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大人など、誰も信用できない。
誰にも頼るものか……そう思いながら。
その少年の名は、御堂聖。
姿を消した女教師の名は、畠山裕子といった。
十三で養護施設を飛び出し、あちこち転々とした挙句着の身着のまま上京して。
上野でヤクザ相手の大喧嘩の末に、そのヤクザの大親分、天黄正弘に気に入られ、住む場所を与えられた。
その後、機転の利く頭脳を買われた聖は、ゆくゆくは組の為に有能な経済ヤクザになるようにと、そのまま大学まで面倒を見てもらう事となった。
そうして組の仕事を手伝いながら、七年の時が経った頃。
聖が任せられたシマの、キャバクラ嬢やソープ嬢が詰めるアパートで騒動が起った。
アゲハという源氏名のソープ嬢が、組から借りていた借金を踏み倒した挙句、男と一緒に失踪したというのだ。
「くそっ! そのアマにまだ三百万の借金が残っているのに逃げやがったのか!?」
手下をつれ、アゲハのアパートに急行した聖が見たのは……地獄のような惨状だった。
部屋は足の踏み場もないほどゴミが散乱し、異様な腐臭を放っている。
板も畳もグズグズに腐っており、得体の知れないような虫まで湧いていたのだ。
アゲハが組から部屋を借りていた期間、一度も掃除しておらず、ここをただのゴミ溜めにしていたのが直ぐに見て分かった。
「こりゃクリーニングも相当かかりそうですね……」
「匂いもヒドイ! なんで今まで誰も気付かなかったんだ?」
手下たちが口々に悪態をつくなか、何かがゴミの中で蠢くのが聖の視界に入った。
よく見ると、それは薄汚い子供だった。
風呂にも入っていないのか、ひどく汚れ全身から悪臭を放っている。
そして、地獄の餓鬼のようにガリガリに痩せ細っていた。
子供の首には頑丈そうな犬の首輪が嵌められ、そこから伸びた鎖が柱に繋いであった。
――――どうして、声を上げて助けを求めなかったんだ?
そう訊いた聖に、子供は『にげようとすると、おかあさんとおじさんがぼくをなぐって、ごはんをくれないから』と、か細い声で答えた。
どうやら、アゲハは時々ここを訪れては、コンビニ弁当を新聞受けに突っ込んで、自身の住まいは、子供とは別の場所でヒモ男と優雅に生活していたらしい。
完全な、ネグレストだ。
アゲハは最後の数週間、ここに足さえ運んでいなかったようだ。
男と逃げたアゲハの行方は当然捜したが、ゴミと汚物しかない部屋には手掛かりになるようなものもなく、杳として行方は分からなかった。
仕方ないので、その子供は区に連絡して施設に保護させることにしたのだが……だが、最初にその子供が行ったのは施設ではなく、病院だった。
極度の栄養失調により心身共にかなりのダメージを負っており、深刻な皮膚疾患もあって、子供は見た目以上に重篤な状態だったのだ。
長く鎖で繋がれていた首には深い傷があり、壊死寸前であったという。
誰にも頼るものか……そう思いながら。
その少年の名は、御堂聖。
姿を消した女教師の名は、畠山裕子といった。
十三で養護施設を飛び出し、あちこち転々とした挙句着の身着のまま上京して。
上野でヤクザ相手の大喧嘩の末に、そのヤクザの大親分、天黄正弘に気に入られ、住む場所を与えられた。
その後、機転の利く頭脳を買われた聖は、ゆくゆくは組の為に有能な経済ヤクザになるようにと、そのまま大学まで面倒を見てもらう事となった。
そうして組の仕事を手伝いながら、七年の時が経った頃。
聖が任せられたシマの、キャバクラ嬢やソープ嬢が詰めるアパートで騒動が起った。
アゲハという源氏名のソープ嬢が、組から借りていた借金を踏み倒した挙句、男と一緒に失踪したというのだ。
「くそっ! そのアマにまだ三百万の借金が残っているのに逃げやがったのか!?」
手下をつれ、アゲハのアパートに急行した聖が見たのは……地獄のような惨状だった。
部屋は足の踏み場もないほどゴミが散乱し、異様な腐臭を放っている。
板も畳もグズグズに腐っており、得体の知れないような虫まで湧いていたのだ。
アゲハが組から部屋を借りていた期間、一度も掃除しておらず、ここをただのゴミ溜めにしていたのが直ぐに見て分かった。
「こりゃクリーニングも相当かかりそうですね……」
「匂いもヒドイ! なんで今まで誰も気付かなかったんだ?」
手下たちが口々に悪態をつくなか、何かがゴミの中で蠢くのが聖の視界に入った。
よく見ると、それは薄汚い子供だった。
風呂にも入っていないのか、ひどく汚れ全身から悪臭を放っている。
そして、地獄の餓鬼のようにガリガリに痩せ細っていた。
子供の首には頑丈そうな犬の首輪が嵌められ、そこから伸びた鎖が柱に繋いであった。
――――どうして、声を上げて助けを求めなかったんだ?
そう訊いた聖に、子供は『にげようとすると、おかあさんとおじさんがぼくをなぐって、ごはんをくれないから』と、か細い声で答えた。
どうやら、アゲハは時々ここを訪れては、コンビニ弁当を新聞受けに突っ込んで、自身の住まいは、子供とは別の場所でヒモ男と優雅に生活していたらしい。
完全な、ネグレストだ。
アゲハは最後の数週間、ここに足さえ運んでいなかったようだ。
男と逃げたアゲハの行方は当然捜したが、ゴミと汚物しかない部屋には手掛かりになるようなものもなく、杳として行方は分からなかった。
仕方ないので、その子供は区に連絡して施設に保護させることにしたのだが……だが、最初にその子供が行ったのは施設ではなく、病院だった。
極度の栄養失調により心身共にかなりのダメージを負っており、深刻な皮膚疾患もあって、子供は見た目以上に重篤な状態だったのだ。
長く鎖で繋がれていた首には深い傷があり、壊死寸前であったという。
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