MAN OF THE FULL BLOOM

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　この段階で、聖はまだ『地味な東洋人の秘書』の正体が、レオンの婚約者であるシオリの兄だとは知らなかった。
　サイエンはその情報を掴んでいたが、あえて聖と晁生には伝えていなかったからだ。

　そういう訳で条件は聖と同じであったが、晁生には考える時間の余裕があった分、かなり核心に近い答えを独自に導き出していた。

「十中八九、秘書はシオリの関係者だと思う」
「理由は？」

「レオン・マフタンに危害を加えた犯人を捕獲するために、保安員が船内をくまなく捜索しているのに、その影さえ掴めていないんだ。現段階では、聖が最も怪しい被疑者にはなっているが、聖にはこれといった動機が無いから――」

「別に犯人がいるのではないかと、一部では囁かれている訳か」
「そう、そうなんだ！」
「そして犯人は、何者かに匿われていると？」
「ああ、その通りだ。ボクは、シオリが怪しいと見当をつけている」

　レオンの婚約者の客室など、おいそれと保安員が踏み込む事は不可能だ。
　逆に犯人を隠匿するには、そこが尤も安全な場所と言える。

「あくまで推測だが、シオリはレオンとの婚約は不本意だったんじゃないかと思う。だから、それを知っていた『地味な東洋人の秘書』はそれを阻止するために、レオンを襲撃したんじゃないかと――」

　晁生がそこまで言うと、聖は納得したように頷いた。

「確かにな。レオンはシオリを愛していない事は誰の目にも明らかだった。彼女の幸せを純粋に願うなら、あの男はただの邪魔者だ」

　元・トップモデルのシオリ。
　その引退に纏わるネットニュースを思い出して、聖は眉間に皴を寄せた。

　半年前、交通事故に遭い右脚を複雑骨折した彼女は、何時間にも及ぶ手術で怪我を治したものの、以前のように見事なウォーキングをランウェイで披露する事は不可能になり、モデルを引退した。

　世界トップレベルの外科医の治療をもう一度受けたら、復帰する可能性は辛うじて残っているらしいが……。