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35 伯父とその息子との対面
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ふと見ると、見たことの無い紳士が、すんなりとした身体の青年と共に居た。
紳士はどうやら足が片方不自由らしい。
杖をつき、ややひきずっている。
そして顔に傷跡も。
青年は少しだけ濃い色の肌と、はっきりした目鼻立ちだ。
あまり見ない雰囲気の顔に少しばかりぼうっとする。
「手紙をありがとう、アリサ」
「フレデリック伯父様?」
「君のおかげで、頭を下げてでも何でも帰って来ようという気になれた。そうそう、こっちは息子のサマル。君より少し上だ」
「宜しく」
低い声で、従兄にあたる青年は軽く会釈してきた。
「お二人――ですか? 奥様は」
「うん。そのことも含めて、話があるんだ」
皆でそのまま応接へと移動する。
それにしても、昔来たことがあるはずなのに、このタウンハウスは男爵家と何って違うんだろう。
メイドにしても、男爵家のあのゆるさとはまるで違う。
私の出迎えが終わったと思ったら、即座に黙って次の仕事に移っている。
たぶん男爵家だと、こそこそくすくすという声が何処かで聞こえる。
「びっくりしたかね」
お祖父様が私に席をすすめながら問いかける。
ミュゼットと弁護士の二人も同じ側に同席のまま。
そして対面に伯父様とサウル。
窓際の場所に祖父母は陣取り、そこに紅茶と菓子が運ばれてくる。
「色々と苦労をかけたな、アリサ」
「いえ、それは別に大したことだとは思っていません。皆楽しいひと達だったし。ただ学校、というか、もっと沢山の知識があったらな、と思うことはありましたけど」
「そうなんです。アリサは私より考える力はあるのに、きちんと教えてもらっていないから、もの凄く残念なんです」
「うむ。これからはまず家庭教師をつけよう。そしてその上の学校に行きたいなら行けばいい。縁談に関しては、まだ急がなくていいぞ」
「よかった」
思わず私の口からそんな言葉が出た。
「どうしたね? 結婚はそんな嫌かね?」
「いえ、まあ何というか、今の私が結婚とかしても、たぶんこの家とは釣り合わない様な人としかできないのではないかと」
「と言うと?」
「子爵様、私でも判ることをわざわざ聞かないでくださいませ」
ミュゼットが口をはさんだ。
「子爵家と釣り合う縁談とすれば、社交も必要になるものでしょう? アリサはその辺りを全く学んでいないし…… それ以上に、アリサ、社交界とか出たい?」
「ううん」
私は即答した。
「お祖父様にとって必要があるなら、努力しますけど、私にはたぶん無理ではないかと」
「まあそれはいいさ。カミーリアだって身体が弱いから、と大して出てはいなかった。何にしてもお前にはこの家でしばらくしたいことがあるんだろう?」
「はい。そしてまず最初のことを片付けなくてはならないかと」
「そうだな。そうでなくては、このどら息子が帰ってきた甲斐も無いということだ」
「相変わらずの口の悪さだ。別に父上のためだけでしたら戻ってはきませんでしたよ」
「では一体?」
私は伯父様に問いかけた。
それに、奥様が居ないことも気になる。
従兄のサマルの外見からして、噂通りの現地の女性が奥様だったのだろうけど。
紳士はどうやら足が片方不自由らしい。
杖をつき、ややひきずっている。
そして顔に傷跡も。
青年は少しだけ濃い色の肌と、はっきりした目鼻立ちだ。
あまり見ない雰囲気の顔に少しばかりぼうっとする。
「手紙をありがとう、アリサ」
「フレデリック伯父様?」
「君のおかげで、頭を下げてでも何でも帰って来ようという気になれた。そうそう、こっちは息子のサマル。君より少し上だ」
「宜しく」
低い声で、従兄にあたる青年は軽く会釈してきた。
「お二人――ですか? 奥様は」
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皆でそのまま応接へと移動する。
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メイドにしても、男爵家のあのゆるさとはまるで違う。
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たぶん男爵家だと、こそこそくすくすという声が何処かで聞こえる。
「びっくりしたかね」
お祖父様が私に席をすすめながら問いかける。
ミュゼットと弁護士の二人も同じ側に同席のまま。
そして対面に伯父様とサウル。
窓際の場所に祖父母は陣取り、そこに紅茶と菓子が運ばれてくる。
「色々と苦労をかけたな、アリサ」
「いえ、それは別に大したことだとは思っていません。皆楽しいひと達だったし。ただ学校、というか、もっと沢山の知識があったらな、と思うことはありましたけど」
「そうなんです。アリサは私より考える力はあるのに、きちんと教えてもらっていないから、もの凄く残念なんです」
「うむ。これからはまず家庭教師をつけよう。そしてその上の学校に行きたいなら行けばいい。縁談に関しては、まだ急がなくていいぞ」
「よかった」
思わず私の口からそんな言葉が出た。
「どうしたね? 結婚はそんな嫌かね?」
「いえ、まあ何というか、今の私が結婚とかしても、たぶんこの家とは釣り合わない様な人としかできないのではないかと」
「と言うと?」
「子爵様、私でも判ることをわざわざ聞かないでくださいませ」
ミュゼットが口をはさんだ。
「子爵家と釣り合う縁談とすれば、社交も必要になるものでしょう? アリサはその辺りを全く学んでいないし…… それ以上に、アリサ、社交界とか出たい?」
「ううん」
私は即答した。
「お祖父様にとって必要があるなら、努力しますけど、私にはたぶん無理ではないかと」
「まあそれはいいさ。カミーリアだって身体が弱いから、と大して出てはいなかった。何にしてもお前にはこの家でしばらくしたいことがあるんだろう?」
「はい。そしてまず最初のことを片付けなくてはならないかと」
「そうだな。そうでなくては、このどら息子が帰ってきた甲斐も無いということだ」
「相変わらずの口の悪さだ。別に父上のためだけでしたら戻ってはきませんでしたよ」
「では一体?」
私は伯父様に問いかけた。
それに、奥様が居ないことも気になる。
従兄のサマルの外見からして、噂通りの現地の女性が奥様だったのだろうけど。
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