MAN OF THE FULL BLOOM

亜衣藍

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 レオンはそう言うと、少し離れた場所で静かに控えていた美女を睥睨した。

「彼女の名前は、シオリ・コウだ。何度もランウェイを歩いている、半年前までスーパーモデルだった女だよ。そうそう、五年間、シャネレの専属モデルだった事もある」

 確かに、彼女がVOGUEの表紙を飾っていたのを何回か見た事があると、聖は思い出した。

 シオリの容姿は、若干頬骨が高く、鼻も日本人にしては高かったが、それが逆に気品あふれる高貴な美女の証明にも見える。
 漆黒のストレートの髪は腰まであり、真紅のドレスによく映えて率直に美しい。
 これだけゴージャスな美女が婚約者なら、さぞかしレオンは鼻が高いに違いないと思いきや。

「ミドーを見た後でシオリを見ると、雑巾とナプキンを取り違えたmelanger les torchons et les serviettesようだな。ハハハハ」

※日本でいうところの「月とスッポン」のような意味です。

 なんと、平然と婚約者をこき下ろしたのだ。
 聖はこれに、不愉快そうに眉をひそめる。

「レオン。オレは婚約者に対してそういう言い方をする男は、尊敬できない」
「何だと? 私は君の美貌を称賛したのだが」
「オレは嬉しくない」

 この聖の反応は、レオンは新鮮だったらしい。
 絶対権力者であるレオンの言う事には、大抵の人間はおもねるのが通常だった。
 なのに、聖はレオンに媚びるような素振りもしないで、正直な反応を返したのだ。

 ますます興味が湧き、レオンは聖へ手を伸ばす。

「ミドー、君のような人は初めてだ。是非、私の部屋に招待したいのだが」

 これに聖が返事を返す前に、傍らで成り行きを見守っていた晁生が、我慢できずに口を挟んで来た。

「ムッシュ・レオン。お初にお目にかかります。ボクは城嶋晁生といいます。日本で『城嶋エンタープライズ』という会社を経営しています。富裕層を対象にした商談会が開催されると聞き及び、この御堂聖と共同でクイーン・ダイヤモンドへ乗船した次第です。ムッシュの噂はかねがね耳にしております、何といってもヨーロッパ屈指の――」

 だが、この口上にレオンは興味を示すことなく、唯々綺麗な聖の顔に見入る。
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