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5 キミと勇気と、クラスメイトのお話
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ポスター掲示の許可は、最初はちょっと難しいと言われた。
「部活や委員会ならともかく、個人的なことには使えないと思うのよね」
担任の大塚先生は丁寧に話を聞いてくれたんだけど、そういう回答。
でも聞けば納得だ。学校だもん、校内にあるものはたいがいみんなのものだ。
だけど、
「でも先生。野上さんは四月にこっちに引っ越してきたばっかりで、知り合いがいません。これをきっかけにいろんな人と交流ができるチャンスでもあると思います」
一緒についてきてくれた新名さんがそう言うと、先生も少し考え直してくれた。
実は大塚先生はいい先生で、よそから来ているわたしを入学当初から気にかけてくれてるんだよね。
結局その場ではいったん保留になったけど、次の日には「昇降口に一枚だけ」という条件つきで掲示板の使用許可をもらうことができた。
よろこんだのは一瞬だけ。
わたしはすぐにポスター作りを始めた。
「手書きの方が熱意が伝わるんじゃない? マルちゃん、美術得意なんでしょう?」
「でも時間も限られてるじゃん。デジタルとアナログを上手に使って効率上げないと」
結愛ちゃんと新名さんのアドバイスを受けて、わたしはいろいろと考えた。
まず、目立つようにベースは黄色の紙にして、『新しい飼い主探してます』という文字はパソコンで打ち出す。
ちょっと手間がかかるけど、一文字ずつ切り抜いて並べたら無機質な文字でも冷たい印象にはならないかも。
ハチの写真だけは絶対に載せた方がいいから、スマホの中で一番かわいく撮れている写真を選んで真ん中に配置して、問い合わせ先に英文科一年B組野上麻瑠の名前を添える――。
「いいんじゃない?」
退屈な古典の授業の間に考えたデザイン案を披露すると、結愛ちゃんも新名さんも思いのほか高く評価してくれた。
「とにかく目に留まらなきゃ始まらないから、黄色っていいと思うー」
「文字も、どうせ切り抜くなら紙からはみ出すようにして貼ってもいいかも」
「そっか……そうだね」
二人の意見ががぜん自信を与えてくれる。
「じゃあ、これで作ってみる。材料買いに行かなきゃ」
「ああ、黄色い紙ならわざわざ買わなくても職員室に一枚くらいあると思う。あたしもらってくるよ」
「じゃあわたし、パソコン室で文字のところ作ってくるねー。マルちゃん、コンビニまで行って写真プリントしてきたら?」
「あ……うん。でも、いいよ。わたしひとりでできるよ」
わたしがそう言ったとき、すでに動き始めていた二人が足を止めた。
ちょっとびっくりしたような顔を見合わせて、わたしの方を見て、
「分担した方が早いよね」
って、二人ともあっさり言う。
わたしは、うなずいた。
そのとおりだ。分担した方が早い。
でも、この知らない人ばかりの学校で、わたしのために誰かが手を貸してくれるって発想がなかった。
「マルちゃんおもしろーい」
結愛ちゃんが笑いながら教室を出て行った。
新名さんは何も言わなかったけど、肩をすくめて結愛ちゃんに続く。
わたしはそんな二人の思いやりがうれしくて、足取りも軽くコンビニへ向かったのだった。
「よし、じゃあやろー」
「うん」
クラスの半分くらいが帰った放課後の教室。
材料が出そろって、結愛ちゃんのゆるい合図で作業は始まった。
とりあえず、丸で囲った文字を一字ずつ切り抜いていく。
「なにしてんのー?」
五分としないうちに、となりの席でしゃべっていた木下さんが首を伸ばしてきた。
髪の長い大人っぽい雰囲気の子だ。
となりの席なのにあいさつしかしたことなかったけど、今のわたしはテンションが上がってる。
「ポスター作ってるの。うちの猫のもらい手探してて」
って、勢いよく答えた。
木下さんは「へー」と面白そうな顔をした。
「手伝おうか? その文字、切り抜けばいいんでしょ?」
「いいの?」
「いいよー。ハサミあるし」
「ありがとう! じゃあ、一文字お願いします」
「オッケー」
「ハサミあまってたらわたしもやるよ?」
今度は木下さんの前の席の貝塚さんがそう言った。
そうかと思うとさらに反対側の藤原さんが、
「ポスター作るの? これ使う?」
って、マスキングテープを差し出してくる。
白地に黒で猫の足跡がデザインされたものだ。
みんなが一瞬ハッとして、
「かわいー!」
指揮されたように全員の声がハモった。
それがおかしくて、今度はみんなでいっせいに笑う。
すると残っていたクラスメイトが次々に集まってきて、
「猫ちゃんの名前も入れたら?」
「文字のところ、修正液で線入れたらぷっくりして見えるよ」
「写真に縁どり欲しいよね。ふせんでそれっぽくしてみる?」
って、次々にアイディアが出てきて、気づいたら工作大会みたいになってきた。
「なんか楽しいねー」
結愛ちゃんがのんびりと笑った。
昨日までぼっちだったわたしは、もう感動しきりだ。
「ありがとう……結愛ちゃんと新名さんが最初に手伝ってくれたからだよ」
「ぜんぜんだよー」
「ていうか、お礼言うの早い。まだできてないんだから」
にこにこする結愛ちゃんとは対照的に、新名さんはクールに、黙々とハサミを動かす。
やってくれてることは同じなのに、反応がぜんぜん違う。
おもしろい二人だなって、わたしはひそかに笑った。
「部活や委員会ならともかく、個人的なことには使えないと思うのよね」
担任の大塚先生は丁寧に話を聞いてくれたんだけど、そういう回答。
でも聞けば納得だ。学校だもん、校内にあるものはたいがいみんなのものだ。
だけど、
「でも先生。野上さんは四月にこっちに引っ越してきたばっかりで、知り合いがいません。これをきっかけにいろんな人と交流ができるチャンスでもあると思います」
一緒についてきてくれた新名さんがそう言うと、先生も少し考え直してくれた。
実は大塚先生はいい先生で、よそから来ているわたしを入学当初から気にかけてくれてるんだよね。
結局その場ではいったん保留になったけど、次の日には「昇降口に一枚だけ」という条件つきで掲示板の使用許可をもらうことができた。
よろこんだのは一瞬だけ。
わたしはすぐにポスター作りを始めた。
「手書きの方が熱意が伝わるんじゃない? マルちゃん、美術得意なんでしょう?」
「でも時間も限られてるじゃん。デジタルとアナログを上手に使って効率上げないと」
結愛ちゃんと新名さんのアドバイスを受けて、わたしはいろいろと考えた。
まず、目立つようにベースは黄色の紙にして、『新しい飼い主探してます』という文字はパソコンで打ち出す。
ちょっと手間がかかるけど、一文字ずつ切り抜いて並べたら無機質な文字でも冷たい印象にはならないかも。
ハチの写真だけは絶対に載せた方がいいから、スマホの中で一番かわいく撮れている写真を選んで真ん中に配置して、問い合わせ先に英文科一年B組野上麻瑠の名前を添える――。
「いいんじゃない?」
退屈な古典の授業の間に考えたデザイン案を披露すると、結愛ちゃんも新名さんも思いのほか高く評価してくれた。
「とにかく目に留まらなきゃ始まらないから、黄色っていいと思うー」
「文字も、どうせ切り抜くなら紙からはみ出すようにして貼ってもいいかも」
「そっか……そうだね」
二人の意見ががぜん自信を与えてくれる。
「じゃあ、これで作ってみる。材料買いに行かなきゃ」
「ああ、黄色い紙ならわざわざ買わなくても職員室に一枚くらいあると思う。あたしもらってくるよ」
「じゃあわたし、パソコン室で文字のところ作ってくるねー。マルちゃん、コンビニまで行って写真プリントしてきたら?」
「あ……うん。でも、いいよ。わたしひとりでできるよ」
わたしがそう言ったとき、すでに動き始めていた二人が足を止めた。
ちょっとびっくりしたような顔を見合わせて、わたしの方を見て、
「分担した方が早いよね」
って、二人ともあっさり言う。
わたしは、うなずいた。
そのとおりだ。分担した方が早い。
でも、この知らない人ばかりの学校で、わたしのために誰かが手を貸してくれるって発想がなかった。
「マルちゃんおもしろーい」
結愛ちゃんが笑いながら教室を出て行った。
新名さんは何も言わなかったけど、肩をすくめて結愛ちゃんに続く。
わたしはそんな二人の思いやりがうれしくて、足取りも軽くコンビニへ向かったのだった。
「よし、じゃあやろー」
「うん」
クラスの半分くらいが帰った放課後の教室。
材料が出そろって、結愛ちゃんのゆるい合図で作業は始まった。
とりあえず、丸で囲った文字を一字ずつ切り抜いていく。
「なにしてんのー?」
五分としないうちに、となりの席でしゃべっていた木下さんが首を伸ばしてきた。
髪の長い大人っぽい雰囲気の子だ。
となりの席なのにあいさつしかしたことなかったけど、今のわたしはテンションが上がってる。
「ポスター作ってるの。うちの猫のもらい手探してて」
って、勢いよく答えた。
木下さんは「へー」と面白そうな顔をした。
「手伝おうか? その文字、切り抜けばいいんでしょ?」
「いいの?」
「いいよー。ハサミあるし」
「ありがとう! じゃあ、一文字お願いします」
「オッケー」
「ハサミあまってたらわたしもやるよ?」
今度は木下さんの前の席の貝塚さんがそう言った。
そうかと思うとさらに反対側の藤原さんが、
「ポスター作るの? これ使う?」
って、マスキングテープを差し出してくる。
白地に黒で猫の足跡がデザインされたものだ。
みんなが一瞬ハッとして、
「かわいー!」
指揮されたように全員の声がハモった。
それがおかしくて、今度はみんなでいっせいに笑う。
すると残っていたクラスメイトが次々に集まってきて、
「猫ちゃんの名前も入れたら?」
「文字のところ、修正液で線入れたらぷっくりして見えるよ」
「写真に縁どり欲しいよね。ふせんでそれっぽくしてみる?」
って、次々にアイディアが出てきて、気づいたら工作大会みたいになってきた。
「なんか楽しいねー」
結愛ちゃんがのんびりと笑った。
昨日までぼっちだったわたしは、もう感動しきりだ。
「ありがとう……結愛ちゃんと新名さんが最初に手伝ってくれたからだよ」
「ぜんぜんだよー」
「ていうか、お礼言うの早い。まだできてないんだから」
にこにこする結愛ちゃんとは対照的に、新名さんはクールに、黙々とハサミを動かす。
やってくれてることは同じなのに、反応がぜんぜん違う。
おもしろい二人だなって、わたしはひそかに笑った。
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