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策謀の果てに

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「……雇い主を、殺せばいいんだな?」

 エリンは、フリージアからの提案を受け入れるつもりだった。
 彼の雇い主に義理立てする理由は、もはやない。こうして刺客を放ってきたのだ。
 アサーラはもう助からない。だが、アーミナには、希望がある。
 同じ境遇を過ごし、年上の女性として気遣われたという程度の関係でしかない。
 だが、それでもエリンにとっては暗闇の中で見出した光であったのだ。
 だから、救いたい。

「エリン、やってくれるのかしら?」
「やり遂げる、必ず」

 エリンの瞳から、反抗的なものは消えてはいない。
 しかし、フリージアは満足していた。
 矛盾した感情だが、フリージアはエリンの完全な忠誠を望んではいない。
 反抗しながらも屈服していく、そういうエリンであってほしいのだ。

「よろしいですわ。その娘は生かしておやりなさい」
「わかりました、お嬢様」

 ダークエルフの執事は、フリージアの命にしたがってその責めを止めた。
 もちろん、執事はエリンの言葉だけを信用するような人物ではない。
 忠誠の証を要求するのは、エリンとて予想をしていた。
 想像しただけで、エリンの身体は震えてしまう。

「エリン、お嬢様がお前に慈悲を与えてくださるのだ。跪いて忠誠と感謝の証を示してみせろ」
「わかった……」

 エリンが、フリージアの前に跪く。
 その姿が、アーミナの目に焼き付けられた。
 あのエリンが、屈服してしまっている。
 いや、任務のためならばいかなる屈辱の耐える強い少年だからこそ、弟のように慈しむ思いさえあった。
 これも、そうした精神の表れなのだろうか?
 自分のためにしているのだとしたら、いたたまれない。
 姉を殺させた女に、服従の姿勢まで取ってその証としようとしている。

「お嬢様。あなたの言うことに、従います……」
「エリン……!」

 一方、フリージアは背筋がぞくぞくするものを感じていた。
 あのエリンが、自分に跪いて言うことを聞こうというのである。飼いならせない狼の子が、ついに自分に懐いたのだ。
 そっと、素足をエリンの前に向けてみる。
 言葉は、発しない。
 エリンがどういう忠誠を示してくれるのか。それだけで笑みがこぼれてしまう。

「う……。し、失礼します……」

 みずから、フリージアの足にすがりつくようにして舌を這わしてくれた。
 まるで子猫がじゃれるように。

「エリン! やめろ、やめてくれ! そんなこと……」

 アーミナからすると、目を背けたくなるような光景である。
 ギュスターランド公爵令嬢は、エリンの標的であった。
 それに屈しているなら殺せという命令であった。
 たとえ同門の仲間でも、殺すことに躊躇はなかったのだ。
 むしろ、宿命だと覚悟していた。
 だが……。
 ためらいながら生きているエリン、姉の死に動揺していたエリン、そしてその姉が殺されることになった元凶である女の足に、丹念に舌を這わして喜ばせようとするエリン。
 強いままでいたなら、殺すことに迷いはない。
 だが、弱さをさらけ出したうえに自分を救おうとしている少年相応の健気さを見せつけられるのは、耐えられなかった。

(ああ……)

 そして、フリージアにはなんとも言えぬ陶酔があった。
 同門の暗殺者が顔を背けようとしているその様子も、優越感を与えるものだった。
 悲しんでいるのかも知れないが、きっと彼女も心の底では羨ましいに違いない。
 エリンにこんなことをしてもらえることを。
 もし、エリンに恋人がいたとしても、頼み込んだってしてはもらえないことなのだ。
 支配者だからこそ、させられる。

「あむぅ……んんっ」

 右足の親指から、人差し指、中指、その指の間と、脛の当りまで、まるでエリンがみずから望んだように可愛らしく奉仕している。
 今なら、女にフェラチオをさせる気分がよくわかる。
 くすぐったくも心地がよい。
 ねぶりながら、エリンは上目を使ってフリージアの表情を窺っている。奉仕に満足しているかを確かめるために。
 よくやったとエリンの頭を撫でてやりたいほどだ。

「それだけで忠誠を示していると思っているわけでないな?」
「……わかって、います」

 執事が、声に嘲りを込めてエリンに言う。
 そんな程度で、許してくれる人物でないのは、エリンも知っている。

「そのまま、お嬢様にお前の尻を向けろ。失礼のないようにな」
「はい――」

 恥ずかしさに顔を赤らめながら、エリンはそのまま反対を向く。
 四つん這いの姿勢のままだ。

「ズボンを下ろし、もっと尻を上げろ!」
「は、はい……!」
「もっとだ!」

 顔を床に擦り付けながら、エリンは生まれたばかりの子鹿の姿勢になる。
 まるで女のようにきれいな形の尻だ。
 その窄まりを、フリージアに見せつけるようにして。

「エリン……! やめてくれ! わ、私のことなんか構わない! だから、そんな恥ずかしいことはしなくていい……!」

 見ているアーミラが泣きそうになる。
 命を奪おうとしたのに、そうした感情に支配されてしまったのは、それほど予想外であったのだ。
 まさか、こんな目に合わされているなど、想像もできようか。
 あまりにひどすぎる、いたたまれない。

「お嬢様、どうかその指でお確かめなさいませ」

 執事は、冷たくも喜悦の混じった声で進言した。
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