137 / 240
32
32-7
しおりを挟む
茫然自失の状態で部屋に戻った奏は…………無意識に、ハンカチに残る正嘉の香りを嗅ぎ当て――――そして、知らぬ内に巣を作っていた。
幸いなのは、奏は、自分のその行動原理に気付いていなかった事だろう。
正嘉の残り香に反応し、意識せずに『巣』を作ったという事実を知らないまま、ただ奏は、呆然自失とその中央でうずくまっていたのだ。
そうして作り出した巣の中で、番以外の男と情を交わしたという不貞――――まるでそれを罰するかのように、奏の頭の中は、絶えずガンガンと割れ鐘が鳴っているようだ。
激しい痛みに、まともな思考も働かない。
意識も途切れそうになる。
それに、無理に栄太を受け入れた事で、壊れそうなこの体も休めたい。
今の奏が望むのは、安心できる場所を見つけて眠りに就きたいという、その一念だけになる。
(明日……今日? とにかく――――七海先輩に相談して、それから――)
思う傍から、疲れ果てていた奏は睡魔に襲われた。
それから少しの時間の後、栄太が戻って来て寝室のドアをそっと開けた。
「奏? 」
部屋の中からは、静かな寝息が聞こえてくる。
どうやら、栄太の大切な恋人は深い眠りに落ちたらしい。
揺り起こして、いったい何があったのか訊き出したいところではあるが、それを実行するのは余りに酷だろう。
とにかく、今は発情期間だ。
この期間中なら、幾らでも中出しをしても大丈夫のはずだ。
先程は奏の後孔に思いきり精を放ったが、オメガがヒートの状態であれば、それが原因で腹を壊す事はない。今の奏はオスではなくメスの身体になっている。
…………電話では、奏は先輩の力を借りて今度こそ受精できるかもと言っていた。
きっとそれで、期待しながら栄太をずっと待っていたのだろう。
なんて健気でいじらしい恋人なのだろうか。
自分は、本当に果報者だ――――と、栄太は一人で満足していた。
(奏の様子がおかしかったのは、きっとその先輩とのやり取りが関係していたんじゃないか?確か……七海達樹という、美人だがオレの苦手なタイプのオメガと、奏はずいぶん仲が良かった。先日改めて紹介された時には、あの七海は妙にオレに敵愾心を持っていたが……きっと、電話でヤツに何か言われたんだな? )
早く抱いてもらえとか――――それとも、やはりベータは止めておけとか?
その考えに至り、栄太は険しい表情になる。
(ベータだからといって、アルファより下に見られるのは我慢できない! 必ず会社を立て直して、世間の奴等を絶対に見返してやるっ!! )
栄太は、眉間にシワを寄せた険しい顔のままそう心に誓うが……寝室の様子を確認するとフッと苦笑し表情を和らげた。
せっかくベッドへ運んだのに、奏ときたら――――
「こんな所で眠ったら、風邪をひくぞ? 」
小さな声でそう言うと、栄太は改めて奏を抱え上げて、ベッドへと運んだ。
奏は、部屋の隅へ寄せた筈の衣類や寝具の上に丸まって、寝ていたのだった。
その手に、ハンカチをギュッと握りながら…………。
幸いなのは、奏は、自分のその行動原理に気付いていなかった事だろう。
正嘉の残り香に反応し、意識せずに『巣』を作ったという事実を知らないまま、ただ奏は、呆然自失とその中央でうずくまっていたのだ。
そうして作り出した巣の中で、番以外の男と情を交わしたという不貞――――まるでそれを罰するかのように、奏の頭の中は、絶えずガンガンと割れ鐘が鳴っているようだ。
激しい痛みに、まともな思考も働かない。
意識も途切れそうになる。
それに、無理に栄太を受け入れた事で、壊れそうなこの体も休めたい。
今の奏が望むのは、安心できる場所を見つけて眠りに就きたいという、その一念だけになる。
(明日……今日? とにかく――――七海先輩に相談して、それから――)
思う傍から、疲れ果てていた奏は睡魔に襲われた。
それから少しの時間の後、栄太が戻って来て寝室のドアをそっと開けた。
「奏? 」
部屋の中からは、静かな寝息が聞こえてくる。
どうやら、栄太の大切な恋人は深い眠りに落ちたらしい。
揺り起こして、いったい何があったのか訊き出したいところではあるが、それを実行するのは余りに酷だろう。
とにかく、今は発情期間だ。
この期間中なら、幾らでも中出しをしても大丈夫のはずだ。
先程は奏の後孔に思いきり精を放ったが、オメガがヒートの状態であれば、それが原因で腹を壊す事はない。今の奏はオスではなくメスの身体になっている。
…………電話では、奏は先輩の力を借りて今度こそ受精できるかもと言っていた。
きっとそれで、期待しながら栄太をずっと待っていたのだろう。
なんて健気でいじらしい恋人なのだろうか。
自分は、本当に果報者だ――――と、栄太は一人で満足していた。
(奏の様子がおかしかったのは、きっとその先輩とのやり取りが関係していたんじゃないか?確か……七海達樹という、美人だがオレの苦手なタイプのオメガと、奏はずいぶん仲が良かった。先日改めて紹介された時には、あの七海は妙にオレに敵愾心を持っていたが……きっと、電話でヤツに何か言われたんだな? )
早く抱いてもらえとか――――それとも、やはりベータは止めておけとか?
その考えに至り、栄太は険しい表情になる。
(ベータだからといって、アルファより下に見られるのは我慢できない! 必ず会社を立て直して、世間の奴等を絶対に見返してやるっ!! )
栄太は、眉間にシワを寄せた険しい顔のままそう心に誓うが……寝室の様子を確認するとフッと苦笑し表情を和らげた。
せっかくベッドへ運んだのに、奏ときたら――――
「こんな所で眠ったら、風邪をひくぞ? 」
小さな声でそう言うと、栄太は改めて奏を抱え上げて、ベッドへと運んだ。
奏は、部屋の隅へ寄せた筈の衣類や寝具の上に丸まって、寝ていたのだった。
その手に、ハンカチをギュッと握りながら…………。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる