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しおりを挟む「ユウさん、こちらの方へ。荷物は直接ホテルへ運んでもらうよう手配してありますので、手荷物だけ持って、私の後を付いて来て下さい」
空港のフラッシュの嵐を避けながら、真壁は事前に打ち合わせをしていた裏ゲートへと、ユウを誘導した。
聖のコネで、普段は開けていない空港の出入り口を、特別に開けてもらう段取りが付いている。
息子を溺愛する聖は、ユウがPTSDを何かの切っ掛けで発症するのではないかと、胸が潰れるほどに心配している。
――――例えば、知らない大勢の人間に囲まれた場合でも、パニック症状が起こり兼ねないのでは、と。
実際、聖の心配ぶりは真壁から見てもかなり過保護に思えるが、本人を前にしては中々正直に言い出せず、聖の計画した通りに実行すべく、こうして真壁も忠実に動いている。
「さぁ、この先に車が用意されている筈ですから、真っすぐにホテルへ向かいますよ」
「…………オレ、ファンサービスとかも必要なんじゃないのか? 」
向こうの反対側のゲートでは、各国のゲストがパパラッチを冷かしながら手を振り、ファンに求められるまま、写真撮影やサインに応じているというのに。
しかし、真壁は首を振った。
「ユウさんのイメージは『神秘』です。このまま、当日までは出来るだけ姿を隠して、本番当日に大々的にお披露目した方が、センセーショナルだろうと。昨年も少しだけの顔見せでしたが、それが却って『神秘』のイメージに拍車をかけています。このままその路線でステージ演出も構成して作ろうと、こっちのスタッフとそれで打ち合わせが済んでいます。ですから、ファンサービスはステージが終わってからですね。約、一時間程用意しています」
本当に、何からなにまでガチガチのスケジュールだ。
嘆息して、ユウは口を開いた。
「――――でも、本番は一週間も先じゃないですか。ここって、カジノもあるんでしょう? あとサンゴ礁も有名で、ダイビングスポットが沢山あるらしいじゃないですか。オレだって、せっかくここまで来たんだ。少しくらい観光したい」
尤もなユウの意見に、真壁も何か考えるような顔になった。
ここがチャンスと、ユウは畳みかける。
「まさか、ホテルから一歩も出るな、なんて言わないですよね? 」
「一応、ユウさんが宿泊するホテルにも……小さいですがカジノは有りますが……」
そのセリフに思い切り不満そうな顔をすると、さすがに同情したか、真壁はポツリと言った。
「――――そうですね、短時間なら……私も護衛に着くという条件なら、外出する時間を作ってもいいですよ」
「本当ですか!? 」
「ええ……でも、社長には内緒ですよ? 」
真壁の言葉に、ユウは心底嬉しそうに微笑む。
「よかったー! 日本からずっと忙しかったら、さすがに羽根を伸ばしたかったんですよ」
ユウの、父譲りの綺麗な笑顔に、真壁はホゥっと見惚れる。
「……でも、くれぐれも単独行動はダメですよ。この国は治安がいいと言われているけれど、それもあくまで表だけなんですから」
「表だけ? 」
「そうです。華やかなのは、見える部分だけです。ここも芸能界と同じですよ」
現にこうして、アジアの一歌手に過ぎないユウが、普段閉ざされている空港の特別のゲートを通るのだから。
ユウの父親である聖は、極道時代に何度か天黄の仕事絡みで、この国へ来ている。
このナモ公国は立憲君主制で、現在はヘイマン・ルドー・ナモ大公が実権を握っている。
その息子のマナ・ルドー王子と、大公の弟であるアーカム・ルドー侯爵が覇権争いをして火花を散らしていると、聖からの情報だ。
そして今回、ユウの為に特別、空港のゲートを通れるよう手配してもらったり、滞在中ホテルにSPを付けてもらったりという破格のビップ扱いを可能にしたのは、ひとえに聖の人脈のお陰だ。
何度かこの国へ訪れた聖は、どうやら個人的にマナ王子とパイプを築いていたらしい。その為、王族だけが利用する空港ゲートを特別に手配できたそうだ。
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