82 / 240
23
23-3
しおりを挟む
もうそれしか、奏には思い当たらない。
「犯人は、ヤン助教なんですね!? 」
すると、意に反し、九条からは否定する言葉が返ってきた。
『いいや。彼の行動も追ってみたが、そんな様子は一切無い』
「え――」
それでは一体、何者が犯人だというのか?
奏は混乱して、辿々しく言葉を紡ぐ。
「そ、それでは――一体、何であんな物が? 誰が……僕、僕は……知らない内に、誰からか恨まれるなんて事……」
『落ち着きなさい』
「これがお前の本性だなんて、嫌らしい写真送り付けて来て! 僕が、いったい誰に何をしたっていうんですか!! 」
頭を抱えてそう吐き出すと、電話の向こうでも、イラつくように息を吐く様子が伝わってきた。
『――――とにかく私も、もう一度調査を依頼したところだ。君はもうしばらく、そこに身を潜めるんだ。アパートをシェアしていた友人には、居場所を話していないね? 』
「はい……」
それについては、少々モメた。
――――どうして避難場所を教えてくれないんだ!? オレ達、仲間だろう! あんまり他人行事じゃないかっ!
そう安里には言われたが、
『どこで情報が漏れるか分からないし仕方がない事なんだ。それに、要件は全て研究所で聞く事も出来るし……』
そう言って、何とか納得してもらった。
他言無用で頼むと言ったのも、どうにか聞き入れてもらえた。
だが、安里と研究室で顔を合わせる度に、やはり詰るような眼で始終見られてしまい――――奏は強いストレスを感じている。
…………僕だって、オメガの皆を信頼して、全てを話して相談したいよ!
その言葉を呑み込んで、奏は黙々と研究を続けている。
せっかく安里とのアパートのシェアも上手く行っていたのに、これでは信頼関係も壊れてしまう。
栄太に至っては、新たにマンションを用意するとまで言い出すし。
それでは、今度は安里に『ベータの恋人が新居を用意したからシェアを解消してアパートを出る』と説明しなければならないのか?
いったい、それを言ったら安里はどんな顔をするだろう?
祝福してくれるのか、それとも……『何だコイツは』と、ますます友人関係がこじれてしまうのか?
もう奏には訳が分からない。
楽しい事ばかりになる筈だった今週は、最悪な状況へ変わっている。
早く犯人を特定して、このモヤモヤを解決したい。
しかし見当を付けていた犯人は栄太の愛人ではなく、まさか、奏の想像の範疇から外れている人物たとは。
ただ間に人を立てて、穏便に話し合いをしたいだけなのに…………。
「どうして……僕なんかが狙われたのか……栄太さんの知り合いでもヤン助教でもないとすると、本当に見当が付きません。僕には全然分かりませんよ。それは再調査すれば、分かるんでしょうか? 」
不安に駆られてそう言うと、九条の力強い答えが返って来た。
『ああ、それは勿論! こっちもプロに頼むからね。必ず正体は掴むよ』
ならば、その言葉を信じるしかない。
奏は小さく息を吐き、九条へと再調査の件をくれぐれも頼むと言って電話を切った。
取り敢えず、合成写真の件はこのまま九条に任せ、マンションの話の方は…………安里には、明日にでも説明しようか。
栄太の、奏を心配する心遣いも嬉しいだけに……正直言って有難迷惑だが、どうにも強く断る事もできない。
なんて優しい恋人なんだと、奏は感激するべきなんだろう。
(あの人には、子供に加え愛人までいるけれど――それでも……僕といる事を優先してくれたって……感謝しないとダメなんだ。ああ、でも僕は九条理事が言っていた『決着』が何なのかも聞いていないじゃないか。もっと話を聞かないと――)
でも今日は、疲れてしまった。
折り返し電話を掛けて、いったい何の決着だったのか訊く気力はない。
「犯人は、ヤン助教なんですね!? 」
すると、意に反し、九条からは否定する言葉が返ってきた。
『いいや。彼の行動も追ってみたが、そんな様子は一切無い』
「え――」
それでは一体、何者が犯人だというのか?
奏は混乱して、辿々しく言葉を紡ぐ。
「そ、それでは――一体、何であんな物が? 誰が……僕、僕は……知らない内に、誰からか恨まれるなんて事……」
『落ち着きなさい』
「これがお前の本性だなんて、嫌らしい写真送り付けて来て! 僕が、いったい誰に何をしたっていうんですか!! 」
頭を抱えてそう吐き出すと、電話の向こうでも、イラつくように息を吐く様子が伝わってきた。
『――――とにかく私も、もう一度調査を依頼したところだ。君はもうしばらく、そこに身を潜めるんだ。アパートをシェアしていた友人には、居場所を話していないね? 』
「はい……」
それについては、少々モメた。
――――どうして避難場所を教えてくれないんだ!? オレ達、仲間だろう! あんまり他人行事じゃないかっ!
そう安里には言われたが、
『どこで情報が漏れるか分からないし仕方がない事なんだ。それに、要件は全て研究所で聞く事も出来るし……』
そう言って、何とか納得してもらった。
他言無用で頼むと言ったのも、どうにか聞き入れてもらえた。
だが、安里と研究室で顔を合わせる度に、やはり詰るような眼で始終見られてしまい――――奏は強いストレスを感じている。
…………僕だって、オメガの皆を信頼して、全てを話して相談したいよ!
その言葉を呑み込んで、奏は黙々と研究を続けている。
せっかく安里とのアパートのシェアも上手く行っていたのに、これでは信頼関係も壊れてしまう。
栄太に至っては、新たにマンションを用意するとまで言い出すし。
それでは、今度は安里に『ベータの恋人が新居を用意したからシェアを解消してアパートを出る』と説明しなければならないのか?
いったい、それを言ったら安里はどんな顔をするだろう?
祝福してくれるのか、それとも……『何だコイツは』と、ますます友人関係がこじれてしまうのか?
もう奏には訳が分からない。
楽しい事ばかりになる筈だった今週は、最悪な状況へ変わっている。
早く犯人を特定して、このモヤモヤを解決したい。
しかし見当を付けていた犯人は栄太の愛人ではなく、まさか、奏の想像の範疇から外れている人物たとは。
ただ間に人を立てて、穏便に話し合いをしたいだけなのに…………。
「どうして……僕なんかが狙われたのか……栄太さんの知り合いでもヤン助教でもないとすると、本当に見当が付きません。僕には全然分かりませんよ。それは再調査すれば、分かるんでしょうか? 」
不安に駆られてそう言うと、九条の力強い答えが返って来た。
『ああ、それは勿論! こっちもプロに頼むからね。必ず正体は掴むよ』
ならば、その言葉を信じるしかない。
奏は小さく息を吐き、九条へと再調査の件をくれぐれも頼むと言って電話を切った。
取り敢えず、合成写真の件はこのまま九条に任せ、マンションの話の方は…………安里には、明日にでも説明しようか。
栄太の、奏を心配する心遣いも嬉しいだけに……正直言って有難迷惑だが、どうにも強く断る事もできない。
なんて優しい恋人なんだと、奏は感激するべきなんだろう。
(あの人には、子供に加え愛人までいるけれど――それでも……僕といる事を優先してくれたって……感謝しないとダメなんだ。ああ、でも僕は九条理事が言っていた『決着』が何なのかも聞いていないじゃないか。もっと話を聞かないと――)
でも今日は、疲れてしまった。
折り返し電話を掛けて、いったい何の決着だったのか訊く気力はない。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
運命のアルファ
猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。
亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。
だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。
まさか自分もアルファだとは……。
二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。
オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。
オメガバース/アルファ同士の恋愛。
CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ
※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。
※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。
※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる