路傍の石

亜衣藍

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 更に居丈高な態度で、蔵に向かい恫喝の言葉を放つ。

「悪いと思ってるなら、それなりの詫びをしてもらわないとなぁ? こっちにもメンツってもんがあんだからよ」
「……と、いうと?」
「ほら、出すもんだしな!」
「そうは言われても。オレはいま二千円しか持ってないっすよ」

 事実を伝えたが、ヤクザは信じなかったようだ。

「この小僧、ナメくさりやがって!」

  そう言うや否や、足を振り上げ土下座をしたままの蔵を蹴ろうとした。

 だがさすがに、そこまで痛めつけられるのは率直に言って冗談じゃないと思った蔵は、ふわっと立ち上がってその蹴りを回避する。

 その所為で、足を大きく空振りして唖然としたヤクザの顔面に、蔵の右ストレートが叩き込まれた。
 ヤクザの身体は空中で一回転すると、そのまま路上にバウンドして倒れた。

 口からは泡を吹き、完全に気を失っている。

 成り行きを見守っていた女はその惨状に余程驚いたのか、「ギャー!!」という凄まじい悲鳴を上げた。

「こ、こ、このひと、人殺しよ――!」
「ちょ、ジュンコさん!? 元はと言えば、あんたが誘ってきたから――」
「キャーキャーキャー!」

 けたたましい悲鳴に、幾ら人気のない駐輪場といえど「何だなんだ!」と野次馬たちが寄って来る気配を感じた蔵は、忌々し気に舌打ちをした。

(ああ、もう! 何でこんなに何もかも上手くいかねぇんだよ!)

 ムカつき過ぎて、いっその事この女諸悪の根源もヤクザ同様ぶん殴って黙らせるかと考えてしまうが。

「こっちだ」
「っ!」

 知らぬ間に何者かが近くに来ていた事に気付き、蔵はギョッとする。

(このオレが、全く気配に気付かなかった?)

「……別にどうでもいいけど、お巡りさんがそこまで来ているよ」
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