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最終章

最終章-10

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「チケットを押し付けられて横浜に行くまでは、僕は本当に全部忘れていました。まさか記憶を取り戻すキーワードが場所横浜と『恐竜展』だったとは……」

 のちに知った事だが、朝日のように解離性健忘を患っている場合は、何かしらのキーワードで記憶のブラックボックスが開く事は実際にあるそうだ。

 どこで知ったのか分からないが、恭介はそのキーワードを知っていた。

 不思議に思うが、一々問い質すのは自分にとっても恭介にとってもあまり良くない気がして、今はそのままの関係を続けている。
 恭介の方も、朝日に対してはいつもの通りクールな態度だが、あの騒動の後、少しだけ優しくなったような気がする。

 今は、それで十分だろう。

 物思いに沈んでいると、その隙をつくようにチュッと頬にキスをされた。

「ちょ、ちょっと!」
「油断しているお前が悪い」

 須藤はそう呟くと、間髪入れずに今度は唇を塞いできた。
 深いふかい、本当に深いキスを。

「ん~んぅ!」

 抗議の意味を込めてポンポンと須藤の上腕を叩くが、相手はそんなのお構いなしに濃厚なキスを落としたのち、余裕の表情で唇を離した。

 真っ赤になっている朝日の顔を見て、須藤は破顔する。

「ハハハハ、茹蛸みたいだな」
「も、もう! あっちにはまだ皆がいるんですよ!? 時と場所を考えてくださいっ!」
「悪いな。お前があんまり可愛かったもんで、抑えが効かなかった」

 そのストレートなセリフは、ダイレクトに朝日の心を揺さぶる。
 こんなに魅力的な男が、自分を真っ直ぐに見下ろしてそんな事を言うなんて。

「……須藤社長は、本当に僕の事が好きなんですか?」

 それが、どうしても信じられない。

 須藤黒闇は社会的に成功している上に、誰もが惚れ惚れするイイ男だ。
 見た目ルックスと言動は少しだけヤクザっぽいが、そんな事は関係ない程の特上の男だ。

 その魅力あふれる男が、特に特徴もない所沢朝日に一目惚れしたという。
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