73 / 83
7-14
しおりを挟む
土砂降りの雨の音に紛れるように、尾上はそのセリフを口にしたのだ。
自分の妄想がいきなり現実になったような感覚に、浅田は喜びよりも恐怖の方が勝った。
いや、恐怖というよりも、委縮したと言った方が正しいかもしれない。
そうして、口をついて出たセリフは我ながら最悪のものだった。
『――キモっ』
ああ、そのセリフがどれだけ尾上を傷付けたのか!
考えるだけで気が狂いそうになる。
あれからずっと、本当にずっと後悔している。
なんであの時、そんな心にもない事を言ってしまったのだろう。
すぐに謝罪すればよかったのに、どうしてそれさえ言えなかったのか。
(オレには、自信も勇気もなかったからだ)
スポーツも勉強もそこそこ出来たが、尾上と比べるとまるで勝負にならなかったのだから。
尾上は自分の事を低く見積もっていたようだが、実際のところ彼の方がずっと上だった。
周囲の視線など一切眼中にないとばかりに、己の道を突き進もうとする尾上は、高校の頃からずっと孤高の存在だった。
そう易々と手の出せない、高嶺の花のような人間だったのだ。
そんなハイレベルの人間から好意を寄せられたというのに、どうして自分は……。
(尾上を見習い、遅まきながら勇気を出して、大学を中退して平良として漫画家の道へと進んだ。親は将来、医者か弁護士になるよう期待を掛けていたが、それらは全部断った)
結局、勘当同然に家を出て、今に至るワケだが。
こんな事になるなら、最初から自分に正直に生きればよかったのにと繰り返し思う。
あの時、尾上の誘いに乗り、キスをすればよかった。
そうすれば今頃、もっと違う未来を生きていたに違いないのに。
◇
「……ゴメン。君が許す気はないっていうのは知ってるけど、やっぱり謝りたいんだ」
浅田はそう言うと、深々と頭を下げた。
自分の妄想がいきなり現実になったような感覚に、浅田は喜びよりも恐怖の方が勝った。
いや、恐怖というよりも、委縮したと言った方が正しいかもしれない。
そうして、口をついて出たセリフは我ながら最悪のものだった。
『――キモっ』
ああ、そのセリフがどれだけ尾上を傷付けたのか!
考えるだけで気が狂いそうになる。
あれからずっと、本当にずっと後悔している。
なんであの時、そんな心にもない事を言ってしまったのだろう。
すぐに謝罪すればよかったのに、どうしてそれさえ言えなかったのか。
(オレには、自信も勇気もなかったからだ)
スポーツも勉強もそこそこ出来たが、尾上と比べるとまるで勝負にならなかったのだから。
尾上は自分の事を低く見積もっていたようだが、実際のところ彼の方がずっと上だった。
周囲の視線など一切眼中にないとばかりに、己の道を突き進もうとする尾上は、高校の頃からずっと孤高の存在だった。
そう易々と手の出せない、高嶺の花のような人間だったのだ。
そんなハイレベルの人間から好意を寄せられたというのに、どうして自分は……。
(尾上を見習い、遅まきながら勇気を出して、大学を中退して平良として漫画家の道へと進んだ。親は将来、医者か弁護士になるよう期待を掛けていたが、それらは全部断った)
結局、勘当同然に家を出て、今に至るワケだが。
こんな事になるなら、最初から自分に正直に生きればよかったのにと繰り返し思う。
あの時、尾上の誘いに乗り、キスをすればよかった。
そうすれば今頃、もっと違う未来を生きていたに違いないのに。
◇
「……ゴメン。君が許す気はないっていうのは知ってるけど、やっぱり謝りたいんだ」
浅田はそう言うと、深々と頭を下げた。
11
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる