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「えっ! 」
「ここに来る前に、確認した。恵美は私が留守の時に大学を訪れて理事室へ入り、何か調べ物をしたらしい。その時に、私のパソコンも使ったようだ。大学に置いてあるデスクトップパソコンのパスワードは、恵美も知っていたからな……」
それと同時に、奏の現在の住まいも知ったのだろう。
何という事だ。
犯人は、本当に身内にいたのだ!
九条凛は……本人にはそんな気は毛頭なかったが、結果として妹である九条恵美の悪行をサポートしていたようなものだ。
しかしまさか、合成写真を奏へ送ったり恐喝メールを送ったり――――果ては、帰宅時を狙って窓ガラスに石を投げ付けるとは。
まさか恵美が、そんな野蛮で低俗な事をするとは思っていなかった。
恋に狂った女は、こんな事までしてしまうのか?
(――――恵美は、そこまで正嘉の事を好きになってしまったのか!? )
今まで知らなかった、実の妹の激しい一面に、すっかり九条は打ちのめされていた。
ガクリと項垂れながら、彼は声を絞り出す。
「――君には、本当に――――申し訳、なかった……」
深く頭を下げた九条に、奏はただ戸惑うしかない。
「あ、頭を上げてください、理事長! 今回の事はもういいですから、妹の恵美さんを説得して諭して頂ければ、僕は何も……」
「あの子は…………初めての恋に、我を忘れているようだ。しかし、どうしてそこまで正嘉くんにのめり込んでいるのか……」
「――」
九条の言葉に、奏は何と言って返したらいいのか分からず何度か口を開きかけるが、結局は無言のまま、その対面のソファーへ腰を下ろした。
◇
奏と九条は今一度話し合い、何はともあれまずは正嘉の身辺調査をすることから始めようと結論を出した。
正嘉に纏わる悪い噂の、その正体を見極める事から始めようと。
故に、九条は直ぐに、調査対象を馬淵栄太から青柳正嘉に変え、改めて興信所へ依頼した。
即急にと指示したところ、二日後にはかなり多くの事が分かった。
まずは、どうして正嘉が、ああなってしまったのか?
それについては、やはり、あまりにも偏った父親の教育が原因らしい。
青柳の元使用人から、詳細な情報を得たところによると…………。
――――今から5年前、自宅を訪ねてきた元婚約者だという男のオメガを、正嘉は、義母と父親の口車に乗って惨く追い返してしまった。
相手は男のオメガだ、人間のクズだ。
言葉を交わすのも汚らわしい唾棄すべき存在だ。
そう教育されていた正嘉は、かなり酷い言葉をそのオメガへ叩き付けた。
(これは、当然奏の事であろう)
しかし、正嘉の罵倒に悄然と肩を落として、トボトボと雨の中を去って行く寂しげなその後ろ姿が…………正嘉の目に、強く焼き付いてしまった。
そして正嘉は、徐々に変わっていったようだ。
父親の言いなりだった御曹司ではなく、自分の意思を持つ一人の王のようにと。
それに正嘉としては、やはり母親の事を常に悪く言う父親の態度が、どうにも看過できなかったようだ。
反発は、当然だろう。
そして正嘉が、青柳家の若き王のように成長するのとは反対に、やがて父親の方は急速に衰えていった。
アルファの家にはよくある事なのだが、より一方が輝きを増すと、もう一方は沈んでいく太陽のように覇気を失っていく場合が多い。
アルファ同士、まるで無意識に魂を喰らい合い覇権を争うように……。
そして現在、今や抜け殻のようになった父親を差し押さえ、実質正嘉こそが青柳家の現当主となっていた。
そうなると、次に、周囲がその当主に望むのはやはり次代の王である。
「ここに来る前に、確認した。恵美は私が留守の時に大学を訪れて理事室へ入り、何か調べ物をしたらしい。その時に、私のパソコンも使ったようだ。大学に置いてあるデスクトップパソコンのパスワードは、恵美も知っていたからな……」
それと同時に、奏の現在の住まいも知ったのだろう。
何という事だ。
犯人は、本当に身内にいたのだ!
九条凛は……本人にはそんな気は毛頭なかったが、結果として妹である九条恵美の悪行をサポートしていたようなものだ。
しかしまさか、合成写真を奏へ送ったり恐喝メールを送ったり――――果ては、帰宅時を狙って窓ガラスに石を投げ付けるとは。
まさか恵美が、そんな野蛮で低俗な事をするとは思っていなかった。
恋に狂った女は、こんな事までしてしまうのか?
(――――恵美は、そこまで正嘉の事を好きになってしまったのか!? )
今まで知らなかった、実の妹の激しい一面に、すっかり九条は打ちのめされていた。
ガクリと項垂れながら、彼は声を絞り出す。
「――君には、本当に――――申し訳、なかった……」
深く頭を下げた九条に、奏はただ戸惑うしかない。
「あ、頭を上げてください、理事長! 今回の事はもういいですから、妹の恵美さんを説得して諭して頂ければ、僕は何も……」
「あの子は…………初めての恋に、我を忘れているようだ。しかし、どうしてそこまで正嘉くんにのめり込んでいるのか……」
「――」
九条の言葉に、奏は何と言って返したらいいのか分からず何度か口を開きかけるが、結局は無言のまま、その対面のソファーへ腰を下ろした。
◇
奏と九条は今一度話し合い、何はともあれまずは正嘉の身辺調査をすることから始めようと結論を出した。
正嘉に纏わる悪い噂の、その正体を見極める事から始めようと。
故に、九条は直ぐに、調査対象を馬淵栄太から青柳正嘉に変え、改めて興信所へ依頼した。
即急にと指示したところ、二日後にはかなり多くの事が分かった。
まずは、どうして正嘉が、ああなってしまったのか?
それについては、やはり、あまりにも偏った父親の教育が原因らしい。
青柳の元使用人から、詳細な情報を得たところによると…………。
――――今から5年前、自宅を訪ねてきた元婚約者だという男のオメガを、正嘉は、義母と父親の口車に乗って惨く追い返してしまった。
相手は男のオメガだ、人間のクズだ。
言葉を交わすのも汚らわしい唾棄すべき存在だ。
そう教育されていた正嘉は、かなり酷い言葉をそのオメガへ叩き付けた。
(これは、当然奏の事であろう)
しかし、正嘉の罵倒に悄然と肩を落として、トボトボと雨の中を去って行く寂しげなその後ろ姿が…………正嘉の目に、強く焼き付いてしまった。
そして正嘉は、徐々に変わっていったようだ。
父親の言いなりだった御曹司ではなく、自分の意思を持つ一人の王のようにと。
それに正嘉としては、やはり母親の事を常に悪く言う父親の態度が、どうにも看過できなかったようだ。
反発は、当然だろう。
そして正嘉が、青柳家の若き王のように成長するのとは反対に、やがて父親の方は急速に衰えていった。
アルファの家にはよくある事なのだが、より一方が輝きを増すと、もう一方は沈んでいく太陽のように覇気を失っていく場合が多い。
アルファ同士、まるで無意識に魂を喰らい合い覇権を争うように……。
そして現在、今や抜け殻のようになった父親を差し押さえ、実質正嘉こそが青柳家の現当主となっていた。
そうなると、次に、周囲がその当主に望むのはやはり次代の王である。
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