所沢朝日の恋愛譚は不完全すぎて

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「よかった。過呼吸もだいぶ落ち着いたようだね。でも念のために、もう少し休んでいくといいよ」

　西村巡査の声に、過去に飛んでいた朝日の意識はようやくハッキリしてきた。
　まだ心臓がバクバクしているが、西村が言った通り動悸はだいぶ収まってきたようだ。
　どうやら西村が機転を利かせて、朝日を交番まで運んで横にさせてくれていたらしい。

　ゆっくりと長椅子から起き上がると、朝日はようよう声を上げた。

「……すみません。その、僕は以前ここで――」

「うん。あの時は色々大変だったね。麻薬中毒の男達から暴行を受けて救急搬送されるなんて、全くもって不運だった。でもまたここ横浜に来たという事は、元気になったのかな？　それだったら私も嬉しいよ」

（？）

　全ての記憶がまだ漠然としている朝日には、西村の言う事は正確に理解できないが、何となく事情を察する事は出来た。

　涅槃の悪友だった、あの男だ。

　普段から目つきも怪しいし言動もおかしいと思っていたが、やはり麻薬中毒者であったのだろう。
　西村の言葉から推測するに、きっと涅槃も麻薬を使用していたと思われる。
　二人は暴行の現行犯で捕まったが、その言動が異常だった事から不審を招き、そのまま尿検査でもされたのだろう。

（こんな、横浜駅近くの人通りの多いところで、ジャンキーが騒いで流血沙汰を起こしたんだ。そりゃあ、地方紙くらいには小さく記事も載りそうだな）

　恭介きょうすけはどうやってか知らないが、その騒ぎに巻き込まれた憐れな犠牲者が朝日だと掴んだのだろう。
　日時を辿れば、その近くで恐竜展が開催されていた事も分かるに違いない。

　だから恭介は、朝日に対して「思い出せ！」という意味を込めてチケットを寄こしたのか？

（僕が恐竜好きだって、どうやって知ったんだか。いや、それよりも――）

　涅槃ねはんとそっくりの顔をしていた、須藤黒闇こくあんについてだ。