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 もしも本当に運命の番だったとしたら、互いの魂同士が引き合う筈だ。

 しかし、そう信じて行動するのは、常に奏だけだった。

 奏だけが信じて、空回りの繰り返しだった。

 正嘉から手応えを感じた事など、一度も無かったのに――。

 これはもう、奏の直感が間違っていたのだと、勘違いだったのだと……そう判断して次に進むべきだろう。

 奏だけが一途に信じて、10年も犠牲にしてしまった。

(運命だとか魂だとか、そんなのはやっぱりお伽話か――)

 かつて七海も、そう言っていた。

 あの聡明な七海が言うのだから、それが正しかったのだ。

(七海先輩……いつか必ず目覚めてくれますよね? 僕はそれまでに、先輩から託されたこの新薬の開発に全力を注ぎます)

 それは、アルファフェロモンに耐性を付けるべく考案された、オメガの免疫療法に係わる新薬の開発だった。

 幾度もの実験と検証を繰り返し、マウス実験では次第に結果を出しつつある。

 もう一息なのだ。

 これが確立したら、もう高額な発情抑制剤の処方に頼らなくて済むし、発情自体もセーブできる。

 普通に、学校に会社にと、一般社会で生活する事が可能になる。

 どこの誰にも、オメガだと――――しかも男体だ等と侮蔑はされない。


 決してさせない!


 発情ヒートの起こらないオメガであれば、誰もが普通に生活ができるのだから。

 今は儘ならない恋愛の選択肢も、いづれはオメガにも与えられるだろう。

(栄太さんは……僕の事が好きだって言ってくれたけど……僕も栄太さんの事が好きになれるように、これから頑張らないと)

 奏は、自分の未来はこれで明るくなると思った。

「オメガと、ベータか……うん、こっちの方がずっと釣り合うよね」

 アルファなんて、最初から相手にするべきではなかったんだ。

 そんな事を考えていたら、スマホに着信があった。

 ポケットから出し、チラリと確認する。

 昨日から、何回か栄太からメールが来ている。

 早く日曜にならないかと思っているとか、何か食べたいものはあるかとか。

 きっとまた、そんなくすぐったい様なメールだと思ったのだが…………。

「? 」

 差出人の名は無い。


 ただ一言『お前は破廉恥だ』と記されていた。


   ◇


「――……という事が、あったんです……」

 奏は暗い表情で、そうポツリと呟いた。

 ここは、馬淵栄太がレンタルした、美しい湖畔沿いに建てられたコテージの一角である。

 食事をする際は別の棟にレストランがあり、このコテージとは完全にプライベートが切り離されている。

 コテージは静かで清潔で、とても落ち着いた空間となっている。

 昼間は、栄太の運転する車でドライブとショッピングを楽しみ、午後になってここに場所を移した次第だ。

 てっきり、昼にデートした後はそのまま解散すると思っていた奏である。

 その後、栄太がこんな場所まで用意して取ってあるとは思ってもいなかった。

 ここに宿泊するなら半分出すという奏に、栄太は笑って言った。

『それくらい、甲斐性の有る所を見せてくれ』と。

 そう言われては、不承不承頷くしかない。

――――発情期も来ていないオメガの男に、ベータが性欲など抱く筈もない。

 きっと栄太は、あくまで友人感覚で奏をコテージに誘ったのだろう。

 そう考え直し、一瞬勘ぐってしまった愚かな己を内心嘲笑いながら、奏は気になっていた別の事を相談してみる事にした。

 そう、くだんの謎のメールの事である。

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