3 / 47
1
1-2
しおりを挟む
影は健闘していたが、所詮は、多勢に無勢。
激しい抵抗も、やがては五人がかりで地面に組み伏せられ、結局取り押さえられてしまった。
その後に及んで、ようやく影は諦めたらしい。
全身の力を抜いて、抗うことを止め、男達の下で大人しくなる。
だが、猛者と言っていい、組員五人相手に大立ち回りをした影の正体を目にして、驚いて言葉を失ったのは、当の本人たちの方であった。
(こんなガキに、手こずっていたのか? )
驚くのも無理はない。
相手は、まだ子供と言っていいような少年だったのだ。
首も細く、手足もすんなりとしていて細い。
体つきは、華奢そのものだ。
しかし、着ている服は上下とも色が抜けていて、所々擦り切れている。
頭髪もぼうぼうで、風呂にも入っていないのか、全身が浅黒く汚い。
服からのぞく手足には無数の傷と痣があり、どう見ても普通の子供ではない。
ハッキリ言って、戦後の街でよく見かけた、ボロを纏った薄汚い孤児のようだ。
だが、意外にも、その容姿は優美と言っていい程に可憐で美しい。
しかし、それ以上に印象的だったのは、抜身の刃物のような、その少年の眼だった。
(こいつは――)
何となくその眼力に圧倒され、正弘はジッとその眼を見返す。
遠い過去に、上野の焼け野原で、一人棒立ちになりながら世を呪った情景が、一瞬にして脳裏に蘇った。
「おめぇ……」
だが、
「この、クソガキっ!! 」
大人しくなったのをいい事に、思い切り脛を蹴られたパンチパーマが、少年の背中へとキックを見舞った。それに続くように、手下たちは一斉に、うずくまる少年へ制裁を繰り出す。
頭や顔も蹴られ、その拍子に唇が切れたのか、血がパッと散った。
「てめぇら、止め――」
正弘が、制止の声を上げようとしたが――
「ギャア! 」
手下の一人が悲鳴を上げ、飛び退く。
その腕には、刃物ですっぱりと切られた傷が刻まれていた。
「き、気を付けろ! こいつ、武器を持ってるぞ! 」
その声に、怯む手下たち。
この隙をついて、またしても少年は脱出を試みた。
だが、たった今、激しい暴行を受けた身だ。
最初のように、俊敏に動くことは叶わない。
ましてや、数多くの修羅場を踏んだ、極道の頭である正弘の隙をついて逃げ出す事など、不可能であった。
「うっ……」
「――まったく、とんだ子虎だぁな」
そう呟くと同時に、正弘はその腕の中に、少年をしっかりと捕らえていた。
一瞬遅れで、周りの幹部や手下たちが、親分を取り囲むように集まる。
「親分、大丈夫ですか!? このガキ――」
しかし、正弘の怒りの矛先は、捕らえた少年にではなく手下たちへ向かった。
「黙れぃ! この三下が!! 揃いも揃って、大の男共が何やってんでい! 」
「へ、へい……」
「こんなガキ相手に情けねぇ! てめぇら、破門だ!!」
「そ、そんな――」
戸惑う手下たちの始末を、幹部に任せ、正弘は腕の中の少年に目を落とした。
(味方のいない中、たった一人で、孤軍奮闘か――)
まるで、昔の自分を見ているようだった。
(……ま、オレのツラはこんなに良くなかったけどよ)
「おい、車を回せ」
「はい」
正弘の指示に、素早く車が用意される。
小さく笑いながら、糸が切れように意識を失っている少年を抱えると、正弘は車へ乗り込んだ。
――――少年の体は、驚くほど軽かった。
激しい抵抗も、やがては五人がかりで地面に組み伏せられ、結局取り押さえられてしまった。
その後に及んで、ようやく影は諦めたらしい。
全身の力を抜いて、抗うことを止め、男達の下で大人しくなる。
だが、猛者と言っていい、組員五人相手に大立ち回りをした影の正体を目にして、驚いて言葉を失ったのは、当の本人たちの方であった。
(こんなガキに、手こずっていたのか? )
驚くのも無理はない。
相手は、まだ子供と言っていいような少年だったのだ。
首も細く、手足もすんなりとしていて細い。
体つきは、華奢そのものだ。
しかし、着ている服は上下とも色が抜けていて、所々擦り切れている。
頭髪もぼうぼうで、風呂にも入っていないのか、全身が浅黒く汚い。
服からのぞく手足には無数の傷と痣があり、どう見ても普通の子供ではない。
ハッキリ言って、戦後の街でよく見かけた、ボロを纏った薄汚い孤児のようだ。
だが、意外にも、その容姿は優美と言っていい程に可憐で美しい。
しかし、それ以上に印象的だったのは、抜身の刃物のような、その少年の眼だった。
(こいつは――)
何となくその眼力に圧倒され、正弘はジッとその眼を見返す。
遠い過去に、上野の焼け野原で、一人棒立ちになりながら世を呪った情景が、一瞬にして脳裏に蘇った。
「おめぇ……」
だが、
「この、クソガキっ!! 」
大人しくなったのをいい事に、思い切り脛を蹴られたパンチパーマが、少年の背中へとキックを見舞った。それに続くように、手下たちは一斉に、うずくまる少年へ制裁を繰り出す。
頭や顔も蹴られ、その拍子に唇が切れたのか、血がパッと散った。
「てめぇら、止め――」
正弘が、制止の声を上げようとしたが――
「ギャア! 」
手下の一人が悲鳴を上げ、飛び退く。
その腕には、刃物ですっぱりと切られた傷が刻まれていた。
「き、気を付けろ! こいつ、武器を持ってるぞ! 」
その声に、怯む手下たち。
この隙をついて、またしても少年は脱出を試みた。
だが、たった今、激しい暴行を受けた身だ。
最初のように、俊敏に動くことは叶わない。
ましてや、数多くの修羅場を踏んだ、極道の頭である正弘の隙をついて逃げ出す事など、不可能であった。
「うっ……」
「――まったく、とんだ子虎だぁな」
そう呟くと同時に、正弘はその腕の中に、少年をしっかりと捕らえていた。
一瞬遅れで、周りの幹部や手下たちが、親分を取り囲むように集まる。
「親分、大丈夫ですか!? このガキ――」
しかし、正弘の怒りの矛先は、捕らえた少年にではなく手下たちへ向かった。
「黙れぃ! この三下が!! 揃いも揃って、大の男共が何やってんでい! 」
「へ、へい……」
「こんなガキ相手に情けねぇ! てめぇら、破門だ!!」
「そ、そんな――」
戸惑う手下たちの始末を、幹部に任せ、正弘は腕の中の少年に目を落とした。
(味方のいない中、たった一人で、孤軍奮闘か――)
まるで、昔の自分を見ているようだった。
(……ま、オレのツラはこんなに良くなかったけどよ)
「おい、車を回せ」
「はい」
正弘の指示に、素早く車が用意される。
小さく笑いながら、糸が切れように意識を失っている少年を抱えると、正弘は車へ乗り込んだ。
――――少年の体は、驚くほど軽かった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【R18+BL】sweet poison ~愛という毒に身を侵されて……~
hosimure
BL
「オレは…死にたくなかったんだよ。羽月」
主人公の茜(あかね)陽一(よういち)は、かつて恋人の智弥(ともや)羽月(はづき)に無理心中を強制させられた過去を持っていた。
恋人を失った五年間を過ごしていたが、ある日、働いている会社に一つの取り引きが持ちかけられる。
仕事をする為に、陽一は単身で相手の会社へ向かった。
するとそこにいたのは、五年前に亡くなったと聞かされた、最愛で最悪の恋人・羽月だった。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ナラズモノ
亜衣藍
BL
愛されるより、愛したい……そんな男の物語。
(※過激表現アリとなっております。苦手な方はご注意ください)
芸能界事務所の社長にして、ヤクザの愛人のような生活を送る聖。
そんな彼には、密かな夢があった――――。
【ワルモノ】から十年。27歳の青年となった御堂聖の物語です。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
孤狼のSubは王に愛され跪く
ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない
Dom/Subユニバース設定のお話です。
氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる