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どうすればいいのか?
奏のことが好きなのに、この好意はどうしたら伝わるのか。
「こんな事が、もう3年も続いている……」
それを聞き、まどかは驚いた。
「えぇ!? そんなに経っているの!? 」
「――――ああ」
奏は律儀に付き合ってくれてはいるが、そろそろ限界も近いだろう。
愛が全く育っていないせいか、2人の間に子供が出来る兆候は無い。
いつまでも、最初に結城家へ渡した金だけで、奏の自由を縛るのは無理だ。
「あいつは……未だに青柳正嘉へ思いを残している。身体はオレへ預けてくれるが、心はいつも正嘉だけだ」
「えっ……青柳――? 」
それは、アルファの血統に拘る選民思想の家だと、有名な――ある意味悪名高い家だ。
20年前ならいざ知らず、今の時代に、オメガの男体が嫁ぐ事など不可能だろう。
事実、奏は手酷く追い払われている。
――――喉をフォークで裂くほどに、彼はそれに絶望しているのに…………。
「あいつは自分では気付いていないようだが、いつもイク時に『正嘉』と口にしては泣いている。オレは――その度に、どうしても――」
虚しくて、辛くて、苦しくて、悲しくて…………どうしても優しい言葉が出てこない。
いつも、心とは裏腹の言葉を口にしてしまう。
今日もまた、酷い事を言ってしまった――――これで、どうして奏に好意を持ってもらえるというのか?
栄太は、失意のどん底に落ちていた。
「ハハハ……こんな事、他人に相談する内容じゃないな……」
栄太はそう自嘲するように言うと、ストレートのバーボンをクッと呷った。
そして、代わりを注文する。
栄太はチラリとまどかを見ると、ふと口を開いた。
「――――西園寺さん、仕事は終わったんだろう? 」
「え? 」
「いや――西園寺さん、私服だし……プライベートなら構わないだろう? 一杯奢るよ。オレの、下らない愚痴を聞いてくれた礼だ」
「い、いいよ――」
「君。何か、女性好みのヤツを」
栄太はまどかの返事を待たずに、バーテンへ注文しようとする。
まどかは、疲れ果てたような面差しで、孤独に佇む栄太をそのままにしておけなくて、つい席を立つタイミングを逃し、そのまま付き合ってしまう。
「――――じゃあ、ネグローニを」
「かしこまりました」
しばし、沈黙が流れる。
そして丁度いいタイミングでカクテルを渡され、何方からともなく、再び会話が始まった。
「栄太くんは、ベータだよね……馬淵の家って、アルファなんでしょう? 大変だったんじゃない? 」
「……ああ」
「だよねー。どうしてアルファって、あんなに気位が高いんだろう。ウチのホテルにも時々来るけど、とにかく接客には気を遣うよ」
暗に、自分は栄太と同じベータだから気安くしていいのだと匂わせる。
仲間意識? 同族間のシンパシー?
――――それとも、無意識の女の狡さか。
とにかく、自分に対し好意を持ってもらいたくて、まどかは明るく振舞う。
「ね! 元気出しなよ。どうせ、馬淵の家から跡取りを作れとかって無理な事言われてるんでしょう? 多いよね、そういうの……」
「――――そうだな。オレも、優秀な跡取りを作らなければ馬淵の後を継がせないと言われるとは、夢にも思わなかったよ」
「ああ、やっぱりそんな理由か。だから、そこそこ優秀なオメガを選んで……」
言葉のトーンを落とし、まどかは続ける。
「そんな、気難しい人を相手にする羽目になったんだね。でも、そのオメガって、別れたアルファをまだ好きなんでしょう? だったら、もうこの際思い切って、栄太くんの方から縁を切った方が――――お互い良いんじゃないかな……」
奏のことが好きなのに、この好意はどうしたら伝わるのか。
「こんな事が、もう3年も続いている……」
それを聞き、まどかは驚いた。
「えぇ!? そんなに経っているの!? 」
「――――ああ」
奏は律儀に付き合ってくれてはいるが、そろそろ限界も近いだろう。
愛が全く育っていないせいか、2人の間に子供が出来る兆候は無い。
いつまでも、最初に結城家へ渡した金だけで、奏の自由を縛るのは無理だ。
「あいつは……未だに青柳正嘉へ思いを残している。身体はオレへ預けてくれるが、心はいつも正嘉だけだ」
「えっ……青柳――? 」
それは、アルファの血統に拘る選民思想の家だと、有名な――ある意味悪名高い家だ。
20年前ならいざ知らず、今の時代に、オメガの男体が嫁ぐ事など不可能だろう。
事実、奏は手酷く追い払われている。
――――喉をフォークで裂くほどに、彼はそれに絶望しているのに…………。
「あいつは自分では気付いていないようだが、いつもイク時に『正嘉』と口にしては泣いている。オレは――その度に、どうしても――」
虚しくて、辛くて、苦しくて、悲しくて…………どうしても優しい言葉が出てこない。
いつも、心とは裏腹の言葉を口にしてしまう。
今日もまた、酷い事を言ってしまった――――これで、どうして奏に好意を持ってもらえるというのか?
栄太は、失意のどん底に落ちていた。
「ハハハ……こんな事、他人に相談する内容じゃないな……」
栄太はそう自嘲するように言うと、ストレートのバーボンをクッと呷った。
そして、代わりを注文する。
栄太はチラリとまどかを見ると、ふと口を開いた。
「――――西園寺さん、仕事は終わったんだろう? 」
「え? 」
「いや――西園寺さん、私服だし……プライベートなら構わないだろう? 一杯奢るよ。オレの、下らない愚痴を聞いてくれた礼だ」
「い、いいよ――」
「君。何か、女性好みのヤツを」
栄太はまどかの返事を待たずに、バーテンへ注文しようとする。
まどかは、疲れ果てたような面差しで、孤独に佇む栄太をそのままにしておけなくて、つい席を立つタイミングを逃し、そのまま付き合ってしまう。
「――――じゃあ、ネグローニを」
「かしこまりました」
しばし、沈黙が流れる。
そして丁度いいタイミングでカクテルを渡され、何方からともなく、再び会話が始まった。
「栄太くんは、ベータだよね……馬淵の家って、アルファなんでしょう? 大変だったんじゃない? 」
「……ああ」
「だよねー。どうしてアルファって、あんなに気位が高いんだろう。ウチのホテルにも時々来るけど、とにかく接客には気を遣うよ」
暗に、自分は栄太と同じベータだから気安くしていいのだと匂わせる。
仲間意識? 同族間のシンパシー?
――――それとも、無意識の女の狡さか。
とにかく、自分に対し好意を持ってもらいたくて、まどかは明るく振舞う。
「ね! 元気出しなよ。どうせ、馬淵の家から跡取りを作れとかって無理な事言われてるんでしょう? 多いよね、そういうの……」
「――――そうだな。オレも、優秀な跡取りを作らなければ馬淵の後を継がせないと言われるとは、夢にも思わなかったよ」
「ああ、やっぱりそんな理由か。だから、そこそこ優秀なオメガを選んで……」
言葉のトーンを落とし、まどかは続ける。
「そんな、気難しい人を相手にする羽目になったんだね。でも、そのオメガって、別れたアルファをまだ好きなんでしょう? だったら、もうこの際思い切って、栄太くんの方から縁を切った方が――――お互い良いんじゃないかな……」
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