37 / 43
37 東洋に散らばる真のハイロール一族
しおりを挟む
「嘘だ、と私は思った」
伯父様は続けた。
「写真の中に居たのは、妻を殺したあの男だ。だけどそこにはハイロール男爵家の生き残り、とある。あの家は沢山若いのが居たから、もしかしたら、本当にハイロール男爵家の誰かかもしれない。だけど、妻を刺した奴であることも確かだ。私はどうしたらいいものか、また寝込んだ」
こちらはこちらで、正体を探していたのか。
「だが身体が治ってしばらくは、犯人がどうとか、それどころではなかった。妻が残してくれたこいつを、一人前に育てるまではどうにも、と思っていたし、自分自身が身体の不自由に慣れなくてはならない。その上、その男爵を名乗った奴が、よりによって妹に求婚したとか何とか。いっそ国に戻ろうか、と思った矢先、親父が蟄居を命じられたってニュースが来た。こりゃ帰ったところでどうにもならない、と思ってこっちで仕事のついでに、ハイロールの生き残りがどうしているかも、探りを入れてみた。反乱のあった時、あの家はまともに被害に遭ったらしいんだが、全てが全てやられた訳ではなかったらしい。何人かばらけていたが、再会することもできた。ただ、ハイロール男爵家の者である、という証明のできるものが取られてしまったということだった」
「それじゃ、元々のハイロールの人々は向こうでどうやって生きていたんですか?」
キャビン氏は身を乗り出して尋ねた。
「あの連中は実に柔軟な頭をしていてな。あっちこっちに飛び散ってはその才能を生かして、現地の有力者と血縁を結んだ」
「現地――というと?」
「あちこちだ」
伯父様は地図を出して広げた。
「私が居たのはこの辺り」
インドでも中央から南よりの方だった。
「反乱は北の方で主に起きたからな。ただ、あの家の一族は家族単位で国をまたいでいた。そのうちの、北インドに居た本家は奇襲に遭ったらしい」
つまり、と伯父は反乱があった辺りと、当時最も本国に戻るのに近い船の出る港を指でたどる。
「この線上に、我が家はあった。当初は藩王国の客人として、その後はそこから許可を得て友人と商売をしていた」
「一方で、ハイロール一族は、本当にあちこちに散ったそうです。我々に近い藩王国の何処か、ジャヴァ、インドシナ、チャイナ、それにジャポン。そこまで彼等は東へ東へと進んでいった様です。更にそこから新大陸の西海岸まで行った者が居るとか居ないとか」
何って言うスケールだ、と私は驚くよりも呆れた。
「変わり者の一族と言われていたが、まあ確かにそうだった。誰かが男爵位を詐称しているぞ、と私は言ったこともある。だがその時の身近な一族の一人は、天に任せれば何とかなる、と言っていた。まあ一番近場に居たのは、楽器が上手い者だったがな」
「伯父様」
私はふと思いついたことを尋ねた。
「その散った一族の人々は連絡を取り合っていたんですか?」
「さて、どうかな」
首を傾げた。
「何というか、飄々としていてな。その辺りははぐらかされたんだ」
伯父様は続けた。
「写真の中に居たのは、妻を殺したあの男だ。だけどそこにはハイロール男爵家の生き残り、とある。あの家は沢山若いのが居たから、もしかしたら、本当にハイロール男爵家の誰かかもしれない。だけど、妻を刺した奴であることも確かだ。私はどうしたらいいものか、また寝込んだ」
こちらはこちらで、正体を探していたのか。
「だが身体が治ってしばらくは、犯人がどうとか、それどころではなかった。妻が残してくれたこいつを、一人前に育てるまではどうにも、と思っていたし、自分自身が身体の不自由に慣れなくてはならない。その上、その男爵を名乗った奴が、よりによって妹に求婚したとか何とか。いっそ国に戻ろうか、と思った矢先、親父が蟄居を命じられたってニュースが来た。こりゃ帰ったところでどうにもならない、と思ってこっちで仕事のついでに、ハイロールの生き残りがどうしているかも、探りを入れてみた。反乱のあった時、あの家はまともに被害に遭ったらしいんだが、全てが全てやられた訳ではなかったらしい。何人かばらけていたが、再会することもできた。ただ、ハイロール男爵家の者である、という証明のできるものが取られてしまったということだった」
「それじゃ、元々のハイロールの人々は向こうでどうやって生きていたんですか?」
キャビン氏は身を乗り出して尋ねた。
「あの連中は実に柔軟な頭をしていてな。あっちこっちに飛び散ってはその才能を生かして、現地の有力者と血縁を結んだ」
「現地――というと?」
「あちこちだ」
伯父様は地図を出して広げた。
「私が居たのはこの辺り」
インドでも中央から南よりの方だった。
「反乱は北の方で主に起きたからな。ただ、あの家の一族は家族単位で国をまたいでいた。そのうちの、北インドに居た本家は奇襲に遭ったらしい」
つまり、と伯父は反乱があった辺りと、当時最も本国に戻るのに近い船の出る港を指でたどる。
「この線上に、我が家はあった。当初は藩王国の客人として、その後はそこから許可を得て友人と商売をしていた」
「一方で、ハイロール一族は、本当にあちこちに散ったそうです。我々に近い藩王国の何処か、ジャヴァ、インドシナ、チャイナ、それにジャポン。そこまで彼等は東へ東へと進んでいった様です。更にそこから新大陸の西海岸まで行った者が居るとか居ないとか」
何って言うスケールだ、と私は驚くよりも呆れた。
「変わり者の一族と言われていたが、まあ確かにそうだった。誰かが男爵位を詐称しているぞ、と私は言ったこともある。だがその時の身近な一族の一人は、天に任せれば何とかなる、と言っていた。まあ一番近場に居たのは、楽器が上手い者だったがな」
「伯父様」
私はふと思いついたことを尋ねた。
「その散った一族の人々は連絡を取り合っていたんですか?」
「さて、どうかな」
首を傾げた。
「何というか、飄々としていてな。その辺りははぐらかされたんだ」
12
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?
まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。
うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。
私、マーガレットは、今年16歳。
この度、結婚の申し込みが舞い込みました。
私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。
支度、はしなくてよろしいのでしょうか。
☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。
事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。
そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる