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 そこに、初めてカラフルな色彩が開けた。

 平凡だが、清楚で可憐な容姿の青年が現われたのだ。

 正直に白状すると、モニター越しであったが、インタビューを受けているオメガのその青年を一目見た時から、心は揺れた。

 そうして、5年前に、手から零れた運命の存在を思い出したのだ。

(――――ああ、だから、あいつは何度かオレの前に現れたのか…………)

『運命の番』だからこそ、奏は2度も正嘉の前に姿を見せたのだ。

 それならば、やがて訪れるであろう3度目も待とうとしたが、今度はそうは行かない現実が待っていた。

 なんと奏が、運命を無視してベータの番を選んだらしいのだ。

 その報告を聞いた時は…………胸がギュッと痛くなった気がした。

 自分達こそが運命の番だと知っていて、どうして違うベータを選んだのか!? 

 正気か? 頭がどうかしてしまったのか?

 そうして焦れて行動を起こしたのは、正嘉の方であった。

 九条恵美にもきちんと謝罪させようと、わざわざ気を利かせて彼女を引き連れて、奏の元へと足を運んだのだが――――何故か恵美ではなく正嘉の方が罵倒され、否定された。

 まったく、腹が立つ事この上ない!

 だが、涙に濡れるつぶらな瞳を見た瞬間に、正嘉の怒りは何か別の物・・・・に変わった。

――――心臓が熱い気がする。鼓動が激しく胸で高鳴る。

 怒り以外の何かに突き動かされ、正嘉は自分でも分からぬ行動に出ようとしたが……しかし、その細い首に残る噛み痕を見た瞬間に、脳が弾けた気がした。

 だから正嘉は、抵抗する奏を押さえ付け、問答無用でその上から噛み付いたのだ。

(アレは、我ながら性急だったな……)

 余裕を持って鷹揚と振舞おうとしていたのに、まるで逆の行動を取ってしまった。

 短期間で立て続けに首を噛まれるのは、オメガにとって相当の負担であろう。

 事実、奏は首を噛まれた直後に発熱してグッタリとくずおれてしまった。

 通常時なら、医療機関へ丁重にその身を運ぶところであろうが――――芳しいオメガのフェロモンを発し続けるその身体を、あちこちに移動させるワケにはいかないと判断した。

 故に正嘉は、奏のマンションの鍵をバックから探し出して、彼をそのままマンションの方へと運び――――。

 そこまでを思い出しながら、正嘉はフッと苦笑した。

 冷血だと自他ともに認めるこの自分が、よもやオメガのフェロモンにてられて、そのまま奏を抱こうとするとは。

 我ながら、青天の霹靂だ。

 自分に、そんな獣じみた衝動が、まだ残っていたとは。



――――愛だの、恋だの。



 そんなものは、とうの昔に、正嘉の中で輝きを失っている。

 素晴らしい筈のその感情は、ただの下らない妄想と錯覚にしか過ぎないと何時《いつ》しか見做すようになっていた。

 まだ二十歳の若造だと人は言うが、正嘉は本当に幼い頃から、とっかえひっかえ色々なオメガ達と親の命令で付き合わされた。

 最初のうちは、愛や恋という曖昧なその感情を、信じていた気がする。

 だが、いつしか正嘉の心は乾き、枯れて行った。

 それもそうだろう、何度もオメガ達に裏切られた・・・・・・・・・・・・・のだから。

 忌々しい過去を思い出し、正嘉の顔に影が差す。

(あいつらは、本当にインチキで破廉恥な連中だった…………)

 オメガは……普段はアルファやベータと同じような顔をして、普通のフリをして生きている。

 しかし一度発情期が訪れると、理性のタガが外れてしまい、セックス中毒のように成り果ててしまう。あの取り澄ました普段の顔が、一変して、目も当てられぬような淫魔のように変わるのだ。

 破廉恥な下等生物に成り下がったオメガ達は、己の欲望を満たしてくれるのなら、相手は誰でもいいと股を開く。

 正嘉は、まだ少年だった頃……淡い恋をした。

 相手は、純血を守るために近親交配を繰り返した旧家の、オメガの令嬢だった。

 家の因習の所為で病弱な身体であったが、清楚で優し気な面差しは好ましく、正嘉は年上の彼女に憧れた。

 本当に淡い恋心を抱いた。

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