90 / 102
21
21-5
しおりを挟む
――――それしか、選択肢はなかった。
(ユウ……でも、いつか……必ず真っ新な状態にジュピタープロを変革するから、その時こそ、オレの所へ来てくれよ……)
聖はそう思うと、切なく、また溜め息をついた。
ユウは、先日路上でスカウトされ、聖の意に反して、七虹プロダクションという中堅の芸能事務所と、契約を結んでしまった。
やはり、子供のころ見殺しにされかけた事を恨んでいるのか? 意気消沈する聖に向かい、ユウは天真爛漫に笑って答えた。
『男なら、自分の力でどこまでやれるか勝負したいじゃないか。最初からあなたに頼ったら、インチキになってしまうよ』
そう言い切るユウに、聖は何も言い返せなかった。
ただ、微笑んで、
『そうか――頑張るんだぞ』
それしか言えなかった。
(お前が、もしも傷ついて飛べなくなった時に、安心して休める場所を作ってやるのが、せめてものオレの役目になるか――なぁ、ユウ? それくらいはいいよな? )
この弱った心に、希望を与えてくれ。
俯きながら、ギュッと手に力を込めてシーツを握っていると、スッと影が病室を訪れた。ここは(筋モノが次々と見舞いに来るので)個室だ。最初のうちは、看護師が果敢に立ち塞がり、見舞いの手続きを必ず通すようにしていたのだが、もう諦めらしい。
まぁ、一般人が、そう何度も厳つい男を足止めするにも限界があるだろう。
今度はどこの野郎が来やがったと顔を上げると、知らない男が立っていた。
三つ揃いの、イタリア製のオーダースーツを身に纏い、髪もぴしりと決まっている。
如何にも育ちのいいエリートであるかのように、物腰も柔らかく容姿も端麗だ。
「――あんたは? 」
「オレの名前は、綾瀬塔矢。警視庁捜査一課警視だった。先日まで、今回の騒動の責任者だったよ……一度くらい、ちゃんと君に挨拶がしたくてね。そして、お願いも」
記者会見だ何だと、綾瀬は先日までメディアに出ずっぱりだった為に、顔が世間にすっかり知られていたが、病院で治療に専念していた聖はその事を知らない。
それが面に出たのだろう、綾瀬はフッと笑った。
「ここの所、誰も彼も敵のような気がしていたから、君のようにオレの顔を見てもノーリアクションの人がいるとホッとするな」
「刑事がオレに、何の用だ? 」
「――――君に、改めてお願いがあってね」
「あぁ? 」
「半グレに集団暴行されたと、被害届を出してほしいんだ」
「……」
「君が女性だったら、集団での強姦罪で奴等を立件出来るが、生憎と君は男性だ。男性同士では強姦罪は成り立たない。君の場合、暴行罪の適用になる」
(※2017年に法改正され、強姦罪から強制性交等罪に名称が変わる。そして被害者はそれまで女性に限定されていたが、男性も被害者に改正された。強制性交等罪も強制わいせつ罪も非親告罪に改正され、刑事事件として取り扱うようになる。そして、強制性交等罪は原則執行猶予がつかなくなった。しかし2000年はまだまだ法改正の前で、男性には差別が付いて回った)
「君を暴行した四名は保護観察中だった。その状況での、今回の犯罪だ。オレの憶測だが、君が暴行罪を訴えたら――実際、君は死にかけたワケだし――彼らは児童自立支援施設か少年院送致になるだろう」
「死に掛けたんだから、意趣返しに奴等を訴えてやれってか? だがな――」
「いいや。これは、彼らを護るためだ」
「? 」
「このままでは、彼らは残らず青菱史郎に殺される」
「……」
「最初は、彼らの所持していた拳銃の出所が青菱だろうと追及して、何とか青菱を立件すべく四課と協力して追い込もうとしたが、彼らはすっかり怖気づいて口を割ろうとしない。だが、だからといって、本業の方々はそれで見逃してやろうとはならないだろう」
それはそうだ。
半グレは、本業を甘く見ている。
放火され、家族が被害に遭い、次は確実に我が身だ。
今になってその事に気づき、恐々としているのか。
「ふん……いい社会勉強になったようだな」
冷たく笑うと、綾瀬は目を細めて呟いた。
(ユウ……でも、いつか……必ず真っ新な状態にジュピタープロを変革するから、その時こそ、オレの所へ来てくれよ……)
聖はそう思うと、切なく、また溜め息をついた。
ユウは、先日路上でスカウトされ、聖の意に反して、七虹プロダクションという中堅の芸能事務所と、契約を結んでしまった。
やはり、子供のころ見殺しにされかけた事を恨んでいるのか? 意気消沈する聖に向かい、ユウは天真爛漫に笑って答えた。
『男なら、自分の力でどこまでやれるか勝負したいじゃないか。最初からあなたに頼ったら、インチキになってしまうよ』
そう言い切るユウに、聖は何も言い返せなかった。
ただ、微笑んで、
『そうか――頑張るんだぞ』
それしか言えなかった。
(お前が、もしも傷ついて飛べなくなった時に、安心して休める場所を作ってやるのが、せめてものオレの役目になるか――なぁ、ユウ? それくらいはいいよな? )
この弱った心に、希望を与えてくれ。
俯きながら、ギュッと手に力を込めてシーツを握っていると、スッと影が病室を訪れた。ここは(筋モノが次々と見舞いに来るので)個室だ。最初のうちは、看護師が果敢に立ち塞がり、見舞いの手続きを必ず通すようにしていたのだが、もう諦めらしい。
まぁ、一般人が、そう何度も厳つい男を足止めするにも限界があるだろう。
今度はどこの野郎が来やがったと顔を上げると、知らない男が立っていた。
三つ揃いの、イタリア製のオーダースーツを身に纏い、髪もぴしりと決まっている。
如何にも育ちのいいエリートであるかのように、物腰も柔らかく容姿も端麗だ。
「――あんたは? 」
「オレの名前は、綾瀬塔矢。警視庁捜査一課警視だった。先日まで、今回の騒動の責任者だったよ……一度くらい、ちゃんと君に挨拶がしたくてね。そして、お願いも」
記者会見だ何だと、綾瀬は先日までメディアに出ずっぱりだった為に、顔が世間にすっかり知られていたが、病院で治療に専念していた聖はその事を知らない。
それが面に出たのだろう、綾瀬はフッと笑った。
「ここの所、誰も彼も敵のような気がしていたから、君のようにオレの顔を見てもノーリアクションの人がいるとホッとするな」
「刑事がオレに、何の用だ? 」
「――――君に、改めてお願いがあってね」
「あぁ? 」
「半グレに集団暴行されたと、被害届を出してほしいんだ」
「……」
「君が女性だったら、集団での強姦罪で奴等を立件出来るが、生憎と君は男性だ。男性同士では強姦罪は成り立たない。君の場合、暴行罪の適用になる」
(※2017年に法改正され、強姦罪から強制性交等罪に名称が変わる。そして被害者はそれまで女性に限定されていたが、男性も被害者に改正された。強制性交等罪も強制わいせつ罪も非親告罪に改正され、刑事事件として取り扱うようになる。そして、強制性交等罪は原則執行猶予がつかなくなった。しかし2000年はまだまだ法改正の前で、男性には差別が付いて回った)
「君を暴行した四名は保護観察中だった。その状況での、今回の犯罪だ。オレの憶測だが、君が暴行罪を訴えたら――実際、君は死にかけたワケだし――彼らは児童自立支援施設か少年院送致になるだろう」
「死に掛けたんだから、意趣返しに奴等を訴えてやれってか? だがな――」
「いいや。これは、彼らを護るためだ」
「? 」
「このままでは、彼らは残らず青菱史郎に殺される」
「……」
「最初は、彼らの所持していた拳銃の出所が青菱だろうと追及して、何とか青菱を立件すべく四課と協力して追い込もうとしたが、彼らはすっかり怖気づいて口を割ろうとしない。だが、だからといって、本業の方々はそれで見逃してやろうとはならないだろう」
それはそうだ。
半グレは、本業を甘く見ている。
放火され、家族が被害に遭い、次は確実に我が身だ。
今になってその事に気づき、恐々としているのか。
「ふん……いい社会勉強になったようだな」
冷たく笑うと、綾瀬は目を細めて呟いた。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
ワルモノ
亜衣藍
BL
西暦1988年、昭和の最後の年となる63年、15歳の少年は一人東京へ降り立った……!
後に『傾国の美女』と讃えられるようになる美貌の青年、御堂聖の物語です。
今作は、15歳の聖少年が、極道の世界へ飛び込む切っ掛けとなる話です。
舞台は昭和末期!
時事ネタも交えた意欲作となっております。
ありきたりなBLでは物足りないという方は、是非お立ち寄りください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる