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26 自分の父への感情に気付いてしまった

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「たぶん、ですか」
「はい」
「なるほど。その辺りが貴女の意思のぶれ方に現れているのですね」
「ぶれていますか」
「はい」

 彼はメモを胸の前でぱたん、と閉じた。

「たぶん、貴女は考えすぎる」
「考える時間だけはありましたから」
「でも、考えすぎでもある。ミュゼットさんが言ってましたよ。アリサさんは自分が傍から見たら酷い目にあっていることに慣れすぎている、って」
「ミュゼットが?」

 私は顔を上げた。

「庶子いじめ、ということが貴族の家ではちょいちょいあります。本妻の継子いじめもね。だけど貴女の場合は、そもそも本妻の実の子だというのに今の境遇じゃないですか。しかも、後妻の子であるミュゼットさんとその後異母姉妹――これはちょっと今ぐらついていますが――とも仲良く暮らしていた。貴女は父親に憎しみを持っていないのではないですか?」
「……ああ」

 そうか。
 何となく腑に落ちるものがあった。

「キャビンさん」
「はい」
「私は本当に、なんだと思います。父に対しての憎しみが本当は無い。というか、んです。だけど、何で母を殺したとばかりに私を憎み、それでも同時期に今の夫人と関係を持てていたのか、それが知りたいんです。調べれば調べる程、ただの好奇心として」
「憎んではいない」
「はい。何かそう言われて納得がいったんです。私は父そのものにはんです。ただ父が何なのか、ということに関心があるんです。おかしいでしょうか」

 彼は苦笑する。

「おかしいというか…… まあ、ミュゼットさんとは違ってますね。彼女の方が、よっぽど男爵と夫人に対し、目に物見せてやりたい、と思ってますよ」
「え」
「手仕事もしたことの無い彼女が、そうでなくて二年で貴女の乳母を納得させられる様な家事ができると思いますか? 彼女の原動力は自分を放り出した母親への憎しみですよ。それは非常にわかりやすい。ミュゼットさん曰く、『若い女は二人も要らない』で放り出され、今現在彼女が家に居ないということ自体関心を持たれていない。それまでそれなりに母親として構ってくれただけに、そのがらりと変わった扱いには腸が煮えくり返る思いでしょう。だから彼女が貴女に協力するのは、貴女が男爵を自分同様憎んでいるから、と共感していることが大きいのではないでしょうか」
「じゃあ、ミュゼットにはこの気持ちは言わない方がいいんでしょうか」
「うーん……」

 彼はかりかりとこめかみを引っ掻いた。

「ミュゼットさんだけでなく、この件で味方になってくれている人々全体にあまり知られない方がいいですが……」

 苦笑して、彼はうしろを振り向いた。
 ハッティやロッティだけでなく、ファデットやハルバート、ドロイデまで居る。

「まあ、知れてしまいましたね」
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