ナラズモノ

亜衣藍

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 セッションで飛び入り参加するか……と、一瞬思ったが、先ほどのマイナスの思考が頭をよぎり、結局ユウはその前を素通りした。

 自分には、一人が合っている。

 どこか別の場所を探そう――ユウはそう考え、土地勘もないくせに東京の街をさ迷った。

 しかし【良い場所】というような所は、大抵の場合何者かが縄張りにしている。

 それは、そうそう性質の良いものではないという事を、ユウは完全に失念していたのだった。

   ◇

 ひっきりなしにせわしなく行きかう人々。

 そこから少し入った通りの小スペースに、ベンチと植木が並んでいる一角があった。

 車通りは少ないが、人通りはまぁまぁある。そして、周りに商店や民家はない。

 ここなら、少しくらいうるさくても大丈夫そうだ。

 ユウはそう判断して、この場所でストリートライブをする事にした。

 丁度、ギターを持ってきていて良かった。

 スケッチブックでもあれば、簡単な自己紹介やPRを書いてギターケースに立てかけるところだが、さすがにそこまで準備はしていない。

 さっき見た、あの大学生のように、ケースだけ開いて足元へ置く。


――――少し、ドキドキする。


 まだ周りに人はいないけど、歌っていると誰かが足を止めてくれるだろうか?

 これが、東京での初ライブになる。

 一人でもいいから、聴いてくれるかな?

 そんな期待と不安を抱きながら、ユウはギターのチューニングをする。

――――♪♪♪。

(よし、大丈夫だ)

 息を吸い、声を出そうとしたところ……。

「おい、兄ちゃん。ここで何やってんの? 」

「かっわいい顔しちゃって~まだガキじゃん。ママやパパはどーした? 」

 と、頭を金色や紫に染めた男たちが声をかけてきた。二十歳を少し超えたくらいの、若い男たちだ。

 全員で五人いる。

 そして、ユウを見ながら皆ニヤニヤ笑っていて、とても感じが悪い。

 ユウは、こういう人種をよく知っていた。

『お前、親に捨てられたんだってな? 』

『要らない子だったって、畠山では小屋に押し込められているんだろう』

『辛気臭い疫病神で、近寄ったら病気がうつるんだって? 』

 散々、ユウを罵って喜んでいた輩にそっくりだ。

 ユウはサッと表情を強張らせ、ギターをケースに戻すと、足早にそこを立ち去ろうとした。

 だが、行く手を遮るように、男たちが立ちはだかる。

 クルリと反転して、逆方向の道へ行こうとするが……。

「おっとぉ! 」

 と、中の一人が廻り込んで道を塞いだ。

「待てよ。何もオレ達は、ここで歌うなって言ってんじゃないぜ」

「……? 」

「そうそう、ここら辺はオレらのシマなんだ。だから、ショバ代さえ払えば幾らでも歌っていいぜ。お前みたいなの、ストリートミュージシャンっていうんだろう? 他の奴等は、大人しくオレらにカネを払ったぜ」

 ここは、こいつらの縄張りというワケか。

 理解したが、同時に、ユウは怒りが湧いてきた。

 縄張りだか何だか知らないが、こいつらがここの地主だというならともかく、一方的にストリートミュージシャンからカネを徴収しようとするのは変ではないか。

「――場所を変える。お前たちみたいな大人は大嫌いだ」

 ユウはそう言い捨てると、立ちはだかっていた男の一人をグイっと押して前に出ようとした。

 だが、相手はユウの態度にムッとしたようだ。

「おい、何だよ……その態度はよぉ」

「うるさい。オレは違う場所に行く」

「はぁ? 」

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