33 / 102
8
8-2
しおりを挟む
セッションで飛び入り参加するか……と、一瞬思ったが、先ほどのマイナスの思考が頭をよぎり、結局ユウはその前を素通りした。
自分には、一人が合っている。
どこか別の場所を探そう――ユウはそう考え、土地勘もないくせに東京の街をさ迷った。
しかし【良い場所】というような所は、大抵の場合何者かが縄張りにしている。
それは、そうそう性質の良いものではないという事を、ユウは完全に失念していたのだった。
◇
ひっきりなしに忙しなく行きかう人々。
そこから少し入った通りの小スペースに、ベンチと植木が並んでいる一角があった。
車通りは少ないが、人通りはまぁまぁある。そして、周りに商店や民家はない。
ここなら、少しくらいうるさくても大丈夫そうだ。
ユウはそう判断して、この場所でストリートライブをする事にした。
丁度、ギターを持ってきていて良かった。
スケッチブックでもあれば、簡単な自己紹介やPRを書いてギターケースに立てかけるところだが、さすがにそこまで準備はしていない。
さっき見た、あの大学生のように、ケースだけ開いて足元へ置く。
――――少し、ドキドキする。
まだ周りに人はいないけど、歌っていると誰かが足を止めてくれるだろうか?
これが、東京での初ライブになる。
一人でもいいから、聴いてくれるかな?
そんな期待と不安を抱きながら、ユウはギターのチューニングをする。
――――♪♪♪。
(よし、大丈夫だ)
息を吸い、声を出そうとしたところ……。
「おい、兄ちゃん。ここで何やってんの? 」
「かっわいい顔しちゃって~まだガキじゃん。ママやパパはどーした? 」
と、頭を金色や紫に染めた男たちが声をかけてきた。二十歳を少し超えたくらいの、若い男たちだ。
全員で五人いる。
そして、ユウを見ながら皆ニヤニヤ笑っていて、とても感じが悪い。
ユウは、こういう人種をよく知っていた。
『お前、親に捨てられたんだってな? 』
『要らない子だったって、畠山では小屋に押し込められているんだろう』
『辛気臭い疫病神で、近寄ったら病気がうつるんだって? 』
散々、ユウを罵って喜んでいた輩にそっくりだ。
ユウはサッと表情を強張らせ、ギターをケースに戻すと、足早にそこを立ち去ろうとした。
だが、行く手を遮るように、男たちが立ちはだかる。
クルリと反転して、逆方向の道へ行こうとするが……。
「おっとぉ! 」
と、中の一人が廻り込んで道を塞いだ。
「待てよ。何もオレ達は、ここで歌うなって言ってんじゃないぜ」
「……? 」
「そうそう、ここら辺はオレらのシマなんだ。だから、ショバ代さえ払えば幾らでも歌っていいぜ。お前みたいなの、ストリートミュージシャンっていうんだろう? 他の奴等は、大人しくオレらにカネを払ったぜ」
ここは、こいつらの縄張りというワケか。
理解したが、同時に、ユウは怒りが湧いてきた。
縄張りだか何だか知らないが、こいつらがここの地主だというならともかく、一方的にストリートミュージシャンからカネを徴収しようとするのは変ではないか。
「――場所を変える。お前たちみたいな大人は大嫌いだ」
ユウはそう言い捨てると、立ちはだかっていた男の一人をグイっと押して前に出ようとした。
だが、相手はユウの態度にムッとしたようだ。
「おい、何だよ……その態度はよぉ」
「うるさい。オレは違う場所に行く」
「はぁ? 」
自分には、一人が合っている。
どこか別の場所を探そう――ユウはそう考え、土地勘もないくせに東京の街をさ迷った。
しかし【良い場所】というような所は、大抵の場合何者かが縄張りにしている。
それは、そうそう性質の良いものではないという事を、ユウは完全に失念していたのだった。
◇
ひっきりなしに忙しなく行きかう人々。
そこから少し入った通りの小スペースに、ベンチと植木が並んでいる一角があった。
車通りは少ないが、人通りはまぁまぁある。そして、周りに商店や民家はない。
ここなら、少しくらいうるさくても大丈夫そうだ。
ユウはそう判断して、この場所でストリートライブをする事にした。
丁度、ギターを持ってきていて良かった。
スケッチブックでもあれば、簡単な自己紹介やPRを書いてギターケースに立てかけるところだが、さすがにそこまで準備はしていない。
さっき見た、あの大学生のように、ケースだけ開いて足元へ置く。
――――少し、ドキドキする。
まだ周りに人はいないけど、歌っていると誰かが足を止めてくれるだろうか?
これが、東京での初ライブになる。
一人でもいいから、聴いてくれるかな?
そんな期待と不安を抱きながら、ユウはギターのチューニングをする。
――――♪♪♪。
(よし、大丈夫だ)
息を吸い、声を出そうとしたところ……。
「おい、兄ちゃん。ここで何やってんの? 」
「かっわいい顔しちゃって~まだガキじゃん。ママやパパはどーした? 」
と、頭を金色や紫に染めた男たちが声をかけてきた。二十歳を少し超えたくらいの、若い男たちだ。
全員で五人いる。
そして、ユウを見ながら皆ニヤニヤ笑っていて、とても感じが悪い。
ユウは、こういう人種をよく知っていた。
『お前、親に捨てられたんだってな? 』
『要らない子だったって、畠山では小屋に押し込められているんだろう』
『辛気臭い疫病神で、近寄ったら病気がうつるんだって? 』
散々、ユウを罵って喜んでいた輩にそっくりだ。
ユウはサッと表情を強張らせ、ギターをケースに戻すと、足早にそこを立ち去ろうとした。
だが、行く手を遮るように、男たちが立ちはだかる。
クルリと反転して、逆方向の道へ行こうとするが……。
「おっとぉ! 」
と、中の一人が廻り込んで道を塞いだ。
「待てよ。何もオレ達は、ここで歌うなって言ってんじゃないぜ」
「……? 」
「そうそう、ここら辺はオレらのシマなんだ。だから、ショバ代さえ払えば幾らでも歌っていいぜ。お前みたいなの、ストリートミュージシャンっていうんだろう? 他の奴等は、大人しくオレらにカネを払ったぜ」
ここは、こいつらの縄張りというワケか。
理解したが、同時に、ユウは怒りが湧いてきた。
縄張りだか何だか知らないが、こいつらがここの地主だというならともかく、一方的にストリートミュージシャンからカネを徴収しようとするのは変ではないか。
「――場所を変える。お前たちみたいな大人は大嫌いだ」
ユウはそう言い捨てると、立ちはだかっていた男の一人をグイっと押して前に出ようとした。
だが、相手はユウの態度にムッとしたようだ。
「おい、何だよ……その態度はよぉ」
「うるさい。オレは違う場所に行く」
「はぁ? 」
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
ワルモノ
亜衣藍
BL
西暦1988年、昭和の最後の年となる63年、15歳の少年は一人東京へ降り立った……!
後に『傾国の美女』と讃えられるようになる美貌の青年、御堂聖の物語です。
今作は、15歳の聖少年が、極道の世界へ飛び込む切っ掛けとなる話です。
舞台は昭和末期!
時事ネタも交えた意欲作となっております。
ありきたりなBLでは物足りないという方は、是非お立ち寄りください。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
男の子たちの変態的な日常
M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
まだ、言えない
怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL
XXXXXXXXX
あらすじ
高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。
“TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。
吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。
「まだ、言えない」気持ちが交差する。
“全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか”
注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m
注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる