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 恭介は須藤の顔を見ると、おもむろにそう切り出した。
 相対する須藤は、仏頂面のまま無言を貫く。

 朝日からメールを受けた二人は、吉祥寺にある『結び相談所』へ集結していた。
 二人はそこで、睨み合っているような状況にある。

 休日担当の社員が不審げな様子で「あれ? 今日ってシフト入って無いですよね?」と訊いてきたが、二人ともそれを無視して事務所の長椅子に座っていた。

 須藤は顧客と面談する予定があったのだがそれをキャンセルし、恭介の方も、高校の時の友人と遊ぶ約束をドタキャンしてここへ来ている。

 朝日から『過去を思い出しました』という連絡を受け取った須藤は、居ても立ってもいられずに。
 そして恭介も、とうとうが来たかと覚悟を決めて。

 各々が、緊張した面持ちで座っていた。

「……恭介。お前は何が目的だ?」

 氷のようにヒヤリとする声音で、須藤はそう問い掛けた。
 これに、恭介の方も「それを訊きたいのはこっちの方です」と反撃する。

 朝日には『俺達、付き合う事になったから』と言っていた恭介だが、二人の間に流れる空気は実に寒々しい事この上ない。
 甘い恋人のような雰囲気は皆無で、逆に、仇敵同士睨み合っているような状態に近かった。

 須藤は、恫喝するように低い声で訊ねる。

「前々から聞きたかったが、何でお前は退職金を受け取って前の会社を辞めなかったんだ?」
「あなた方が経営する結婚相談所が面白そうだと思ったから――では、納得しませんか?」
「最初はそういうヤツもいるかと思っていたが、お前は違うだろう。ウチより、もっと良い会社を紹介してやると言ったのに、何故それを断ってまで残ったんだ」
「そうですね。あなたが気になったから、ですかね」

 声音を替えれば愛の告白にも聞こえるセリフであるが、恭介の言い様には、そんな甘い空気は微塵も感じられない。

 須藤はそれを十分承知し、ジロリと鋭い視線を送る。

「押しの弱そうな朝日ならともかく、お前がウチの会社結婚相談所に就職を希望したのは不思議だった。断る理由も無いからそのまま採用したが……」
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