所沢朝日の恋愛譚は不完全すぎて

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「ワクワクって……」

　子供のようなそのセリフに面食らって視線を上げると、ニコリともしていない真剣な表情な目に入った。
　見た目とは、全く似つかわしくないこの言い様に、つい恭介は吹き出す。

　本人曰く「見た目と中身が違う」という、そのギャップが他人から見ても凄い。

（運命的な出会いを演出したかったって？　ったく、……少女漫画かよっ）

　そうしてしばらくクスクスと笑っていた恭介だが、不意に何かを諦めた様に大きく息を吐くと、次に須藤に向かって深々と頭を下げた。

「今まで、すみませんでした」
「何がだ？」
「あなたを誤解していました。須藤黒闇という男は、ヤクザものの最悪な無頼漢で、ターゲットにした獲物を執拗に追い詰めるサイコパスだと思い込んでいました。所沢朝日は、その餌食にされそうだと滅茶苦茶心配した。でも、その全部が俺の勝手な思い込みだったようだ」

　恭介はそう言うと、ポケットにしまっていた折り畳みナイフを取り出し、そっと床へ置いた。

――相打ち覚悟で、こうして初めて須藤とタイマンに臨んだ訳だが。

　須藤黒闇という男は、恭介が思い描いていた人物像とは全く違っていた。

　強面で如何にもヤクザのような風体だが、その心根は全くの逆で、ピュアな精神を宿し、夢見心地の優しい少年のようなハートの持ち主だった……そう、やっと理解したのだ。

「俺の兄芥川ネロが、あなたの弟にも迷惑を掛けて本当にすみませんでした。必ず更生させるつもりですが、今後は須藤兄弟とその関係者に関わらないよう、施設を出ても保護監督処置にするつもりです」

「そうか……こっちこそ、悪かったな」

「いえ。とにかく、朝日は仕事も真面目だし、営業も頑張っているようだ。辛い過去を思い出しても、前向きに成長して行ける人間でしょう。傍に、あなたのような恋人がいるなら尚更だ。叶う事なら、俺もこのまま結び相談所であいつの仕事を手伝ってやりたいんですが」

　恐るおそるそう打診した恭介に、須藤はニヤッと笑った。
　そうして、余裕の表情で口を開く。

「構わんさ。ウチはいつでも人手不足だ」

「――ありがとうございます！」