上 下
7 / 30

その日の夜

しおりを挟む
「どこにも行くところがないなら、今日は家に泊まっていきませんか? お客さん用の布団とか持ってないのでソファしか貸せないんですけど、それでも良かったら」

私は勇気を出して彼に言った。

「え……? う、嬉しい……ですけど……でも、やっぱり申し訳ないですよ。僕……その、男ですし……」
「私は大丈夫です。あなたのこと、信じます」

私は笑ってみせた。すると、彼は嬉しそうに微笑んでくれた。
その後、二人で簡単に食事を済ませたあとに私はシャワーを浴びた。それから、彼にも入浴するよう勧める。着替えを貸してあげようと思ってタンスの中を探ってみたけれど、男の人が着られそうなサイズのものがない。高校の頃のジャージならギリギリ入るだろうか。

そう思っていたが、お風呂から上がってリビングに戻って来た彼を見ると、袖や裾から手足が余ってしまっていた。

「すみません、大きいサイズの服がなくて……」
「そんな、全然大丈夫です。貸してくださってありがとうございます」

彼はにっこりと笑いながらそう言う。ご飯を食べてお風呂で温まったおかげか、さっきより顔色もよく、気持ちも落ち着いているように見えて安心する。

「そういえば、さっきまではどうしてこんな真夏に長袖の服を着ていたんですか? 寒がりとか?」
「え? ……うーん、どうしてかな。ちょっと僕にもわからないです」

初めて彼を見たときからずっと気になっていたことを聞いてみたけれど、結局それについては彼にもわからないようだった。あまり深掘りして彼を不安にさせてしまってもよくないかなと思い、この会話はおしまいにする。

「そうですか、変なこと聞いちゃってごめんなさい。……じゃあそろそろ寝ましょうか。ここのソファ、使っていいですから。私はあっちの部屋で寝てますね」
「はい、ありがとうございます。……おやすみなさい」
「おやすみなさい」

彼におやすみの挨拶をして、電気を消したあと、私は寝室へ行き、ベッドに横になった。
一人になると、急に色々なことを考えてしまう。今日出会ったばかりの人を自分の部屋に招くなんて、普通では考えられないことだ。本当は病院にも行ってほしかったし、警察に届けたりもするべきだと思ったけど、彼がそれをひどく恐れていたので今日はとりあえず様子を見ることにしたのだ。もちろん、彼の家族が心配しているんじゃないか……とか、他にも心配事はたくさんあったけど。今はそれよりも、彼の気持ちを優先させてあげたかった。

これでよかったのだろうかと思わないわけではないけど、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせて、私は布団に潜り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件

楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。 ※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。

雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子
恋愛
雨で引きこもっていた瑞希の部屋に、突然、義弟の伶がやってきた。 伶のことが好きだった瑞希だが、高校のときから彼に避けられるようになって、それがつらくて家を出たのに、今になって、なぜ?

処理中です...