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しおりを挟む奏は、栄太の手配したタクシーに乗り、オメガの安里とシェアしているアパートではなく、現在九条の厚意で用意してもらっている家の方へ送ってもらった。
溜め息をつきながら玄関を開け、そのままリビングのソファーへと寝転ぶ。
頭の中を占めるのは、どれもこれも不安な事ばかりだ。
安心できる場所をようやく手に入れたと思っていても、それも今のままではただの空手形に過ぎない。
浮かれるには、不安材料が多すぎる。
(栄太さん……)
彼の事を信じたいが、このままでは――――。
また溜め息をつきかけた時、携帯電話の着信音が鳴った。
「栄太さんっ? 」
慌ててディスプレイを見ると、相手は九条だった。
ホッとしたような、ガッカリしたような。
そんな複雑な胸中で、奏は携帯電話を耳に当てた。
「――はい、奏です」
『ああ、連絡が遅くなってすまない。時間は、大丈夫かな? 』
九条には、現在馬淵栄太というベータの婚約者がいる事を既に教えているし、それについての調査をしてもらっている。
彼の愛人が、奏へ、ここのところ良からぬ事をしているのではないか――――と。
あれから四日経つ。それについて、何か分かったのだろうか?
奏はそう思い、パッと前のめりになった。
「何か、分かったんですね!? 」
『ああ』
静かな九条の声に、奏はほぅっと息を吐く。
「――――では、結果から教えてください。僕にメールを送ってきたり、合成写真を投函したりと嫌がらせをしていた犯人は……やはり、栄太さんの……? 」
最後の方の声は、震えた。
半ば予想しながらも、九条の口からハッキリと『ああ、そうだ』と肯定される事が怖くて。
だが…………。
「調べてもらったが、確かに彼には愛人がいた。子供も二人いる」
「こっ――」
(子供もいたのか……! )
その言葉に、自分でも思っていた以上の衝撃を受け、奏はテーブルに力なく突っ伏してしまった。
栄太には、もう家族がいる。
自分には何もない。
栄太は愛していると言ってくれたが――それでは、奏の方が『愛人』になるのか。
それでは、番は?
番の申し出を受けるのだと奏は信じ切っていたが、自惚れだったのか?
微塵も、栄太はそんな事まで考えていないのか――――だがオメガの男であるこちら側から言い出すには、それはハードルが高すぎる。
――――僕と、番になってください。
それを口にして……何様だと嘲笑れても文句も言えない。
それとも栄太は、苦笑しながら面白い事を言うヤツだなと簡単に流すのだろうか?
もしそうだとしても、奏はただ微笑みながら『冗談ですよ』と、追従してみせるしかない。
何と、滑稽なピエロだろう。
愛するという事は、イコール、永久の愛を誓う番になる事だと信じていたのに。
妻も子も既にいるのでは、奏こそが邪魔者ではないか。
目障りの害虫だと、相手からはさぞや見えるだろう。
自分でも意識しない涙が溢れ、奏の頬を濡らす。
「あ――――ありがとう、ございました……理事には……とんだご迷惑を――」
このまま通話を切って、次に栄太に電話を入れ、別れを告げようとしたが、
『待ちなさい! 』
電話の向こうで、慌てた様な声が上がった。
『君は何か誤解していないか? 』
「え? 」
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