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あの、ゴミ貯めのようだったアパートで死にかけていた、可愛そうな子供を幸せにしてやりたくて。
必ず力になってやろうと、何年も何年も死ぬ思いで耐えて、どうにか道筋が見えたと思っていたのに。
ユウの存在は、この男にだけは知られてはならないと気を張っていたが、他にも敵が多くなってしまった。
それだけの事をしてきたのだから、仕方がないが、まだ色々と隠して日陰で生きていかなければならないのか――?
「……何を考えている」
聖の懊悩を感じ取ったか、史郎は声に険を含ませて、手にした髪をグイっと引っ張った。
「っ! 」
「お前は、いつも何か考えて、何か隠している。オレはそれが、昔からムカついてしょうがねぇのよ」
そう言い捨てると、聖の腰が逃げないように、その大きな両手でがっしりと掴み、一気に怒張を突き上げた。
「――! 」
声にならない悲鳴を上げる聖に、史郎は暗い声で告げる。
「お前の心にある奴等の正体を、今夜こそ暴いてやる」
「あ、あ――うっ! 」
絶対に、知られてはならない。
聖は、情け容赦のない責め苦の中で、それだけを思った。
◇
この身体は、そんなに価値があるものなんだろうか?
自分では分かるはずもないが、今まで一度身体を与えた相手は、どういうワケか中毒患者のようにこの身体に固執するようになった。
そうする内に、やがて聖の何もかもが欲しいと渇望するようになり、聖の言うどんな願いも叶えてやろうとし始める。
その結果が、傾国の美女。
そんな異名を付けられるとは思わなかったが、結果だけ見たら確かに否定はできない。
否定はできない、が――――それで一方的に恨まれるのは、やはり納得がいかない。
「う……」
ここ最近の過労が祟り、疲労困憊の末にとうとう熱を出してしまい、聖は自宅マンションのベッドに沈んでいた。
事務所には、体調の様子を見てから出社するとだけ伝言しておいた。
今の聖は、線の細い、少女のように華奢な少年ではない。
二十七の、もう立派な身体をした大人だ。
ジムや道場に通い、キックボクシングと中国拳法も習得している。
その結果、元々得意であった蹴り技は電光石火の鋭さと破壊力を増し、拳法では、素手で確実に人体を破損させる技を学んだ。
聖がその気になりさえすれば、もう滅多なことではケンカ勝負に負けない。
全身には程よく筋肉がつき、かつては少女のような印象もあった彼も、今は立派な雄へと成長を遂げた。
もしも今、聖が女装などしようものなら、不格好な仮装姿にしか見えないだろう。
それなのに、だ。
どうして、どこからどう見ても男にしか見えない聖を、どいつもこいつも目の色を変えて犯そうとするのか。
本人には、何度考えても理解不能だ。
「――まいったな……」
そう、困ったことになった。
青菱史郎の、聖に対する執着も本当に厄介だが、差し迫って厄介なのは、ヤクザの報復の可能性だろう。
ジュピタープロダクションには、できるだけカタギを多く起用している。
将来的に、クリーンなイメージに一新したいのだから仕方がないだろう。
だが、聖本人があちこちの極道から逆恨みを買ってしまい、もしかしたら、事務所に何か嫌がらせを仕掛けられるかもしれない可能性が出てきた。
できるだけ、カタギのスタッフは巻き込みたくない。
それは向こうも同じだと思うが、どう動くのか予測が付かない。
必ず力になってやろうと、何年も何年も死ぬ思いで耐えて、どうにか道筋が見えたと思っていたのに。
ユウの存在は、この男にだけは知られてはならないと気を張っていたが、他にも敵が多くなってしまった。
それだけの事をしてきたのだから、仕方がないが、まだ色々と隠して日陰で生きていかなければならないのか――?
「……何を考えている」
聖の懊悩を感じ取ったか、史郎は声に険を含ませて、手にした髪をグイっと引っ張った。
「っ! 」
「お前は、いつも何か考えて、何か隠している。オレはそれが、昔からムカついてしょうがねぇのよ」
そう言い捨てると、聖の腰が逃げないように、その大きな両手でがっしりと掴み、一気に怒張を突き上げた。
「――! 」
声にならない悲鳴を上げる聖に、史郎は暗い声で告げる。
「お前の心にある奴等の正体を、今夜こそ暴いてやる」
「あ、あ――うっ! 」
絶対に、知られてはならない。
聖は、情け容赦のない責め苦の中で、それだけを思った。
◇
この身体は、そんなに価値があるものなんだろうか?
自分では分かるはずもないが、今まで一度身体を与えた相手は、どういうワケか中毒患者のようにこの身体に固執するようになった。
そうする内に、やがて聖の何もかもが欲しいと渇望するようになり、聖の言うどんな願いも叶えてやろうとし始める。
その結果が、傾国の美女。
そんな異名を付けられるとは思わなかったが、結果だけ見たら確かに否定はできない。
否定はできない、が――――それで一方的に恨まれるのは、やはり納得がいかない。
「う……」
ここ最近の過労が祟り、疲労困憊の末にとうとう熱を出してしまい、聖は自宅マンションのベッドに沈んでいた。
事務所には、体調の様子を見てから出社するとだけ伝言しておいた。
今の聖は、線の細い、少女のように華奢な少年ではない。
二十七の、もう立派な身体をした大人だ。
ジムや道場に通い、キックボクシングと中国拳法も習得している。
その結果、元々得意であった蹴り技は電光石火の鋭さと破壊力を増し、拳法では、素手で確実に人体を破損させる技を学んだ。
聖がその気になりさえすれば、もう滅多なことではケンカ勝負に負けない。
全身には程よく筋肉がつき、かつては少女のような印象もあった彼も、今は立派な雄へと成長を遂げた。
もしも今、聖が女装などしようものなら、不格好な仮装姿にしか見えないだろう。
それなのに、だ。
どうして、どこからどう見ても男にしか見えない聖を、どいつもこいつも目の色を変えて犯そうとするのか。
本人には、何度考えても理解不能だ。
「――まいったな……」
そう、困ったことになった。
青菱史郎の、聖に対する執着も本当に厄介だが、差し迫って厄介なのは、ヤクザの報復の可能性だろう。
ジュピタープロダクションには、できるだけカタギを多く起用している。
将来的に、クリーンなイメージに一新したいのだから仕方がないだろう。
だが、聖本人があちこちの極道から逆恨みを買ってしまい、もしかしたら、事務所に何か嫌がらせを仕掛けられるかもしれない可能性が出てきた。
できるだけ、カタギのスタッフは巻き込みたくない。
それは向こうも同じだと思うが、どう動くのか予測が付かない。
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