ナラズモノ

亜衣藍

文字の大きさ
上 下
32 / 102
8

8-1

しおりを挟む

「事務所に所属するには、まずは週二回レッスンを受けてください。それから、事務所の登録料が必要となります。こちらに詳細が書いてありますので、よく確認してください」

「……はぁ」

 差し出された紙を手にして、ユウは質問をする。

「あの、オーディションとかはないんですか? 」

「ウチは、そういうのはやっていません。それより、あなた未成年ですよね? 保護者の同意書も必要になりますから、こっちの申込書にも記入してもらってください」

「保護者は、いません。オレは一人です」

「そういった事は、こちらでは関与しません。とにかく同意書を添付してください」

 そう邪険にあしらわれ、ユウは門前払いを食らってしまった。

 表には【いつでも君を待っている! 見学歓迎! 】という看板がデカデカと掲げられているが、やはりどこも内実は違うようだ。

 ユウは溜め息をつきながら、次の芸能事務所を探すかどうか考える。

 東京には、色々な芸能社があるのは確かだ。

 どこも「未経験者歓迎! 受講生募集中! 」とあるが、結局はカネ次第だ。

 オーディションで合否を決め、レッスン含め衣食住まで面倒を見てくれるような芸能事務所など無いらしい。

 それに、ユウには困った事情が付いて回っている。

 先ほども言われた。

 保護者・・・はどうしたと。

 この日本では、義務教育は中学までだ。そして、児童手当などの国からの補助も、中学を出た所で切られる。もしも、その世帯が国から生活保護を受けていた場合も、高校の学費は一切出ない。

(※2004年からは支給されるようになったが、2000年のこの当時は支給されなかったのだ)

 つまり、中学を卒業したら貧乏人はさっさと働けという事だ。

 国からの補助は打ち切られる。

 高校からは、高い学費を払わねば入れないようになっている。

 だが、どこかに就職する場合は、殆どが高卒・・・を条件にしている。

 何とも矛盾した話である。

 しかも国は、補助を打ち切った若者未成年に対し、中卒で労働に就くことを要求しているくせに、いざその若者が何かをしようとすると、保護者の同意が必要だという。

 この国は、バカバカしいくらいに矛盾だらけだ。

「仕方がない。やっぱり、路上ライブか――それかライブハウスを見て、仲間を探すしかないか……」

 しかし仲間といっても、ユウは、バンドを組むのにはいまいち気乗りがしない。

 自分の好きなように、自由に歌っていたいのだ。

 誰かがそこに混じれば、いい方向に連鎖してミックスアップするかもしれないが、逆にダメになる可能性もある。

 ユウは、歌に対しては妥協したくない。

 きっと遠慮もなく、ズカズカとモノを言うだろう。

 ケンカは――出来ればしたくない。

 第一、他人の顔色を窺ってビクビクするんて、そんなのもう二度とごめんだ。

 東京に来て、早一ヵ月が経った。

 カネはまだあるが、じりじりと減っている。

――当たり前だ。

 仕事はしていないのだから。

 考えながらアテもなく歩いていると、不意にどこからか音楽が聞こえてきた。

 音のする方を見遣ると、大学生くらいの二人組が、高架下の少し開けた場所で歌っているのが分かった。ギャラリーも数人いて、結構楽しそうだ。

 演奏している足元の、開いて置いたギターケースへと、その内のギャラリー何人かがコインを入れている。

 うん、これなら客の反応が分かりやすいし、そのコインが、歌に払われる対価なら納得できる。

 幸い、ユウもギターを持って歩いていたところだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ワルモノ

亜衣藍
BL
西暦1988年、昭和の最後の年となる63年、15歳の少年は一人東京へ降り立った……! 後に『傾国の美女』と讃えられるようになる美貌の青年、御堂聖の物語です。 今作は、15歳の聖少年が、極道の世界へ飛び込む切っ掛けとなる話です。 舞台は昭和末期!  時事ネタも交えた意欲作となっております。 ありきたりなBLでは物足りないという方は、是非お立ち寄りください。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

まだ、言えない

怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL XXXXXXXXX あらすじ 高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。 “TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。 吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。 「まだ、言えない」気持ちが交差する。 “全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか” 注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m 注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

処理中です...