彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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(ジンがオレに近付いてきた理由は……これが、何か関係しているのだろうか?)

 間接照明の仄暗い灯りではよく分からなかったが、注視してみると結構な手術痕だ。

 それも、最近になって出来たような。

 そっと、そこへ手を這わせると、ジンの腹がピクリと動くのが分かった。

「気になる?」

 お道化るような口ぶりに、微かな虚勢を感じ取る。

 どうやら、あまり傷痕に触られたくはないようだ。

「……お前は、オレにどうしてほしいんだ?」

 ユウを騙して利用しようとしたり、無頼漢を装って近寄って来たり。

 何か聖の力を必要としている空気は感じるが、それがいったい何なのかが分からない。

 これまで労してきた画策を放棄して、直球で聖を挑発し『取り込む』ことにしたらしいが……聖の気を引くことに成功したとして、それで何をしようというのか?

 政治家の息子や、経済界の大御所の息子。それに、複数の芸能人のスキャンダルを握って、業界に噛り付いている状態らしいが。

 果たしてそれと、聖が関係しているというのか?

「意外。あんた結構おしゃべりなんだな」

「なに?」

「あんた、普段は、豚オヤジみたいなのばっか相手にしてウンザリしていたんじゃない? だったら、オレのようなイケメンの若い男にチヤホヤされたら嬉しいだろう? もっと素直に喜べよ」

 たしかに、豚オヤジに関しては否定は出来ない。

 だが、時には、極上の男も相手にしている。近々では、中国の大財閥の御曹司とも寝た。

「見くびるなよ。オレは――」

 そこで聖は、反論することの虚しさを覚えた。

 誰と寝ようが、一つ分かったことがある。


――――自分は、結局、誰かの一番・・にはなれないのだと。


「……口を利くのも、面倒になってきた。今夜はもう終わりにしよう」

 聖は、力なくそう呟いた。

 先程まで身体の内部で滾っていた炎が、完全に鎮火した気分だ。

 正気に返り、己を顧みると、只々無様に思えてくる。

 こんな小僧の挑発にいいように触発され、マンションにそのまま連れ込むなんてどうかしている。

 まるで、若い男の身体に飢えた色魔のようではないか。

(相変わらず、バカだな……オレは)

 特に男が好きなわけでもないのに、なんでわざわざこんな真似をした?

 そう思うと、本当に、一気にどっと疲れが押し寄せた。

「――モデルの仕事が目的でオレに近付いたのなら、そっちモデルの業界に強い事務所を紹介してやる。ウチよりずっと大手の、立派な所をな」

 それこそ、零が所属しているモデル事務所などが打ってつけだろう。

 きっとユウも、ジュピタープロではなくそっちの事務所をジンに勧めたはずだ。

「ヌードモデルをするわけじゃないんだ。傷があろうと無かろうと、オレの紹介があれば問題なく採用されるだろうさ。安心しろ、ちゃんとしたカタギだ」

 そう告げると、聖は今度こそベッドを降りる。

 しかしその後を、ジンは付けて来た。

「待てよ」

「なんだ? シャワーを浴びたいのか? だったら、お先にどうぞ」

「そうじゃない。あんた、マジでオレに抱かれたくないのか?」

「?」

「ゲイの連中は、大抵がネコだ。だから、タチ役ってだけでオレはずっとそっち・・・じゃあ持て囃されてきた。そこそこ経験は積んだから、男相手でも、セックスは上手い自信がある」

 そう言うと、ジンは聖の身体に手を這わせてきた。

「本当は、あんたもオレに興味津々なんだろう? そんな風にのないフリをして、素っ気ない仕草で突っ張るなんて素直じゃないな」

「……」

 聖の方は、無言だ。

 それを虚勢と思ったか、ジンは傲岸不遜に口を開く。

「そんなあんたも可愛いが、そろそろ正直になれよ」
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