彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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5 harsh reality

5-1

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 実際のところ、いつまでも気付かないフリをしているのも限界に近かった。

 どうして多生は、あんなにボロボロの状態で聖の前に現れたのか?

 一緒にシャワーを浴びた時点で、それとなく多生の身体を観察してみたが、特に大きな怪我や傷痕は無かったようであったが。

 しかし、限界まで体力を消耗して、過度に疲労困憊していたのは確かだ。

 数年ぶりに聖の事を思い出したので、急に会いたくなって訪ねて来たと言うよりは……何者かに追われて、頼る先に、やむにやまれず聖を選んだというのが真相だろう。

 愛などではなく、ただの消去法で。

――――分かってはいたが、もう少し甘い夢を見ていたかった。

 ストレートのバーボンをゴクリと飲み下し、聖は呟く。

「……ったく、夢の無い話だぜ」

 この独り言に、隣に座っていた男は「でもそれが訊きたかったんだろう」と返した。

「笊川多生という名前を耳にして、すぐに思い出したんだ。……昔、ちょっとだけ面倒を掛けた男だってな」

「あんた、オレの身体を使えるように・・・・・・しろって、あの人に命令したんだったな。おかげさんで、自分でも考えられないくらいに上達したよ」

 フンっと鼻で笑うと、聖はポツリと続ける。

「あの時は、あんたを疑っていた。多生が急に姿を消した本当の理由は、あんたが手を下した所為じゃないかって……」

 聖の心が、多生に大きく傾いている事を察知したこの男が、持ち前の悋気から凶行に走ったのではないかと勘繰っていた。
 聖の隣に座るこの男、青菱史郎は、それが不思議でない程嫉妬深い男だったからだ。

 もしもそうだったら、自分はこの男を許す事は出来ないと――。

 だが他の組員たちからの証言で、この男は無実だと知った。
 しかしその事で、余計に多生の行方が分からず途方に暮れることになってしまった。

 あれから時は過ぎ、もう二十年が経つ。

「ウィスキー、ストレートのダブルで」

 バーテンダーに声を掛けた聖を見遣り、史郎は呆れたように口を開いた。
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