ナラズモノ

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「最近、随分とよそよそしいじゃないか？　」

　呼びつけられた料亭で、そう切り出された。

　聖は下座に端座しながら平静を装い、酌をする。

「――そうですか？　若頭の気のせいじゃないですかね」

「ふぅん……」

　冷たい月のような聖の顔を眺めながら、相手はゆっくりと杯を傾ける。

「お前、安永の叔父貴オジキのシマぁ頂いたんだってな？　」

「……ええ。それが、何か？　」

「あそこは一番の金づるだっただろうに、よく手放したなと思ってよ。安永組の幹部連中、だいぶ反発しているらしいぜ」

「――」

「どうして、天黄組にくれてやったんだってな。他にも、石川、朝倉、矢上と揃って、かつての勢いを失い凋落の一途だ。野田と山川に至っては、とうとう本当に解散したしな。逆に、天黄は肥え太って青菱傘下で無視のできない大きさになった」

「それが？　」

「お陰で、お前を解放しなきゃあならなくなった」

　クッと杯を仰ぎ、それを放り投げると、青菱あおひし史郎しろうは聖の手を掴んだ。

「お前の事を、組の連中が何て言っているのか知ってるか？　」

「何を……」

「傾国の美女、だってよ」

　史郎はくすくすと笑い、グイっと聖を引き寄せる。

　聖は抗おうかどうするか迷うが、仕方なしに身を任せた。

　だが、黙って大人しくしている気はないのか、至近距離で史郎の眼を見返しながら、可愛くないことを言う。

「オレは、もうあんたとは切れたハズだが？　」

「ふん。オレは、そんな気はない」

　この男は、いつも尊大だ。

　聖より七つ上なのに、癇癪を起すと誰も手が付けられない。

　それこそ黙っていれば、人気の映画俳優のように端正な容姿と立ち姿をしているのに、中身は獰猛な極道そのものだ。

　この男に囲われた五年間は、二度と思い出したくない。

　キッと睨み付けると、史郎はニヤリと笑った。

「オレは、まだお前を諦めちゃあいない」

　史郎はそう言うと、聖の上着を強引に脱がせようとする。

　だが、聖はこれに逆らった。

「オレは、もうあんたとは切れたんだ！　だから、もうこんな事はしない!!　」

「ここまでのこのこ来ておいて、何言ってんだ？　……久しぶりにお前の味が見たくなった。さんざオンナにしてやったんだから、お前の弱いところは全部知ってるんだぜ」

　そう嘲ると、史郎は聖の脇腹を撫でた。

「っ！　」

「お前は、ここが弱い」

「や、め――」

　鳥肌が立ち、条件反射で反撃しかかるが――……

「おっと、蹴り飛ばすのは止めとけよ。天黄が大きくなったとはいえ、まだまだ青菱の傘下だ。お前が暴れれば、それだけ天黄正弘の立場が悪くなるぞ」

　釘を刺され、聖は動きを止める。

「～」

　悔し気に顔を歪める聖に、史郎はまた嗤う。

「お前は、オレのオンナだ」