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「――今、夜通し、目つきの悪いヤクザも警察も大人数でそこら中を探りまくっている。オレも、使えるだけの権限全て使って、動員を掛け検問もしている。だが、ここまで探して尻尾が一切掴めないのはおかしい」
つまり、だ。
「この短時間でホシは都内から脱出したか、捜索が最初から除外されている場所が怪しいという事だ」
言いたいことが分かり、史郎はギラリと目を光らせた。
「つまり、極道が匿っているということか」
「そういう事だ」
刑事の肯定に、天黄の二人も同意した。
「まず、そうだろう。どこで【黒龍】って半グレと接点があったか知らねぇが、あんたに反旗を翻すだけの価値が、最近あんたんトコで手掛けるようになったんじゃあないかってぇ噂の、『花圃』って合法ドラッグにあると判断した所が手を組んだんだろうぜ」
「――青菱の外縁で可能性があるのは石川、朝倉……しかし一番怪しいのは安永だ」
それを聞き、刑事は素早く身を翻す。
「今名前の挙がった場所に、何か適当に令状を取って、すぐに踏み込む手筈を整える。ファフゥに関しては――こちらも犠牲者が出ている。お前にも、容赦はしない」
刑事は氷のような声で言い捨て、この場を去って行った。
史郎もすぐに動こうとするが、
「一言、いいかい」
と、天黄が呼び止めた。
「なに――」
すると、天黄に付き従っていた男の鋭い拳が、史郎の腹に突き刺さった。
「っ! 」
悶絶し、史郎は床に膝をつく。
しかし、それも一瞬。
スラリと、手にしていた日本刀を構え、史郎は体制を整える。
「――このオレに、こんなマネして、生きてここを出て行けると思っているのか? 」
だが、一切怯むことなく、天黄正弘が怒号を放った。
「いきがるんじゃねぇ! この小童が! 」
天黄正弘の大音量の怒声に、ビリビリと空気が震えた。
「てめぇのやり方は強引だが、それでも、あいつの目を覚ますにはそのくらいの強引さが丁度いいかと、オレは最初は思っていたよ。あいつに対する想いだけは、真剣で真摯だとな。だが、結果はどうよ? あいつはますます意固地になって一つの事しか見えなくなるし、てめぇはてめぇで、あいつを傷つけるマネしかしねぇ! こっちはいい加減、堪忍袋の緒が切れたぜ! 金輪際、あいつにぁ手を出すなぃ!! 」
鬼人のマサと異名を取っていた往年の迫力そのままに怒号を放つと、天黄正弘は慌てる青菱の護衛を突き飛ばすように出て行った。
一人だけ残っていた天黄の幹部が、無言になる史郎を見遣って口を開く。
「オレも、一発だけ拳を入れさしてもらいましたが、本当なら十発はあんたを殴りてぇ」
「――お前は? 」
「この間、お勤めを終えて幹部に就任しました、近藤碇と言います。この二年の間に何があったか知らねぇが、聖の野郎は芸能プロの社長になっていたようですね。しかし、あんたのせいでそれも危機に直面しているようだ。所属タレントのスキャンダルに続いて、あいつ自身がトラブルに遭ったと世間に知られたら、もう芸能プロの存続は不可能だろう。あんた、ますます嫌われるだけだぜ」
「……」
「オレはこれでも、両親の残してくれた土地や保険があるからな。それら一切を遣って、オレはジュピターの株を買う事にしたよ。どうせあいつの事だ、オレの力なんざ要らねーって言うだろうがな」
ハッと笑い、碇は言う。
「それであんたは、どうする? 」
「……」
「親分も言っていた。あいつに対する想いだけは真剣で真摯だと。オレも……そう思う」
碇のセリフに、史郎はどこか泣くのを我慢している子供のような表情になって呟いた。
「オレは――何もかも奪って、力で支配する。そんな愛し方しか知らない男だ」
「――」
「初めてあいつを見た時から、ずっと心を奪われている。だから、ずっと自分だけのものにしたかった……」
でも、聖はいつも違う方しか見ていない。
つまり、だ。
「この短時間でホシは都内から脱出したか、捜索が最初から除外されている場所が怪しいという事だ」
言いたいことが分かり、史郎はギラリと目を光らせた。
「つまり、極道が匿っているということか」
「そういう事だ」
刑事の肯定に、天黄の二人も同意した。
「まず、そうだろう。どこで【黒龍】って半グレと接点があったか知らねぇが、あんたに反旗を翻すだけの価値が、最近あんたんトコで手掛けるようになったんじゃあないかってぇ噂の、『花圃』って合法ドラッグにあると判断した所が手を組んだんだろうぜ」
「――青菱の外縁で可能性があるのは石川、朝倉……しかし一番怪しいのは安永だ」
それを聞き、刑事は素早く身を翻す。
「今名前の挙がった場所に、何か適当に令状を取って、すぐに踏み込む手筈を整える。ファフゥに関しては――こちらも犠牲者が出ている。お前にも、容赦はしない」
刑事は氷のような声で言い捨て、この場を去って行った。
史郎もすぐに動こうとするが、
「一言、いいかい」
と、天黄が呼び止めた。
「なに――」
すると、天黄に付き従っていた男の鋭い拳が、史郎の腹に突き刺さった。
「っ! 」
悶絶し、史郎は床に膝をつく。
しかし、それも一瞬。
スラリと、手にしていた日本刀を構え、史郎は体制を整える。
「――このオレに、こんなマネして、生きてここを出て行けると思っているのか? 」
だが、一切怯むことなく、天黄正弘が怒号を放った。
「いきがるんじゃねぇ! この小童が! 」
天黄正弘の大音量の怒声に、ビリビリと空気が震えた。
「てめぇのやり方は強引だが、それでも、あいつの目を覚ますにはそのくらいの強引さが丁度いいかと、オレは最初は思っていたよ。あいつに対する想いだけは、真剣で真摯だとな。だが、結果はどうよ? あいつはますます意固地になって一つの事しか見えなくなるし、てめぇはてめぇで、あいつを傷つけるマネしかしねぇ! こっちはいい加減、堪忍袋の緒が切れたぜ! 金輪際、あいつにぁ手を出すなぃ!! 」
鬼人のマサと異名を取っていた往年の迫力そのままに怒号を放つと、天黄正弘は慌てる青菱の護衛を突き飛ばすように出て行った。
一人だけ残っていた天黄の幹部が、無言になる史郎を見遣って口を開く。
「オレも、一発だけ拳を入れさしてもらいましたが、本当なら十発はあんたを殴りてぇ」
「――お前は? 」
「この間、お勤めを終えて幹部に就任しました、近藤碇と言います。この二年の間に何があったか知らねぇが、聖の野郎は芸能プロの社長になっていたようですね。しかし、あんたのせいでそれも危機に直面しているようだ。所属タレントのスキャンダルに続いて、あいつ自身がトラブルに遭ったと世間に知られたら、もう芸能プロの存続は不可能だろう。あんた、ますます嫌われるだけだぜ」
「……」
「オレはこれでも、両親の残してくれた土地や保険があるからな。それら一切を遣って、オレはジュピターの株を買う事にしたよ。どうせあいつの事だ、オレの力なんざ要らねーって言うだろうがな」
ハッと笑い、碇は言う。
「それであんたは、どうする? 」
「……」
「親分も言っていた。あいつに対する想いだけは真剣で真摯だと。オレも……そう思う」
碇のセリフに、史郎はどこか泣くのを我慢している子供のような表情になって呟いた。
「オレは――何もかも奪って、力で支配する。そんな愛し方しか知らない男だ」
「――」
「初めてあいつを見た時から、ずっと心を奪われている。だから、ずっと自分だけのものにしたかった……」
でも、聖はいつも違う方しか見ていない。
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