ナラズモノ

亜衣藍

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「お前たちとは、話したくない」

 すると、五人もの男に囲まれながら、全く怯んだ様子のないユウの反応が癇に障ったのか、男たちの空気がサッと変わった。

「おいおい、どこの田舎モンだ~? 」

「ガキだからって調子乗ってると、痛い目みるぜ」

 マニュアル通りの脅し文句を言う男のセリフが終わる前に、ユウは駆け出していた。

 幸い、ここは人通りもある。

 明るい向こうの通りに出れば、男たちもユウに絡むのは諦めるだろう。

 そう、思ったのだが。

「待てよっ! 」

 伸びてきた手に襟を掴まれ、アスファルトの上に引き倒される。

 ユウは、ギターを庇って路地の上に丸まった。

 顔を上げると、何事だと驚いた様子で、通行人の何人かが足を止めてこっちを見ているのが目に入った。

――――だが、それまでだ。

 誰もが眉をひそめながら、ユウと男たちの前を通り過ぎていく。

 誰一人として、ユウを助けようとする者はいない。

(どこでも同じだな)

 今まで、散々同じようなシチュエーションがあったのに。

 人の善意に期待するのは止めようと思っていたのに、つい期待してしまった。

 ユウは、そんな自分自身に腹が立ち、上体を起こす。

「お前たちの目的はカネか」

「ああ、まぁ最初はそうだったなぁ」

「……それなら、これをくれてやる。どっかに行け」

 そう言うと、ユウは財布を路上へ放り投げた。

 だが、これが一層相手の怒りを誘った。

「何だよ、その態度は? ガキのくせに大人をナメてんじゃねーよ! 」

「そのガキからカネを取ろうとしたくせに、お前たちの方がカッコ悪いよ」

 すると、ユウの背中に衝撃が走った。

 後ろに回った男がユウの背中を蹴り上げ、次に脇腹を殴る。軽いユウの身体は、その反動で宙に浮いた。

「――! 」

 声にならない声を上げ、ユウは路上に蹲る。今の衝撃で、ポケットに入れていた携帯電話が地面に落ちた。

――――ppppp……ppppp……

 丁度そのタイミングで、この一ヵ月の間に、何度も何度も掛かってきた呼び出し音が鳴った。

「お、カメラ付き! 最新機種じゃん! もーらいっ」

 男の一人が携帯電話を手にすると、ボタンに指が触れたのか、向こうの声が漏れてきた。

『ユウか!? やっと出てくれた……写真はもういい……もういいから、せめて、今どこにいるのかだけでも教えてくれないか? 』

 切ないほどの、優しい男の声だ。

 携帯電話を手にしていた男が、笑いながら口を開く。

「ユウちゃんは、これからお仕置きタイムでーす」

 それに呼応したように、後ろに立つ男が、ユウのギターケースに手を掛ける。

「あっ! やめ――」

――――バキッ!! 

 男は、ケースごとギターを勢いよく振り下ろし、ギターは真っ二つにされた。

「……! 」

 凍り付くユウを嘲笑いながら、男は得意気に言う。

「オタクのお子さん躾がなってないから、オレらが代わりに世間のジョーシキ教えてやります~」

「ハハハハ! えっと、ここは○○駅の西口前で、四番町通りから一本入ったトコで~す。おとーさんですかぁ? 」

『……ああ』

「それじゃあ、慰謝料に十万持ってきてください♪それまでオタクのお子さん預かりますんで。警察に行ったらダメですよー? じゃ! 」

 電話を切り、男たちは、放心したままのユウを引きずって行った。

 その様子を固唾を呑んで見ていた通行人たちは、だが、すぐに興味を失ったように足早に去って行ったのだった。

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