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 全くもって愚かであったが、朝日は涅槃の悪い部分も“全部カッコいい”と思い込んでいた為、その態度に対して不満を感じる事も無かった。

 その結果、ますます涅槃は増長した。

 もしかしたら涅槃は、朝日のような田舎者で鈍くさい恋人は自分の『恥』だと思ったのかもしれないが。

 とにかく涅槃は、バイト先でも友人達に対しても、朝日の事をだと紹介することはせず、ただただ自分を慕っている忠実な犬だとあしらうばかりだった。

 そんな涅槃の態度を、最初の内こそ不満に思わなかった朝日だったが、さすがに一ヶ月経っても、キスもハグも拒絶する恋人はどこかおかしいのではないだろうか?

 そう、感じるようになっていた。

 そこで朝日は、ぎこちない二人の距離を縮める為に『横浜の恐竜展に行こう』とデートに誘った訳だ。
 鬱陶しそうな涅槃の機嫌を必死に取りながら、チケットも足代も全部自分が出すからと言って。

『恐竜展って、何が楽しいのかねぇ。ま、案内してやるから黙って付いて来いよ。マジで、お前みたいに鈍くさい田舎もんにここまで付き合ってやる物好きなんて俺くらいだぞ。感謝しろよぉ』

 横柄で偉そうな態度だったが、涅槃は朝日と一緒に横浜行きの電車に乗ってくれた。
 そして駅で降りて、この道を歩いてくれたのだ。

――だが。

『あれ? やっぱ涅槃じゃん? 横のダサいのは例の後輩かぁ?』

 それは、涅槃の悪友の一人だった。
 その男の目は常に淀んでいて、暴力的で言葉遣いも荒い人物だった。
 いつも涅槃のノリに乗っかって、朝日の事を自分の家来のように扱うので、朝日が苦手な人物の内の一人だった。

『なになに? お前ら、まさか付き合ってんの?』
『そんなワケねーだろ。誰がこんなダサいヤツと付き合うってんだよ。こいつがチケ代出すから横浜まで連れて行ってくれって言ったんだよ』
『へー? ライブ?』

 そこで“恐竜展だよ”と正直に言えばいいだけだったのだが、涅槃はそれもダサくてガキっぽいと思ったようだ。
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