今日くらい泣けばいい。

亜衣藍

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「中身が空っぽだと、どんなに着飾っても所詮は無様な道化者だと、平良先生はそんな皮肉を込めてこのタイトルを付けたんだ」

 カチリとライターの火を点しながら、甲斐は苦笑を漏らす。

「で、お前はその平良先生と……もしかして、過去に何かあったのか?」
「……」

「言いたくなかったら、別に言わなくていい。根掘り葉掘り聞くのはオレの趣味じゃないからな。ただ、イエスかノーで答えてくれ」

 そこで一度言葉を切ると、甲斐はタバコを燻らせながら、独り言を口にするように呟いた。

「平良先生の担当を、外れたいか?」
「え? 別に、仕事なら――」

「仕事がどうしたとかは関係ない。嫌だったら正直に言ってくれ。返答次第では、先生とは二度と顔を合わせないようにオレの方で調整する」

 甲斐の言葉に、尾上は無言になった。
 今回限りで平良浅田の担当を外れ、あとは、別の連載漫画のファッション特集を組む編集者に回りたいと、そういう話をしていたのは事実だ。

 なので、甲斐とタッグを組むのも、今回が最初で最後になる可能性が浮上している。

(正直な感想を言えば、最初からこの人とは合いそうもないと思っていた。言動が粗野で横柄な上にタバコ臭いし、無精ヒゲに加えてシャツの襟が汚れているし。何一つ、オレの好みには当てはまらない)

 では、どのようなタイプが尾上にとって好ましいかと言うと、上品で公家のような面持ちをした作家の右近涼真や、野性的で南米モデルのようにスタイルが良い漫画家の左文字悠斗が当て嵌まる。

 あとは、BL編集部の守谷編集長のように、知的で仕事の出来る男も好ましいと思う。

(そうだよ。オレは、知的で才能のあるインテリタイプが好きなんだ。甲斐さんのように、男臭いタイプは――)

 一瞬、日焼けした顔の、高校生の時の浅田の顔がフラッシュバックした。

 そこで初めて、尾上は気付いた。
 甲斐は、どことなく浅田に似ているのだ。
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