあ確かにそうだった。誰かが男爵位を詐称しているぞ、と私は言ったこともある。だがその時の身近な一族の一人は、天に任せれば何とかなる、と言っていた。まあ一番近場に居たのは、楽器が上手い者だったがな」
「伯父様」

 私はふと思いついたことを尋ねた。

「その散った一族の人々は連絡を取り合っていたんですか?」
「さて、どうかな」

 首を傾げた。

「何というか、飄々としていてな。その辺りははぐらかされたんだ」
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