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しかし、その話を信じて良いものだろうか?
ただの育ちのいいボンボンならともかく、サイエンは裏稼業にも精通している一筋縄ではいかない男だ。
疑い深くジッと見つめると、サイエンは正体の分からない笑みを浮かべた。
「オレの言う事を信じられないのなら、ここは行動で示すしかないようだな」
「まぁ、そうだな。何かメリットでもない限り、他人にわざわざ口利きしてやる義理はあんたに無いだろう」
「義理なんて無粋な。オレはミドーにぞっこんなんだ。貢物を捧げたいと思うのは男の本能だろう?」
「どうだか」
フンっと鼻で笑うと、サイエンは聖の機嫌を取るように、そっと背中に手を回してゆっくり撫でて来た。
「仕事はオレの部屋でも出来るだろう。どうだ、今から来ないか?」
「……先に、ジョーに話を……」
「彼なら、放っておいても自室へ勝手に戻って来るさ。知り合いの少ない環境では特にやる事もないしな。君たちは同室なんだろう? だったら、改めてそこで落ち合えばいい。その方が無駄足を踏まなくて済む」
確かにそうだが。
「じゃあ、オレも自室に――」
「おおっと。君に紹介したいという男の情報、先に耳に入れておいた方が良いんじゃないのかな?」
「……」
「今夜のレセプションパーティーで紹介してあげるよ。だけどその前に、オレの部屋へ来るのが先だ」
ニヤッと笑うサイエンに、聖はムッとして口を尖らせた。
「あんたの部屋に行くメリットが情報だけじゃあ、こっちは損しかしない気がするんだがな。それにオレは、そこまで熱心にはなれない」
するとサイエンは、お道化たように肩を竦めて見せた。
「そんなつれない事を言ってくれるな。こっちは君の夢を見る度に魘されたんだぞ。……ああ、ちなみにオレの客室には、バスタブが完備されているが」
“バスタブ”というワードにピクリと反応する聖に、サイエンは更に畳み掛ける。
「ちなみに、プライベートバルコニーもあるぞ」
「プライベートバルコニー?」
「ああ。君らの部屋には無いだろう? どうだ、客室だけでも見学しに来ないか? せっかくの船旅を仕事だけで終わらせるのは損というものだ。少しは楽しまないと」
どうやら上手い事、聖の興味を引く事に成功したようだ。
強張っていた肩からは力が抜け、雰囲気がだいぶ柔らかくなってきたのが分かる。
手狭な客室やスケジュールに不満だった聖の心情を巧みに刺激し、サイエンは『してやったり』と内心でほくそ笑んだ。
「そうだ、ミニバーもあるぞ。ミドーの為に何か作ってやろう」
「あんたが?」
「オレは、君が思っている以上に器用な男なんだよ」
そうだ。
いつまでも、聖の手の平で転がされていた小物ではない。
今の自分は、人心を支配し操る側の人間だ。
サイエンは聖に気付かれぬよう、暗く嗤った。
ただの育ちのいいボンボンならともかく、サイエンは裏稼業にも精通している一筋縄ではいかない男だ。
疑い深くジッと見つめると、サイエンは正体の分からない笑みを浮かべた。
「オレの言う事を信じられないのなら、ここは行動で示すしかないようだな」
「まぁ、そうだな。何かメリットでもない限り、他人にわざわざ口利きしてやる義理はあんたに無いだろう」
「義理なんて無粋な。オレはミドーにぞっこんなんだ。貢物を捧げたいと思うのは男の本能だろう?」
「どうだか」
フンっと鼻で笑うと、サイエンは聖の機嫌を取るように、そっと背中に手を回してゆっくり撫でて来た。
「仕事はオレの部屋でも出来るだろう。どうだ、今から来ないか?」
「……先に、ジョーに話を……」
「彼なら、放っておいても自室へ勝手に戻って来るさ。知り合いの少ない環境では特にやる事もないしな。君たちは同室なんだろう? だったら、改めてそこで落ち合えばいい。その方が無駄足を踏まなくて済む」
確かにそうだが。
「じゃあ、オレも自室に――」
「おおっと。君に紹介したいという男の情報、先に耳に入れておいた方が良いんじゃないのかな?」
「……」
「今夜のレセプションパーティーで紹介してあげるよ。だけどその前に、オレの部屋へ来るのが先だ」
ニヤッと笑うサイエンに、聖はムッとして口を尖らせた。
「あんたの部屋に行くメリットが情報だけじゃあ、こっちは損しかしない気がするんだがな。それにオレは、そこまで熱心にはなれない」
するとサイエンは、お道化たように肩を竦めて見せた。
「そんなつれない事を言ってくれるな。こっちは君の夢を見る度に魘されたんだぞ。……ああ、ちなみにオレの客室には、バスタブが完備されているが」
“バスタブ”というワードにピクリと反応する聖に、サイエンは更に畳み掛ける。
「ちなみに、プライベートバルコニーもあるぞ」
「プライベートバルコニー?」
「ああ。君らの部屋には無いだろう? どうだ、客室だけでも見学しに来ないか? せっかくの船旅を仕事だけで終わらせるのは損というものだ。少しは楽しまないと」
どうやら上手い事、聖の興味を引く事に成功したようだ。
強張っていた肩からは力が抜け、雰囲気がだいぶ柔らかくなってきたのが分かる。
手狭な客室やスケジュールに不満だった聖の心情を巧みに刺激し、サイエンは『してやったり』と内心でほくそ笑んだ。
「そうだ、ミニバーもあるぞ。ミドーの為に何か作ってやろう」
「あんたが?」
「オレは、君が思っている以上に器用な男なんだよ」
そうだ。
いつまでも、聖の手の平で転がされていた小物ではない。
今の自分は、人心を支配し操る側の人間だ。
サイエンは聖に気付かれぬよう、暗く嗤った。
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